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6 ルージュ編

 

「ん……」


 目を覚ますと、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。もう昼頃なのかな。


「くふぁー」


 大きく口を開けて、あくび。

 あ、ヨダレが抱き枕に落ちた。まぁいいか。


 この抱き枕、兼、暖房器は割と優秀だ。

 程よい弾力と暖かさ。特に腰の部分に頭を乗せると、窪みに頭がちょうど収まって具合がいい。


 クソ憎たらしいユウだが、抱き枕としての才能は認めるしかないだろう。


 難点としては、枕として使うためにユウを気絶させなくてはいけない所か。毎日使うのが難しい奴だ。

 それに私が安眠出来るだけの時間気絶させるための力加減が難しい。


 最近はこいつボディーブローを警戒するようになってきた。生意気な。


 いつも気絶したユウをちゃんと位置調整し、うつ伏せに寝かせた後は気道を確保してやってるし、腰にしがみつくよう寝るのが好きな私でも、ユウが変な角度で倒れた場合にはしぶしぶ仰向けで胸板や腕を枕にするなど工夫している私の苦労も考えて欲しい。


 まぁいいや。


 ベッドから這い出て、部屋の隅にハンガーでかけてあった服を着る。

 基本的に服は魔法でコーティングしてあるから汚れなくて助かる。

 少し手の込んだ意匠の黒ワンピースを着て腰にベルト、首に赤いストールを巻きつけて、はい完成。


 ユウから奪……貰った赤いマントを勝手に加工したストールは、どうやら全属性耐性があるらしい。

 有り難く頂戴した。


 さて、今日はギルドに顔を出す日だ。


 どうやら定期的にギルドに顔を出して依頼を受けるか生存報告をしないと登録が抹消されてしまうらしい。

 クソ面倒くさい。


 しかも今日ギルドに行こうと誘った張本人は、未だにベッドで横になっている。コイツたるんでるわ。


 まぁいいや。

 どうせ暇だし私がユウの分まで行ってきてやるか。パーティー登録さえしてあれば生存報告は誰かパーティーの1人で問題ないらしい。

 2回に1回は本人が行かないとダメらしいけれど、前回は2人で生存報告しているから問題ない。


 ギルドカードを適当な巾着袋に入れて、はい準備完了。


「いってくるよー」


 一応声を掛けてみたら、ユウは今ごろ目を覚ましたようでもぞもぞと動き出した。


「なんか腹立つ…………ふんっ!」


「ぐふっ!! なん……で……」


 腹に一撃。


 なんでコイツは珍しく私がお使いに行ってやろうとしたこの貴重な機会に起きるんだ。アホなのか。

 お前は大人しく寝てたらいいの。


 ふんす、と鼻息ひとつして、さぁギルドに出発。





 ◇◆◇





 ギルドの扉を開けると、中はいつものように有象無象で溢れていた。

 コイツら昼間から何してるんだろう。


 ま、気にする事じゃない。

 巾着袋をぐるぐる振り回しながらカウンターに向かう。


 途中、周りからは「こんな可愛い子いたか?」などと聞こえてくる。


『カワイイ』って何だ。容姿に関した言葉だろうがよくわからん。

『カッコいい』ならわかる。輝く鱗だったり、棘のついた尻尾だったり。

『カワイイ』という独自の基準があるんだろうが人間はよくわからん。


 それに、ギルドという仕組みも人間特有のものだと思う。

 魔族の常識であれば欲しいものは自分でなんとかするか、力ずくで奪うものだった。強い奴が正義。

 だからこそギルドなんてのも理解出来ない。

 まぁ、雑用を頼んだりも出来るようなので便利なのかもしれないけど。


「生存確認に来てやったぞ、手続きよろしく」


 そのまま歩いてギルドカウンターでカードを出すと、受付は少し驚いたように目を見開いた後、手続きを始めた。


 普段あまり見かけない奴が来たから驚いたんだろうか。それにしてもただ待つのも退屈だな。いつもならユウの脇腹を突いて遊ぶのに。

 そう思って突っ立っていたら受付が話を始めた。


「そういえばオークキング討伐の依頼を貴方達に斡旋したのは私なのですが、結局受けて頂けたのですか? 新聞で村は魔物を退けたと書いてありましたが」


 あぁ、コイツがあの依頼をこっちに振ったのか。


「すっごいとりっぱだったぞ」


「とりっぱですか?」


「うむ、とりっぱだ」


「よくわかりません……」


 奇遇だな、私もだ。


「……それにしても、ユウさんとルージュさんって不思議です。指名依頼だけでやっていく冒険者なんて他にいないのに。そもそもお2人はどういったご関係なのですか?」


 話題に困った苦し紛れの話題だろうか。

 とはいえ真面目に考えてみる。


 私は人間界を見てみるつもりでユウと一緒に来たが、ユウには「腹が立ったら暴れてやる」と常に脅している。


 ユウはというと「美味いものが食べたければ人の世界に馴染め。暴れて人殺しなんてしたら何度でも復活して必ずお前を殺してやる」と私を脅している。


 そうだな……


「お互いがお互いを脅し合っている関係かな」


 そう返答すると、受付は少し驚いたようで「バイオレンスなんですね……」とコメントした。


 どうなんだろう。魔族だったら脅し合うとか、利用するとか普通なんだけどな。


 ああそういえば、まだあったか。


「あいつ私の全裸を見た時に全然カッコよくないって言いやがったから険悪な関係だわ」


 そう言ったら隣のカウンターにいた冒険者が鼻水を吹き出した。きたねぇ。

 小声で「羨ましい……」とか呟いてる。こいつモンスターの魅力がわかるとは、なかなか見所があるな。

 私はお前の鼻水を飛ばす才能が羨ましい。


 受付は顔を真っ赤にしていた。


「あの、ユウさんとルージュさんはえっと、そういう……ご関係なのですか……?」


「? そういうご関係だ」


 お互いに険悪な関係だ。


「そそそそういえば、いまお時間ありますか? とても簡単な依頼がギルドに入っているのですが、よよよければ引き受けていただけないかなとと」


 受付は相変わらず顔が真っ赤だが、どうしたんだろうか。


「多少なら時間はあるぞ、どんな依頼だ」


「あそこのテーブルに座っている男の子なのですが、魔力を分けて欲しいようなんです。よければ話を聞いてあげてください」


 受付は手続きが終わったのかギルドカードを返却しながら教えてくれた。

 まぁ、ギルドからの斡旋なんてどうせロクでもない依頼なんだろうけどな。暇つぶしにはなるか。


 受付にぷらぷらと手を振りながらテーブルに向かって歩いて行くと、そこには小さな男の子が俯いて座っていた。

 これが依頼者?


「ようチビッコ、依頼って何だ」


 男の子はガバッと顔を上げると、こちらに期待の眼差しを向けた。


「お姉ちゃん、依頼を受けてくれるの!?」


「知らん。だから内容は何だと聞いている」


「あのね、魔力を分けて欲しいんだ。作りたい物があるんだけど魔力がないと作れないんだよ」


「ふーん。それだけなら周りにも腐るほど冒険者がいるし、そいつらに手伝って貰ったらいいじゃないか」


 そう言うとチビッコの表情が曇った。


「僕が払える報酬が少なすぎて、誰も引き受けてくれないんだ」


 つまり、やっぱり、誰も引き受けないクソみたいな依頼というわけだ。

 あの受付、わかっててそれを私に紹介してくるとか強かだな。


「まぁでも暇だし手伝ってやるよ」


 そう言うと、男の子は笑顔になった。


「お姉ちゃんありがとう! 僕はミルっていうんだ、よろしくね」


 そう言いながら手を差し出してくる。

 ああ、人間の挨拶には握手って儀式があるんだっけか。


「ルージュだ。よろしく」


 手を握り、腕をぶんぶん振り回すとミルが少し浮いた。






 ◇◆◇






 その後、ミルに案内されたのは街外れの小さな家だった。

 この私を臆面も無く自宅に招待するなど、こいつきっと将来は大物になるな。


 家の中には大小さまざまな岩が転がっていた。

 なんだこれ。


「さ、ルージュお姉ちゃん。僕達は今から打ち上げ魔法を作るんだけど、お姉ちゃんは作ったことある? 見たことある?」


 ミルは嬉しそうに聞いてくるが、何を言っているのかさっぱりわからん。


「なんだそれ」


「打ち上げ魔法っていうのは亡くなった人を弔うためにあげるものなんだ。亡くなった人の魂が間違って魔族領に迷い込まないように、道しるべとして打ち上げるものなんだよ」


 はーん、初めて聞く風習だ。

 人間界全体の風習なのか、この地方だけの風習かは知らんが興味深い。


「初めて聞いた。面白そうだな。それで、誰を弔うつもりなんだ?」


「うん、僕のお父さんなんだ……」


 ミルの表情が曇った。


「僕のお父さん、ずっと病気がちで、それでも家族みんなで頑張って生活してたんだけれど、亡くなっちゃってさ。せめて打ち上げ魔法はしてあげたいんだけれど、業者に頼むお金もないから自分で作るんだよ」


 ミルは辛そうな顔をしている。まだ気持ちの整理もついてないんじゃないだろうか。


 そっか、そういう事ならどうせ暇だしちゃんと手伝ってやるか。


「よしわかった、じゃあちゃんと手伝ってやるよ。助っ人も呼んでやろうか? アンデッドマジシャンとか。魔力いっぱいだよ」


「怖いよ! そんなの呼んだら殺されちゃうよ!」


「えー? あいついつも『クヒャヒャ』とかいって笑ってるだけで無害なんだけどな」


「違う意味で危ないよ! そんなの呼べるなんてルージュお姉ちゃんは何者なんだよ!」


「えーっと、まお、ま、魔物博士?」


 よくわからんが弱い者には優しくしてやらねばならん。

 どうせ暇だし手伝うだけの簡単な依頼だ。力になってやろう。私に任せろ。




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