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 任されるんじゃなかった。


「ほらルージュお姉ちゃん、次はこの鉱石を粉々に砕いて」


「ふぁい」


 なんということだ。


 私が愚かで浅はかだった。


 いろいろ手伝うとミルに言ったはいいが……いいが……地味なのだ。

 とんでもなく作業が地味なのだ。


 勢いでバーンで終わりだと思っていた。


 私の前に並べられた数種類の鉱石。

 打ち上げ魔法を作るには、それぞれを砕いて加工するなど手順があるらしい。


「ねぇ、面倒だから爆発魔法で全部粉々にしちゃダメかな」


「僕達まで粉々になっちゃうよ!」


「大丈夫だよ、私は魔物博士だから」


「大丈夫じゃないよ! 魔物博士でもやっていい事と悪いことがあるよ!」


 ダメらしい。


 私は鉱石をひたすら砕き、ミルはその鉱石をそれぞれ団子にする作業をしている。

 よくわからんけど後でまとめてそれに魔力を注ぎ込むとのこと。


 でも既に私の忍耐は限界だ。


「もうムリ疲れたー!!」


 手足を投げ出して、休憩。


 もうだいぶ鉱石は砕いたはずだ。ミルの作った団子もかなりの数になっている。

 私は頑張って手伝ったんだから、もう充分だと思う。もう休憩だ。


「ほら、ルージュお姉ちゃん。水だよ」


 ミルが気を利かせて水を持ってきてくれた。

 こいつ神か。


 だが待ってほしい。疲れ切った私は、そんな水ごときで懐柔されるような安い女ではない。


 飲む。


「うまい!!」


「ルージュお姉ちゃん、ありがとうね。本当は、もう打ち上げ魔法を作るのは無理かと思ってたんだ。はじめはお母さんと少しずつ魔力を込めて作る予定だったんだけど、お父さんが亡くなってからお母さんも働くのに忙しくなっちゃって……」


 ミルは悲しそうに並べた団子を見つめている。

 私が手伝わなかったら、作るのを断念するしかなかったんだろうか。


 でも確かに、わざわざ魔力を無料で分けてくれる人もそうそういないだろうし、申し訳程度のお金を出せたとしても一緒なんだろう。


 魔族みたいに力で解決する方法も人間界では難しいだろうしミルならなおさらだ。


「ミル、お父さんの魂が迷っていないか調べるぐらいなら、いつでも悪魔神官とかに頼んで確認してやるからちゃんと相談するんだよ」


「悪魔神官だと余計迷子になりそうだよ! 魔物博士の人脈どうなってるんだよ!」


 ダメらしい。


「でも気持ちはありがとうね。打ち上げ魔法も、あとは団子をまとめて玉にして、魔力を込めたら完成だからあと少し頑張ろう?」


「うん頑張る」


 ミルはテキパキと団子を容器に詰めだした。

 どうやら団子も入れる順番や配置があるらしく、頭を悩ませながら必死に詰めている。


 ミルはまだ小さいから、側から見たら団子遊びをしているように見えるかもしれない。でも、ミルの表情は真剣だ。

 それだけ本気で打ち上げ魔法を作りたかったんだろう。


「下準備はできたよルージュお姉ちゃん」


 ミルから手渡された打ち上げ魔法は、抱えるくらいの大きさの、団子の詰まった球だった。


「これに魔力を込めていけばいいの?」


「そうだよ、団子にした鉱石は魔力を吸収して溜め込むことが出来る物なんだ」


 なるほど、よくわからんけど魔力を突っ込んだらいいらしい。


 試しに少しだけ魔力を込めてみる。

 ジワっとした感覚で魔力が吸い込まれていくのがわかった。

 だけれどもしかしたらこれは簡単な作業ではないかもしれないというのが率直な感想だ。


 私は細かい魔力操作が苦手だ。

 感覚としてこの打ち上げ魔法に魔力を均等に浸透させるには、繊細な魔力操作が必要となる。

 それが私は苦手だ。


 だったら、気合いで魔力を詰め込んで圧縮させまくるしかない。


「よし、ぬ、うぉりゃぁぁぁあぁあぁぁああ……!」


「ちょっとルージュお姉ちゃん、女の子が出しちゃダメな声が出ているよ!」


「大丈夫、私は魔物博士だから!」


「なんでも魔物博士って言っておけば通ると思っているよね!?」


「ミル、やばい……」


「今度は何!?」


「お姉ちゃんいま本気で頑張ってるんだけど、頑張りすぎてオナラでちゃうかもしれない。そしたらミルがした事にしてもいいかな」


「ダメに決まってるでしょ! オナラを人のせいにしちゃダメだよ!」


「でもミルを手伝ってオナラが出たなら、巡り巡ってミルのせいだと思うの」


「それでも実行犯はお姉ちゃんだよね!?」


「……え?」


「え? じゃないよ!」


 それでもどうにかこうにか、魔力を詰め込む事が出来た。依頼達成だ。


「出来たー!」


「やったー!」


 私は打ち上げ魔法を掲げ、ミルは飛び跳ねて喜んだ。


 この打ち上げ魔法は頑張った甲斐もあって、なかなかの仕上がりになったと思う。


「お姉ちゃん、今から時間ある? せっかく手伝ってくれたんだから、今から一緒に打ち上げに行こうよ」


 ミルが覗き込むように聞いてきた。その瞳は早く打ち上げたくて仕方ない、といった様子だ。


「時間はあるけど、いいの? お母さんにも見てもらわなくて」


「うん、お母さんからはどんなに小さな打ち上げ魔法でもいいから打ち上げたら教えてね、とだけ言われてるんだ。お仕事で忙しいからね」


 そうか。そうなると、ミルは私がいなければ一人で打ち上げる事になる。それはそれで少し寂しいのかもしれない。


「わかったよ、一緒に行こう」




 ◇◆◇




 そうして私達は夕暮れの中、手を繋ぎながら街を歩いた。ミルは胸に打ち上げ魔法を抱えて。

 重たいだろうに、それでもニコニコしていた。


「僕ね、大きくなったら打ち上げ魔法を作る職人になりたい。みんなが亡くなった人をちゃんと送れるように、安くて腕の良い打ち上げ魔法を作れる職人になりたいんだ」


 そう話すミルの横顔は、子供のものとは思えないほどしっかりしていた。


「そっか。じゃあ、ミルが職人になったら今度は私が依頼にいくよ」


 そう言うと、ミルははにかんだように笑った。


 街をゆっくり歩いていくと、日が落ちて辺りは暗くなり、周りの家に灯りがつきだした。

 私達は街はずれに向かって歩いた。


 街の中に流れる川を渡った先の河原に辿り着くと、ミルはそこで歩みを止めた。

 そこは開けた場所で、中心部に何やら機材が置いてある。


「ここが打ち上げの指定場所だよ」


 ミルは繋いだ手を離すと玉を抱えて歩いていき、機材の中に玉を入れた。そうして、ゆっくりと戻ってくる。


「これであとは火を筒に入れるだけ。ルージュお姉ちゃん、火球を使えたらお願い」


 そう言ったミルの表情は、影になってよく見えなかった。


「そっか。それじゃあ、いくよ」


 私は小さな火球を作ると、筒に投げ入れた。

 直後、


 ボンッ!!!


 という重低音が鳴り響き、凄い勢いで打ち上げ魔法が空に飛んでいった。


 打ち上げ魔法と言うから飛ぶとは思っていたけれど、こんな勢いとは思っていなかったから正直体がビクッとなった。


 空高く飛んでいった打ち上げ魔法は夜空に溶け込み消えたかと思うと、しばらくして、ドンッという爆発音と共に夜空に輝く大輪の花を咲かせた。


 中心部から放射線状に飛び散る白い光。

 きっとあれは魔力と鉱石が燃えながら輝いてるんだろう。


 その光は、次第に白色から青色へ、青色から赤色へ、ゆっくりと色を変えながら大きく広がっていった。


 とても鮮やかで新鮮だった。こんなの魔族領では見たこともない。


 私はその鮮やかな打ち上げ魔法を黙って眺めていた。


 ミルは今どんな気持ちでそれを眺めているんだろう。私からは後ろ姿しか見えないため、よくわからない。


「ねぇ、ルージュお姉ちゃん。お父さんは、きちんと天国に行けたかな。僕はきちんと弔ってあげる事が出来たのかな」


 ミルが震える小さな声で呟いた。


「それはわからない。わかるはずもない」


 けれど。


 私はミルに約束したんだ。

 きっちり打ち上げ魔法を手伝ってあげると。


 だから、何が何でも叶えてあげる。


 だから、私は仕込んでいたんだ。


 私はそっと夜空に左腕を掲げ、パチンと指を鳴らす。


 直後、打ち上げ魔法の中心部で圧縮された魔力が爆発し黄金色の輝きを放つと、その光は連鎖しながら広がっていき、そのまま打ち上げ魔法の末端まで黄金の光を波及させると特大の音と光を放った。


 その光は、街を世界を黄金色に染め上げると、糸を引きながら世界に降り注いだ。


「わからないけどさ。ここまでやれば、ミルのお父さんも道に迷う方が難しいんじゃないかな」


 ぶっきらぼうにそう言うと、ミルはこちらに振り返って涙と鼻水でベッタベタになったブッサイクな顔で微笑んだ。





 ◇◆◇





「ユウはいるかー!!」


 勢いよく事務所のドアを開けると、不機嫌そうなユウがそこにいた。


「おいルージュ、なんだ今日の――」


「よーし起きてるな、お腹すいた! 晩ご飯食べに行くぞ!」


 なんか言ってるけど関係ない。私は頑張ったからお腹が空いたんだ。


 ユウの腕を掴んで引っ張る。


「おいルージュ、晩ご飯なんていっても代金はどうするんだよ。払える金をお前は持ってないだろ。外食なんて贅沢出来ないぞ」


 またなんか言ってる。


「ああもう、ユウがグースカ寝ている間に私が依頼をこなして来てやったから、お金ならある。これを見るがいい」


 そう言ってポケットから取り出したのは小さな銀貨。

 よくわからんババアが刻まれたこの銀貨に何ペルンほどの価値があるかは知らないけれど、晩ご飯代くらいにはなるだろう。


「お前ひとりで依頼をこなして来たのか?」


 ユウが驚いた顔をしてる。失礼な。


「そうだ。私を見くびってもらっては困る」


「あぁもうわかったよ、そのコインはしまっとけ。お前の初の個人報酬なんだから」


 そうユウは言うと、私の頭をワシャワシャして、そのまま一緒にご飯を食べに行って、外食のご飯代をユウの財布から払ってくれた。


 こいつは身勝手に魔王城まで来て暴れていった前科のあるクソユウだが、力の強い奴が正しい魔族としては恨みも特にないし、こいつもたまに優しい所がある。

 今日グースカ寝ていた罪は忘れてやろう。


 私が受け取った銀貨は記念品だとかいってペンダントトップとチェーンとを組み合わせてネックレスにしてくれた。

 これは私の宝物にしよう。


 今日もまたいつものように変な体勢で倒れたユウの胸板を枕にして、報酬の銀貨を眺める。


 なんだかいろいろあったが楽しかった。

 知らない所に来てみると新しい発見もあるもんだ。ミルの夢が聞けた事も嬉しい。


 それにつられて、じゃないけれど私にも小さな夢が出来た。

 ミルがいつか一人前の打ち上げ魔法職人になったら、私はありったけの打ち上げ魔法を依頼するんだ。


 ユウに恨みはないけれど、それでもあの戦いで多くの魔族が倒された。

 ゴミみたいな奴らばかりだったけど、それでも大切な仲間だった奴らだ。


 そいつらへのせめてもの手向けではないが、空一面に広がる打ち上げ魔法を見たらあいつらだって少しは喜んでくれるんじゃないだろうかって思うんだ。


 そんな夢を持つことは私のワガママなんだろうか。


















 それにしても、ミルの夢が魔物博士でないことに対しては少し納得がいかない。


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