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空砲が上空でポンポンと鳴り、今日がイベントの日というのを告げる。
いよいよ総力祭の当日がやって来た。
いつもは陰気な魔法省もこの日ばかりは活気に溢れる。
開放された広い敷地内には沢山の出店が並んでおり、それ目当てに老若男女問わず国民が朝早くからやって来ている。
もちろん客は国民のみならず、世界を渡り歩く行商人や他国の来賓までもが多数いる。
今日は特別に騎士団が我々と同じ国営として会場の警備から出店の店員としてまで配備されており、会場全体に目を光らせているため安全管理に問題はないだろう。
また、攻撃魔法課の奴らには講演会や魔法教室を開かせることで何とか総力祭としての形を整えることに成功した。彼らはなんだかんだ言って注目されたり、小さい子供に慕われる事に弱い。
……今年の総力祭もなんとかなりそうだ。
ふぅ、と安堵のため息が漏れた。
ここで一息つきたい気もするが、まだ今日の一大イベントはこれからだ。
そろそろ待ち合わせの時間なのだが――
と広場で待っていると、彼らが揃ってこちらに歩いて来るのが見えた。
ユウという青年はもの凄く嫌そうに、またキュウビは見慣れない王立学園の制服を着た少女と並んで歩いている。
「やぁ、おはよう。今日はよろしくお願いします」
挨拶をすると、ユウが死んだ目をしながら口を開いた。
「ホントにやるのか? 報酬はたんまりなんだろうな? 油揚げ以外が食べたい、今すぐ帰りたい」
「なんとか是非、お願いします」
なんだかんだ言いながら引き受けてくれる彼は、巻き込まれ体質かそういう星の下に生まれているに違いない。
果たして彼がSランクのキュウビと渡り歩けるのかは未知数だが、断らないという事はなんとか耐えられるという意味なのだろう。
それ以前に今日の模擬戦会場は防護シールドで覆い、かつその中を回復魔法で常に満たしておくという準備が施されているため、よほどの事がない限り怪我ひとつ負わないはずだ。
「ねぇ、私は退屈だから出店を回ってきてていいかな?」
王立学園の制服を着た少女が呟いた。
「えぇ、構いませんよ」
そう返答すると、彼女は手をヒラヒラさせながら人混みに紛れていった。一体何者なんだろう。
キュウビが小さな声で「ご主人様ぁー」と呟いている。
「キュウビさん、彼女は王立学園の生徒なのですか?」
「キュウビのご主人様じゃ。なんだか、ショッキチョ? から服を貰ったか何かで、何からしいのじゃ」
全くわからない。
だがSランク冒険者にご主人様とまで言わせる王立学園の生徒、只者ではあるまい。
あそこには貴族も多いため、そんな事もあるのだろうか。
さてそれよりも、この模擬戦という目玉イベントを成功させねばならない。
「さぁ、みなさん控え室にご案内いたします」
◇◆◇
昼の部が開始される空砲が上げられた。
ワシは関係者席から会場の様子を見守っている。なぜかすぐ横に王立学園の生徒を着た少女が座って足をパタパタさせているが、確かに関係者なのだからまぁ良いだろう。
観客席は超満員、立ち見の人もいるくらいだ。それはそうだろう、一般庶民がSランク冒険者の力を見る機会などまるで無いのだ、興味があって突然。
そしてそれはワシも同じことだ。冒険者と呼ばれる者達の中でもトップクラスがどれほどのものか、我々と比較してどちらが上なのか、興味は尽きない。我ながら良い企画を考えたものだ。
「君はどちらが勝つと思っているのだね」
隣の少女に聞いてみる。彼らについて普段から接している者としての客観的意見はどうなのだろう。
すると少し少女は考える素振りを見せ、急にどこからか取り出した木の棒を構え、拡声の魔法をかけたのか会場全体に聞こえるような声でいきなり解説を始めた。
『私としてはどちらが勝つかはわからないけど、この模擬戦はユウ選手に有利ではないかと思いますね。彼は負けない。ひたすら負けない。だからこういったガチめな勝負で本領発揮する、そこがユウ選手の強みだと思います』
――え、急になにを言いだしたんだこの子。
『それに対しキュウビ選手は私も久しぶりに戦う姿を見られるのでとても楽しみです。今、どれほど強くなっているのか、その強さはユウ選手をも上回るものなのか、解説の私としても興味が尽きません。いい一戦になりそうですね。それではマイクを実況のおハゲにお返しします』
ずいっと木の棒をワシに押し付けてくる。この少女は一体何をしているんだ?
誰が実況だ、誰がおハゲだ。
――しかし、既に会場全体に今の声が届けられてしまっているのも事実、ここで総力祭の運営にトラブルが発生している事を周知するわけにはいかない。
この少女はキュウビがご主人様と呼び、王立学園の制服を着ている人間だ。もし貴族だったらと考えると無下に扱うわけにもいかない。
これがただの冒険者であったなら今すぐにでも摘み出すというのに……
……とにかく今のこの状況を何とかするため必死に頭の中をフル回転させながら、木の棒を受け取る。
『で、では解説の立場からしてもこの模擬戦の結果はまだ見えないというわけですね。行方が楽しみです。そ、それでは今日の実況はワタクシ、おハゲと解説は――』
『魔物博士』
『――がお送りします!』
なんとか、実況者とはこうであろう言葉を紡ぎ出す。
観客は今まで見たことも聞いたこともない解説実況という演出に興奮したのか、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
今までは大衆からサンドバック役だと思われていたユウ選手をこの解説で持ち上げ、試合結果への期待感を高めたのもその要因のひとつなのだろう。
なんだこれは、こんなもの本当に見た事も聞いた事もない。
魔法を披露する場所で実況を行い、それだけではなく解説が魔物博士って何か間違っているんじゃないのか? 専門が魔法ならいざ知れず魔物だったら場違いだろ。いや、最初から何もかも全部間違っているんじゃないのか? どれほど頭をフル回転させても意味がわからない。
ワシはマイクを通さず少女に聞いた。
「な、なぁ、この実況と解説とは何なのだ?」
「近所のクソガキどもがじゃれてる時に、これをやってる子がいるの。あのメガネ小僧、只者じゃないね」
全くわからん。




