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「クルルル」


 バルーシが俺のことを見かけるたびに喉を鳴らしている。視界に入るたびに目で追っている。


 どうやら俺の様子が最近おかしいことに気がついているようだ。


 いよいよ最後のレースが近付いている。

 けれど俺はどう戦ったら良いのかわからず、ただいたずらに時間を消費していた。その焦りが表に出ているのかもしれない。


「ほら、寝床の藁を変えるから、外行って遊んできな」


 そう言ってバルーシを遠くに行かせようとしても、コチラを何度も振り返りながら出て行って、少し離れた場所からずっと俺を眺めている。こんな具合だ。


 バルーシに心配されるなんて、いよいよ重症なのかもしれない。

 でもそれも仕方のない事だと思う。


 俺は最後のレースにどのように挑むのか、決めかねていた。


 勝ちたい。バルーシと勝ちたい。けれど、それが簡単な事じゃないことを痛感していた。


 今回飛ぶコースは既に運営から発表されており、それをもとに各自どのようなレース展開を狙うのか作戦を立てているわけだが、俺はこのコースにおける最後の難関をどう突破するのか――そこを決められないでいたからだ。


 今回のコースは比較的スピードの出るような設計のもので、パワー型の最高速を出せるバルーシとの相性は悪くない。

 悪くないのだが、ゴール直前の最終コーナーに問題がある。


 最終コーナーはかなりきついS字になっており、しかも空中の競技らしく高低差もあるものになっていた。


 それは俺達、旧世代にとっては鬼門だ。

 最高速重視の旧世代は低速域からの加速力が弱い。一度殺した速度を取り戻す前に、新世代に刺されてしまえば俺達に勝利はない。


 最終コーナーへの侵入がカギになるが……


「いたーー!!」


 突然外から大声が聞こえてきた。


 この声はもしや、と思って外に顔を出すと、そこにはここによく来る黒髪ロングの少女がいた。


「バルーシ! 元気してた?」


 少女は柵から身を乗り出してバルーシに向け腕をブンブン振り回している。今日は珍しく、肩に白い狐を乗せているようだ。

 狐が肩にしがみ付いている姿はなんとも意味がわからないが、この少女はいつも、いつの間にか来て勝手に帰っていくから納得できてしまうのが不思議だ。


「よう、またバルーシに会いに来たのか」


 そう声をかけると少女はバルーシを撫でながら答えた。


「そだよ。王都の近くってモンスターあんまりいないからね。艶のある鱗成分を補充しに来た」


 嬉しそうにそう話す少女の趣味は珍しいが、ファンになってくれるのは嬉しいことだ。


 肩に乗っている白い狐は興味津々といった感じで俺とバルーシを交互に眺めている。何か妙な雰囲気のある狐だが、バルーシから恐る恐る鼻を近付けていって挨拶は出来たようだ。


「飛竜の事をモンスターって言う子は久しぶりだよ。いつも来てくれてありがとうな。でも、今後はどうなるか、ここにずっといられるか、まだわからないんだ」


 そう話すと、少女と狐が同時に首を傾げた。


「今度のドラゴンレースで引退が決まっていてな。その後の事はまだ決まってないから、ここからいなくなる可能性だってある。いつも来てくれてるのに悪いな」


「そっかぁ。だからこの子は不安だったんだね」


「……不安?」


「そう。アンタと一緒にいられなくなるのが怖かったみたいだよ。最近アンタの様子がおかしかったからってさ」


 少女はまるでバルーシの言葉がわかるように話している。俺にはバルーシが喉を鳴らしているだけにしか聞こえないが。


「そっか、よく知らないけど次のレースで引退しちゃうんだね。アンタもバルーシと離れ離れになるのが怖くて様子がおかしかったの?」


「いや、離れ離れになんてならないさ。でも、最後のレースくらいどうしてもコイツと勝ちたくてな。バルーシには言葉が通じないから最後のレースなんて言ってもわからないだろうけどさ、勝ちたいんだ」


「へー。でもアンタの気持ち、今ので伝わったみたいだよ。パートナーなんでしょ? 普段からちゃんと悩みを相談してあげないとダメだよ」


 少女に怒られてしまった。


「そうだったな。俺がひとりで悩んでバルーシを心配させてたんだよな。ありがとう、気付かせてくれて」


「まったくだね」


 少女は鮮やかな紅い瞳を細めて微笑んだ。


「ちゃんとアンタの気持ちに応えるから、信じてよって言ってるよ、この子」


「ホントにそんな事をバルーシが言ってるのか?」


「当たり前だよ、私は魔物博士だからね」


「初めて聞いたよそんな博士」


 嘘か本当かわからないが、どうやら背中は押して貰えたようだ。確かに俺は、どこまで攻めたレース展開をして良いのか悩んでいた。

 それはつまり、バルーシの限界を俺の方で勝手に決めてしまっていたという事だろう。


 少女の言葉を疑ったあたりから肩の狐に足でゲシゲシ蹴られていることだし、魔物が言葉を理解していてもおかしくないようだ。


「ありがとう、気付かせてくれて」


 改めて礼を言うと、少女は気が済んだのかバルーシに翼を広げて貰ってワーワー楽しみだした。


 ま、少女の言葉に騙されてみるのも悪くない。


 最終コーナーは速度を最大限落とさないように、大外から侵入して脱出スピードを稼ぐ作戦でいこう。

 飛行ラインとしてはムダが多くなるが、最適ルートよりも脱出速度を優先できれば最後のホームストレートで勝負出来るはずだ。

 その高負荷にもバルーシの翼なら耐えてくれるはず。


 俺はそれに向けてのレース戦略を練り始めた。



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