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 遠くに見える山脈の奥から、朝日が昇ってきた。夜明けだ。

 朝のゆったり飛行をしながら眺める朝日は、いつになっても美しく感じる。


 今日も普段と変わらず午前の調教を行なっていた。

 バルーシと一緒になってからだから、これもまた10年近く続けている日課となる。


「今日はもっと高度を上げて飛ぼうか」


 そうバルーシに話すと、待ってましたと言わんばかりに高高度まで上昇した。

 コイツは昔から高い所を飛ぶのが好きだった。今日も機嫌が良いのか、小さく鳴いている。


 コイツは気持ちが昂るとすぐ鳴く癖があるのだが、直させるのにずいぶんと苦労したっけな。


 飛竜が口を大きく開けると、それは単純に空気抵抗になってしまう。一瞬の差が勝敗を決めてしまうレースで、それは死活問題だった。


 この癖のせいで昔はよく喧嘩したっけ。何度もぶつかって、お互いに譲らなくて。気がついたら朝まで一緒に寝ていた事もある。

 それでもまた一緒に調教をやって、また喧嘩して。


 そうやって一緒に頑張ってきたこの生活も、もうすぐ終わりを迎える。


「キュルルル」


 バルーシは楽しそうに小さく鳴きながら、コッソリ高度を少しずつ上げているようだ。


「それ以上の高度に行ったら俺が凍えるから勘弁な」


 首筋を撫でながら言ったら、「わざとじゃないよ、ホントだよ」といった雰囲気で少しずつ高度を落としていった。


 まぁ、やはり根本はなかなか変えられないわけだが。


 バルーシは昔ながらのパワーで押し切るタイプの飛竜だ。これはもう変えようがない。

 そしてそれは『旧世代』と呼ばれ、今の時代にそぐわないものとされている。これももう変えようがない。


 俺の現役人生の中で、ドラゴンレースは大きく変わっていった。


 俺がレースに出だした頃は、いわばレースの黎明期にあたる。

 当時はどの飛竜もパワータイプだった。

 持ち前のパワーをどこで発揮させるのか、それがレースの醍醐味であったのだ。


 コースもシンプルなものばかりだったから、逃げ切りタイプの奴、コーナーが速い奴、ラストスパートが強い奴といろいろ特徴があって、お互いの読み合いが勝敗を大きく分けるものだった。

 あの頃は、ライダーと飛竜の個性が前面に出ていた頃ともいえる。


 それが変わってきたのは、いわゆる第一世代の引退が始まった頃からだろうか。


 それまでのシンプルなコースから、より複雑なコースを飛ぶように仕組み自体が変化していったのだ。


 力技で押し切る事が出来ないように、より飛竜に繊細な飛行が求められるように、レースそのものが変わっていった。

 ライダーや飛竜の個性など必要ではなく、要るのは正確性。そう変化してしまったのだ。


 そのタイミングで舞台を降りた奴も多かった。当然だろう、第一世代のライダーも飛竜も、そのように出来てはいなかったのだ。


 これからは幼い頃からそういった調教を受けてきた飛竜が台頭するようになる。自分達の時代は終わった。その事実に耐えられない奴も多かった。


 ではなぜ俺はここまでレースにしがみ付いてしまったのか。それは、単純にタイミングが悪かったとしか言いようがない。


 俺とバルーシがレースにデビューしたのは第一世代よりも少し遅かった。あの中で俺は若手であり、憧れのライバルでもある彼等の背中を必死に追い続ける立場だった。


 いよいよ俺達も成熟し、チャンスさえあれば勝てるといった頃に、この変化は起きた。

 その結果、もういい歳になっていた第一世代の大半は舞台を降り、それよりも若手だった俺のような奴はどうしても勝ちが欲しくて降りられなかった、そんなわけだ。


 でもレースの変化と同時に新しくデビューしてきた新世代に、俺達のような旧世代は勝てず、頑張っていた奴もやはり俺を残して引退していった。


『ドラゴンの翼の折れる日』


 世間ではライダーが引退する事をそう呼んでいる。


 レース中の接触事故や高負荷で実際に飛竜の骨が折れてしまう事ももちろんあるが、ライダーの心が折れて引退する奴も含めて、こう呼ばれるようになった。

 第一世代の数奇な運命がこの言葉を生み出したといっても過言ではないだろう。


 俺とバルーシは結局、時代に取り残されてしまった最後の生き残りだ。

『旧世代が新世代に勝てるはずがない』というその言葉は今や俺のことだけを指す言葉になっている。


「クルァァー」


 バルーシの呼ぶ声でふと意識を取り戻すと、いつの間にか厩舎まで戻って来ていたようだ。


 上空から厩舎を眺めると、見慣れない飛竜が丸まっているのが見えた。あれは誰の飛竜だ?


 近くに人影が見える。誰かいるようだ。

 それが誰なのか目を凝らして見てみる。


 あれは……ハリーだ。





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