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 ユウは平然と立っていた。


『――ご覧ください、我々が舞台を回復魔法で満たしているのでユウ選手はこの爆撃の中でも無傷で無事に立っています! みなさんご安心ください!』


 そう言いながらも、そんなはず無いことくらい理解している。


 いくら回復魔法を常にかけているといえど、普通ならば消滅するほどの攻撃なのだ、我々がそれを無効化するなど不可能。

 平然と立っているというならば、それはユウの地力だ。


『ユウはタイマン戦に特化した人間ですからね、広範囲魔法だと削りきれないのも仕方ありません』


『なるほど……』


 なるほどなものか、幻でなければ説明がつかないレベルである。


 そこでようやくユウが動き出した。それを見たキュウビは尻尾を逆立てて警戒をしている。

 彼女の周囲にある狐火は数が減っていた、今の魔法で魔力を消費したのだろう。


「さてと、そろそろ食費を使い込んだお仕置きをしないといけないな……」


 相変わらずの死んだ目をしながら薄らと笑うユウ。

 そんなに油揚げだけの生活は辛かったのか。


「はて、なんのことかわからんのう」


 キュウビも笑みを浮かべるが、そこに焦りの色が見えた。それでも強気の姿勢は崩していない。

 そんなに油揚げだけの生活を守りたいのか。


『さぁここでユウ選手も動くようです、彼はどんな戦いを見せてくれるというのでしょう!』


 そう実況した直後、ユウの姿が消えた。


 ――いや、左拳でキュウビの障壁を叩き割っていた。


 周囲には砕けた障壁が空を舞っている。あの破片の量、10層はあったであろう障壁を一瞬で砕いたというのか――

 そのままユウは右拳を突き出すと、舞台はけたたましい炸裂音と光に包まれた。


 何が起きたか理解が追いつかない、目の前の現象が何なのかわからない――ありのまま伝えるしかない。


『おっとユウ選手、キュウビ選手の障壁を叩き割ったかと思うと激しい閃光の魔法でキュウビ選手を攻撃したぁー! これにはキュウビ選手、たまらずバックステップで距離をとります! 今の魔法は何なのでしょう、舞台にヒビが入り破片が宙に浮いています!』


『これはユウの雷撃魔法ですね。キュウビは障壁が割れた事に驚いて障壁の再構築が間に合わず直撃を受けてしまった、そんなところだと思います』


 言われてみればキュウビはダメージを負っているようだ。それもすぐに回復魔法で治されるが、そもそもあの空間にいて傷を負う事の方がおかしい。


『雷撃魔法とは一体……』


 思わず声に出ていたようだ、体が傾いたままの少女が答える。


『その名の通り雷を扱う魔法ですね。あの魔法の厄介なところは速度です。認識してからの回避は不可能なので、呼吸と魔力のゆらぎで予測回避しないと直撃します。一瞬でもずれたらアウト。障壁での軽減は有効ですがユウは障壁を先に割りましたからね、嫌な戦い方です』


『彼は拳で障壁を破ったように見えましたが……』


『魔法の威力ロスを最小限にする技術です。物理的な力と、魔法の距離による減衰を無くすことによって術者の消費魔力を必要最低限に出来ます。体術も魔法も同時に極めている事が前提ですが、魔法を直接叩き込んで障壁を割ったというわけですね。障壁は中和することも可能ですが割ったのは見栄えの問題でしょうし、ご安心ください、彼は武器を使ってません。武器を併用すると威力も跳ね上がるのですが、そこは模擬戦、縛りプレイをしているようですね』


 そういう問題なのだろうか。初めて聞くことばかりで理解が追いつかないが、あれが縛りプレイだというのか? 

 障壁10層は常識で考えると、魔法の完全無力化ができる数字だ。それを中和や叩き割るなど考えられもしない概念。


 彼らの当たり前に全くついていけない。


 舞台上の2人はゆらりと立っていた。どこか先程よりも緊張感がある。


『さぁ、それでは舞台上の2人ですが、なにやら空気が張り詰めております。これは……2人とも次で決めに来る、という事でしょうか』


『でしょうね』


 微動だにしない2人と、それを固唾を飲んで見守る観客。一体、次の瞬間何が起こるのか――


 直後2人の姿が消え、衝撃と共に舞台を包む障壁内が爆炎と雷に包まれた。

 我々の防護障壁が限界を迎えているのか虹色に輝いている。その間も真っ赤な内部は煮えたぎる炎に焼き尽くされていた。

 地鳴りが、重低音が止まない。


 地獄があるとすれば、こんな光景なのだろうか。


 禍々しい炎に焼かれ限界を超えた障壁がポロポロと虹色の粒子になっていく。


『煮えたぎる炎、ほとばしる雷電! 最後に立っているのはどちらなのでしょうか!』


 誰もが言葉も発せないまま炎が落ち着くのを見守っていた。


 そしてそれが晴れて来た時、我々が見たものは――同時に倒れている2人だった。


『なんと! なんと相打ちです!! お互いに力を出し切ったのか、どちらも倒れています!』


 奥に隠れていた審判が慌てて駆けてきて「この試合、相打ちとなりました!」と叫んだ。


『相打ちだー! 我々はとんでもない戦いを見せられました、凄い試合でしたー!』


 そう叫んだ直後に、ユウもキュウビも平然と起き上がった。

 それどころか観客に手を振りながらお互いに近付くと、ユウはキュウビを持ち上げてキャッキャウフフしだした。


 ここでようやくワシは本当に理解した。


 いつからそのつもりだったかは不明だが、これは我々から依頼料をせしめるための壮大な茶番だったのだ。少なくとも彼らにとっては。


 観客もそのことを理解したのだろう、割れんばかりの歓声に包まれた。


『なんと素晴らしい模擬戦だったのでしょう! 今年の総力祭は大成功となりました、皆さまお楽しみ頂けたでしょうか、それではまた来年お会いしましょう、実況はおハゲ、解説は魔物博士でお送りしました!!』


 逃げるように締めると、再び会場は大きな歓声に包まれた。





 ◇◆◇






 結果的には全てが大成功だった。


 国民からは喝采を浴び、外国の来賓からはお褒めの言葉を頂いた。それどころか魔法学についての講演会の依頼まで来ているくらいだ。

 あの異常な模擬戦は魔法学の成果を見せるためのエンターテインメントだった、と理解されたようだ。


 国からも幸いなことに文句を言われなくて済んだ。

 国の戦力を見せないまま、他国に対して圧倒的な学問の差を見せつける事が出来たのだ。

 あくまであれは魅せる戦いだったと受け取られているものの、それをあの場で実演してのけた企画力と実行力は評価を受けた。

 最後、我々の障壁が限界を超え虹色に消えていったことも、演出のひとつと思われたようだ。


「また悩んでるんですか、長官」


 秘書が扉をノックしながら長官室に入ってきた。ノックした時点で部屋に入っていたらノックの意味がないだろとは思うが、これもまたいつもの事だ。


「あの解説実況とかいうやつの報告書を求められているんでしょう。あんな斬新なもの見せられたんですからみんなが話を聞きたくなるのも仕方ないですよ。さっさと報告書を書き終えないと提出期間に間に合いませんよ」


 秘書は以前よりも柔らかい雰囲気で部屋の窓を開けた。

 ふわりと風が吹き込んできたので紙が飛ばされないよう抑えながら外を見やる。どうやら今日もいい天気だったらしい。

 遠くからは、爆発音が微かに聞こえて来る。攻撃魔法課の連中が演習場で張り切っているんだろう。


 あの解説実況というものについて少女に詳しく聞こうとしたら、メガネ小僧が先駆者だからそちらに聞けと一蹴された。


 ワシはそのメガネ小僧とやらを探したが、発見できたのはあのメイドが街の子供達に「石畳の街中で暴れると危ないから原っぱで遊んで来なさい」と叱っている姿だけだった。

 片手は野菜と油揚げでいっぱいの買い物カゴ、もう片方の手はキュウビと手を繋いでのものだった。

 近くには買い物袋を両手に持った銀髪の青年もいて、後ろ姿しか見えなかったが彼氏か何かなのだろう。

 今回の全てのキーマンを平然と従えているあのメイド、本当に何者なんだろうか。


 ともかく、この解説実況に関する報告書はまるで進んでいない。


 その他にも来期の予算編成で新しい研究をさせて欲しいという要請書やら、魔法省への就職問合せ増加への対応など、問題は山積している。


 全ては大成功だった。そこに間違いはないのだが、なぜだろう。最近のワシはこの意味不明で過大な評価から、どのように逃げ切るかという事ばかりを考えている。





お読みいただきありがとうございます。


総力祭はうまくいきました。総力祭は。


しかし、長官でも理解していない事への講演依頼とか沢山来ていて、いい感じに地獄です。



さて、次の話からはストックが尽きたので不定期更新になります。週2更新できたら良いかなとは思っています。


なんでこんなに書くのに頭を悩ませる作風にしたんでしょうね、この作者。きっとアホなんだと思います。


また、次の話は珍しく陰鬱な展開を丁寧に書こうと思っています。

おそらく読者の誰もそんな話を望んではいないのでしょうが書いてしまいます。やっぱり作者はアホなんだと思います。


それでは何卒、よろしくお願いいたします。

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