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「殿、そんな事を――」

 豊臣政権は幸村さんから話を聞くと、順調に基盤を築いているようだった。

 おれは勝家ならばと確信していたんだが、期待にたがわず、彼は驚くほどの才能を発揮しているのが分かりほっとした。

 それならば、安心して結菜さんのお城見物に付き合っても良い。

 そんな事を思い始めた時、


「出会えーー」

「曲者!」


 何やら騒がしい声が聞こえて来る。


「幸村さん、何か有ったんですか?」

「いや私もまだ……」

「行ってみましょう」


 声のする広間に来てみると、数人の武士が刀を抜いているではないか。


「ギッギッーー」


 ――あちゃ――


「嘘だろう!」

「殿、何か分かるのですか?」


 幸村さんは思わずおれを殿と呼んでしまった。


「いや、あいつは」


 魔物がここまで付いて来ていたのか。


「殿」


 また殿と呼ばれ、振り返ると安兵衛が居るではないか。新しい殿様の身辺警護を引き受けていたのだが、やはりまだおれを殿と呼んでしまう。

 しかし魔物は安兵衛が手を出すまでも無く、数人の武士の手で仕留められた。

 その死骸を見ていると、


「おおっ」


 周囲のざわめきの中で、流れ出た血も何も瞬時に消えてしまった。

 おれも初めてその光景を見て納得した。確かにこれはゲームの魔物に違いない。

 だが一体何匹居るんだ。

 それに、もっとランク上位の奴が出て来たら太刀打ち出来るのか……


「あの、お料理はどうやって作っているのかしら?」

「はっ?」


 振り返ると、後からゆっくりやって来た結菜さんがおれを見ている。


「別におなかが空いているわけじゃないですよ」

「…………」

「ただちょっと気になったものですから」

「…………」


 おれは幸村さんに頼んでお女中でも紹介してもらい、城内を案内してもらう事にした。


「それでしたら佐助が良いでしょう」

「そうだ、佐助が居たんだ」


 呼ばれて来た佐助はまたまた変化したおれに驚いていたが、結菜さんの面倒を見てくれる事になった。






 おれは別室で一人になると、トキに声を掛けた。


「トキ」

「なあに」


 今は腰元に転生している訳ではないので、その姿はおれにしか見えない。


「困った事になったな」

「そうね」


 このままだと魔物は何体出てくるのか分からないではないか。

 さらに心配なのは、どんどん魔物がランクアップしてきたらどうするのか。対抗するのが侍だけでは面倒な事になる。おれもゲームをしているから良く分かる。下手したら際限なく強力な奴になって来るに違いない。


 最初はトキが居たから出て来たとしても、次はおれだけでも出て、今度はおれも居ない場所で出て来た。おれやトキに関係なく出て来るようになったのか。

 トキもいい解決策が思いつかないと言った感じでおれを見た。





「殿、大変です」


 幸村さんがおれに声を掛けて来た。いざとなるとやはり殿と言ってしまうようだ。


「お連れの方が……」

「お連れって、結菜さん」


 結菜さんが魔物に襲われていると言うのだ。


「何処ですか?」

「あの、普段は男子禁制の場所なんですが」


 幸村さんはそんな事今は言っている時じゃないと、おれを連れに来たのだった。







 佐助が床に倒れている。


「佐助!」


 なんだこれは。見ると得体の知れない化け物が結菜さんを捕まえているではないか。駆けつけたおれの前でとぐろを巻いている奴は、今まで出た二体の魔物とは、一見比べものにならない邪悪さで、レベルが明かに違っていそうだ。


「くそ」


 やっぱり恐れていた事が現実になってしまった。


「殿」


 振り向くと安兵衛も駆けつけて来た。


「殿、離れていていてくだされ」


 安兵衛は刀を構え、じりっじりっと化け物に近づいて行く。


「ギッギッギッーー」

「安兵衛、結菜さんが!」


 安兵衛も確かに迂闊には切り込めない。

 だが時間が無い。結菜さんは意識が無いのかぐったりしている。


「トキ、合図をしたらおれをあいつの側に移動させてくれ」

「殿、そんな事を――」

「大丈夫だ」


 おれは腰から警棒タイプのスタンガンを抜き出した。

 これが効かなきゃアウトだが、もうやるっきゃない。


「ギッギッギッーー」


 化け物が向きを変えようとしたその時を狙った、


「トキ、頼む」


 おれの立ち位置が瞬時に変わった。


「やろう!」


 次の瞬間、おれは化け物の懐にスタンガンを打ち込んでいた。


「ビチッーー」


 短い衝撃音のような音がして、青い閃光が走る――


「ギッギッギッーー」


 





「佐助、結菜さん、大丈夫ですか?」

「…………」


 おれは床に倒れている佐助と結菜さんの側に駆けつけた。幸い気を失っているだけで、二人とも怪我は無いようだ。

 化け物は瞬時に消えてしまい、やはりスタンガンの電撃攻撃には弱い事が分かった。しょせんプログラミングで作り上げられた怪物なのだ。

 本当は実体などない架空の化け物。だがリアル世界に来れば実体化しているし、受けるダメージは現実になる。そこが厄介な点だ。

 次々と現れる架空の化け物をどうしたら退治出来るのか。


「トキ」

「そうね、リアル世界に来させなければいいんだけど……」


 現代にゲームがはびこっているのは、どうしようもない事実だ。その魔物や化け物をリアル世界に呼び出してしまった。

 今更後戻りは出来ない。


「どうするか」

「じゃあ勇者を呼んでみたら」


 声を出したのは起き上がった結菜さんだった。


「結菜さん、大丈夫なの?」

「ええ、もう大丈夫です。突然の事でびっくりしてしまったんです」

「あの、結菜さん」

「はい」

「勇者って」

「あのモンスターには見覚えが有ります」


 何と結菜さんはゲーマーでもあったのだ。


「あの怪物の名はニョロンガキラーと言います」

「はっ?」

「しかも甘党でケーキが大好物なんです」

「なんじゃそりゃ」


 まあ架空の怪物なんだからニョロンガだろうがニャロンガだろうが、何でもいいんだけど、ケーキが好物って強いんだか弱いんだか……

 せっかく教えてくれた貴重な情報でも、解決には結びつかないな。

 ところが、すぐそんな思案も吹っ飛ぶ出来事が起こった。


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