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「オークキングいたじゃん! なかなか見つけられなかったボスを発見して教えてくれるなんて、ナナリーお手柄だな!」


 ユウさんはオークキングの前に立つと振り返り、屈託のない笑顔を見せた。


「なぁナナリー、彼がさっき言っていた冒険者なのか?」


「そうだよお父さん。彼が来てくれたからもう大丈夫だよ」


 私はそう言いながら魔力枯渇と安堵から、倒れこむように後ろにいたお父さんへ身体を預けた。

 お父さんは優しく私を受け止めてくれた。


「そうは言っても、彼だけで大丈夫なのか? 相手はあのオークキングなんだぞ……」


 お父さんの不安もわかる。

 むしろ私も、冒険者1人でオークキングに立ち向かうなんて信じられない。

 常識で考えたら。


「ごめんね、村からの依頼料じゃたくさんの冒険者さんは雇えなかったんだ。でもユウさんはきっと大丈夫」


 彼等に常識は当てはまらない。何もかもが出鱈目。

 これで弱かったなんてあり得ないほどに出鱈目なんだから。


 ……あれ、全てが出鱈目なら、逆にもの凄く弱いなんて事もあり得るのかな?

 もしそうだったら彼はただの食べ放題好きのアホじゃん。


 ユウさんは神妙な顔つきで話しだした。


「俺が来たからには安心してくれ。食べ放題のために俺は頑張る」


 あ、やっぱりそこ大切なんだ。

 お父さんは困惑の表情を浮かべている。うん、そうだよね。そうなるよね。私もだよ。


「ナナリー、よく頑張ってくれた。でもな、そうやって足を広げて倒れているとパンツ丸見えだぞ」


「や、ちょっと、なにを言い出すんですか!?」


「それに赤色ってのは、ちょっと、その、背伸びしすぎてないか……?」


 誰かアイツ殴ってくれ。


「ナナリー、彼は本当に大丈夫なのか?」


「ダメかも……」


 そうこうしているうちにオークキングはユウさんの真後ろに接近して、手にした大剣を振り上げていた。


「危ない!」

「グォォォォォォォ!!」


 勢いよく振り下ろされる大剣。

 それをユウさんは慌てることなく見つめ、左腕を伸ばすと甲高い金属音が鳴り響いた。


 飛び散る火花、驚愕の表情を浮かべるオークキング。


 ユウさんの腕にはいつの間にか盾が装着されており、平然と大剣を止めていた。


「腰の入った悪くない攻撃だ。でも相手が悪かった」


 ユウさんの姿が一瞬揺らいだように見えた。


 すると直後、オークキングの首と腹が裂け、血が吹き出した。


 何をしたのか全く見えなかった。

 きっとユウさんが攻撃したんだろうけれど、何をしたのかさえ見えず、結果だけが遅れてやってくる。


「グゴ、ガッ……!」


 血が噴出するオークキングは大剣を落とし、首と腹を抑えたが流れ出る血は止まらない。

 内臓もこぼれ落ちている。


「これで終わりだ」


 ユウさんは呟くと、剣を振るった。


 ばしゃっ、という音と共にオークキングの体はブロック状になって転がり落ちた。


「さて、大将は倒したんだ。あとは残党狩りの時間だ」


 彼は何でもないように言い放つと、近くのゴブリンを薙ぎ倒しながらまたどこかに消えていってしまった。


 唖然。


 そう表現する他ないだろう。

 オークキングは上位ランクの冒険者がパーティーを組んで討伐するものだって? そんな常識、まるで意に介さず討伐してしまった。

 それに彼は、剣を振るった時、確かにこう呟いたのだ。「血抜き、内臓の下処理完了。豚肉ゲットだぜ」


 ……圧倒的生活感。


 遠くからは、相変わらずの爆発音と呑気な会話が微かに聞こえてきた。


「よーしルージュ、オークキングも倒したし最後の仕上げにかかるぞー!」


「わかった、死ね!」


「こっちに魔法を打ち込むな! それ俺の最期じゃねーか!」


 出鱈目というのはわかっていたつもりだけれど、こんなのあんまりにあんまりだ。


 村の危機だと思っていたのは私達だけで、彼らからしたら本当に単なる依頼、もとい食べ放題ととりっぱだったのか。


「ナナリー、彼らは本当にただの冒険者なのか? 国家の最終戦力とかじゃなくて……」


「多分……」


 もうよくわからなかった。





 ◇◆◇





 結論から言おう。

 彼らはあの後たらふく食べて、朝になると怒涛の勢いで帰っていった。まるで台風のようだった。


 驚いたのは、大食いなのはユウさんだと思っていたのに実際はルージュさんが大食いだったことだ。

 彼女はずっと「うまい!」を連呼しガチョウ料理を食べ続けた。

 フォアグラが特に気に入ったようで、これをもっと売り出すべきだとフォークを握りしめながら力説し、お父さんもそれに納得し今後販売を始めるようだ。


 ユウさんは「これで食費が浮いたな。上出来だ」と氷漬けにしたオーク肉を道具袋にせっせと詰めていた。

 彼はどうやらただの守銭奴だったようだ。


 陽が昇る頃、彼らはガチョウの羽をこれでもかと道具袋に詰め込み、満遍の笑みで帰っていった。

 再びこの村に来た際にはいつでも鶏肉食べ放題という約束を自然に押し付けて。なんて強かなんだろう。


「ベルンおじさんが騎士団と帰って来た時には、俺たちの事はうまいこと秘密にしておいてくれないかな? 変な評判が立つとギルドからの面倒な仕事が増えそうで嫌なんだよ」


 そうユウさんは言い残して去っていった。


 驚いたことに彼らのギルドランクはFランク、最下級とのこと。

 まともに通常依頼をこなさないし、その他の指名依頼も達成報告しないためらしい。

 そして、その状況が好ましいから変えたくないとのこと。


 彼らほどの力のある冒険者が最下級ランクだなんて、何がなんだかよくわからない。


 ちなみに、今回の騒動で村の周辺は穴だらけになってしまった。

 村を囲っていた柵も燃えてしまって大変な状態ではあるものの、お父さんに言わせると「ガチョウは水鳥だから、大きな池がたくさん出来て助かるわ」と笑っていた。


 結果的に全てが丸く収まったと考えて良いのだろうか。





 ◇◆◇





 全てが終わった後、私は村が見降ろせる丘にひとり立ち、村の姿を眺めた。


 ユウさん、ルージュさんの協力によってなんとか村を守る事が出来た。

 怒涛の勢いだったが、感慨深い。全部彼らのおかげだ。


 これからも私はこの村で生きていくだろう。

 村の再建はもとより、フォアグラの売り出し、飼育環境の拡大。やることはまだまだ山積みだ。

 それでも彼らが守ってくれたこの村を、これからも私は守っていきたいと思う。


 村の危機に取り合ってくれなかった騎士団と冒険者ギルドに思うところはあるものの、結果としてユウさんとルージュさんという冒険者に助けて貰った形になる。


 冒険者って何だろう。


 私は旅に出る時から、ずっと考えていた。

 そして愚かにも、この旅が終わる頃にはひとつの答えが出るものだとばかり考えていた。


 だが現実はどうだろう。ますます謎は深まるばかりだ。



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