17.宴
ぽおん、という音が鳴った。
男は手にした薄緑色の果実――メロンを囓るのを止めテーブルの上に置くと、窓際に寄ってカーテンの隙間から外を見た。
玉砂利を敷き詰めた庭の向こうにあるスチール製門扉の前で、緑の帽子に緑のジャンパーを着た男が、段ボール箱を小脇に抱えて立っていた。
緑の男はもう一度、インターフォンのボタンへと指を伸ばした。もう一度、チャイムが鳴った。
室内の男は、宅配人がやがて諦め、不在票をポストに投函し立ち去るまで、その姿を無表情にカーテンの隙間から眺め続けていた。
夜になり、男はそっと玄関の扉を開けた。
素早く目を走らせ、家の周囲に誰もいないのを確かめると、小走りに庭を横切り、門に備え付けられたポストへと走った。
中から幾枚かのチラシと、折り畳まれた灰色の紙束――数日分の新聞と、さっきの配達員が残した不在票を取り出すと、外に現れたときと同様の俊敏さで玄関へ取って返し、家の中へと身体を滑り込ませた。
男は配達員が投函していった紙片――不在票をしばらく観察していた。が、やがて首を振ると、三和土の上にうずたかく積まれた紙の山――新聞やチラシの上に、それらを重ねた。
男は玄関から脱衣所へと歩いていくと、浴室の前に立ち、扉を開け放った。
三つの死体がそこに転がっていた。
苦悶の表情も生々しい背広姿の中年の男。眼を見開き驚愕の表情を浮かべ息絶えている、Tシャツ姿の若い男。そして未だ何が起こったのかわからないような表情を浮かべたまま額を割られ死んでいる、五十代の中年女。
それらが浴室の洗い場に重ねられ、放置されていた。
男は鼻をひくつかせ、屍臭を嗅ぐと、わずかに眉間に皺を寄せ、浴室の扉を閉じた。
翌日の夕暮れ近く、男は荷物をまとめ、その家を出た。
出る直前に室内を漁った結果、ちょうど寸法の合う細身の藍色の下衣と、黒く光沢のある上衣とが見つかったので、それをまとい、いつもの白木の杖を握りしめ、通りへと忍び出た。
男は人気の少ない裏路地を選び、早足で歩き続けた。数分おきに通行人とすれ違ったが、関心を払ってくる者は、誰もいなかった。
歩き始めて小一時間ほども経った頃、男はようやく歩をゆるめた。
ときおり家の門の前で立ち止まっては、値踏みするような鋭い眼差しで、邸内を眺め回す。そうやって何軒かを物色した後、突然、男は後ろから呼び止められた。
振り返ってみると、藍色の装束に身を固めた男が立っていた。
「ちょっと待ってもらえます?」
男が歩を止めると、藍色装束の男――警官はゆっくりと近づいてきて、素早く男の全身に目を走らせ、白木の杖を指差し言った。
「その棒は何ですか?」
答えずにいると、警官はにわかに恫喝的な口ぶりになり、言った。
「その棒を渡して、身分証明書を見せなさい」
男は従う代わりに、口の両端を大きく持ち上げ、嗤った。