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――嘘だろっ――

 今日はデートだ。

 前回はとんでもないことになったが、出直しだな。

 おれの前にはやっぱりいつ見ても可愛いガイドさんが居る。もちろんおれはおしゃれをして来た。ばっちりだと思う。


 ガイドさんの名前は結菜ゆいなさん、しかもおれの名前は何と、結翔ゆいとだ。偶然にしては出来過ぎ。互いの名前を知ってから、二人の距離が一気に縮まったと思うのはおれだけか。


 待ち合わせの場所はいつもと同じ大阪城跡地だったが、少し歩いておしゃれなカフェに入った。おれは甘党だし、結菜さんも飲み物とケーキを注文する。

 

 店内にはハードロックカフェと言う店名らしく、旧世代で活躍したロックスターの写真や、ゆかりのギターが壁に展示してある。

 雰囲気は最高だ。


 もちろん二人の会話は戦国時代にさかのぼる。

 おれは真田幸村のファンなのだが、結菜さんは人物よりも城に興味があると言う。日本中の城を訪ね歩くのが夢だと話し始めた。特に戦国時代の城郭となら結婚してもいいと言うほどの、ちょっとあぶないお城オタクだったのだ。

 だが、おれがおいしそうな抹茶ケーキを一口と思ったその時、


「ギッギッーー」

「んっ」


 ――まさか!――


「結菜さん、今何か聞こえませんでしたか?」

「えっ」

「ギッギッーー」


 ――嘘だろっ――


「何でここに出るんだよ!」

「どうしたんですか?」


 結菜さんはびっくっりして、突然立ち上がったおれを見た。


「あいつだ、あの声が聞こえるでしょう」

「えっ、声?」

「…………」


 トキの引き寄せた魔物は一匹だけではなかったのか。だけどまずいな、もしかするとおれだけに聞こえて、結菜さんには聞こえてないのでは。

 おれだけが襲撃を受けるという事だとすると、周囲の助けは受けられない。

 まずい、これは非常にまずい展開だぞ。


 もうトキも安兵衛も居ない。おれ一人であいつと戦うのか!

 前回やられた手の傷もまだ癒えてないのに。テーブルに有ったナイフとフォークを両手に握りしめる――

 だが、それっきり声は聞こえなくなってしまった。


「結菜さんには聞こえなかったんですか?」

「どんな声ですか?」

「あの、ちょっと不気味な……」

「…………」


 その後のデートは最悪な結果だった。思わぬ魔物の出現におれの意識は吹っ飛んで、デートどころではなくなってしまった。

 結菜さんと何処に行ったのか、何を話したのか全く覚えていない。

 気が付いたらおれは自分の部屋に帰っていた。もう初デートがめちゃくちゃだ。結菜さんには悪いことをした。おれに対する評価も最低になっただろう……



 翌日結菜さんから連絡が有った。


「大丈夫でしたか?」

「あ、結菜さん、昨日はすみませんでした」

「結翔さん具合が悪そうだったので……」

「いや、もう大丈夫です」


 おれは思い切って、全てを話してしまう事にした。

 おかしな人と思われてもいいや。そんな決心をして、結菜さんを誘った。そして再び大阪城跡地で待ち合わせをしたのだった。




「結菜さん、実はおれ戦国時代に行って来たんです」

「えっ~~、うらやましい!」

「はっ」


 いや、普通は何を言い出すのって反応でしょ。うらやましいって……


「じゃあ、秀吉の建てたお城も直接見たんでしょ!」

「あ、まあ、確かに」


 秀吉のお城を見たとか、そう言う事じゃなくって、転生なんて信じられない出来事が起こったんだよ。結菜さんって、かなり楽天的と言うか……


「わあ、私も行ってみたいな」

「…………」


 時空移転や転生などと言う信じられない事態をどう説明したらいいのか、ここに来る道筋でさんざん考えながら来たんだが、おれは完全に調子が狂ってしまった。


「あの、トキという名の時空を超えた存在の人が居て、その方から転生させられたんだけど」

「中にももちろん入ったんでしょ」

「えっ?」

「城の中よ」

「あ、それは、入ったんだけど……」


 ――全くかみ合ってないな――


「えっ~~、私も行きたい!」

「…………」


 ――だめだ、こりゃ――


「ねえねえ、結翔さん」

「えっ」

「そのトキさんって方に連絡して。私も連れて行って欲しいの」


 そんな簡単にトキと連絡が取れれば苦労はしない。

 この後結菜さんに分かってもらうのに要した時間の長さは、考えないでおこう。


「携帯の番号とか聞いてなかったんですか?」

「あ、それは……」


 もう少し時間が掛かりそうだな。

 それにしても携帯かあ、そんなんで話が出来たら……

 おれはアイフォーンを取り出して試しにトキと打ってみた。結菜さんがおれの手元を真剣に見ている。

 だが、打ち込んでいるうちに、おれも本気になってしまい、携帯を耳に当てた。


「殿」

「えっ」

「迷惑を掛けてしまったわね」

「トキなの?」


 おれは心臓が飛び出しそうになった。トキと話が出来るではないか!


「例の魔物は私が引き寄せてしまったでしょ。気になって帰った後も注意して見ていたの」

「あの……」

「でも今私が不用意にそこに行くと、また出て来てしまうかもしれないわ」





 結局魔物も今は出て来ないみたいだから、しばらく様子をみよう、そう言う事になった。だけどカフェで聞いた声は、間違いなくあいつだった。おれの部屋でもないのに出て来たってことは……

 これはまたいつ何処で出て来てもおかしくないな。護身用にナイフか何かを持ちたいが、それはちょっと出来ない。


「そうだ!」

「えっ、行けるんですか?」


 結菜さんが目を輝かせた。


「あっ、いや、そういう事じゃなくって……」


 スタンガンだ。ロングバトンタイプと言って警棒のような物が、三万前後の値段で買えるって聞いた事があるし、強力だそうだ。

 おれはすぐアイフォーンで検索し、通販で注文をした。

 魔物はネットとか、ゲームの中で表現されている架空の生き物じゃないか。だったら電気ショックだ。電源をパワーの元にするスタンガンなら有効かもしれない。


 だけど、すぐ心配になって来た。もしかしてあいつは雑魚レベルの奴?

 だとしたらトキに来てもらう事は、めちゃくちゃ危険だ。万が一ラスボスクラスのモンスターが現れたら……

 やはりここは当分おれ一人で対処するしかない。


「結菜さん」

「えっ」

「戦国時代はいつか行きましょう」

「行けるのですか?」


 それはなんとも言えないけれど、現におれは二度も行っているのだから、まあ不可能ではないな。


「きっと行けますよ」


 すると結菜さんは「お城」と一言言って、また目を輝かせた。


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