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 紙に書いてあった場所は市民街の端であった。

 冒険者は中堅クラスぐらいから宿暮らしを辞め定住する者が増える傾向にある。

 このSランクもそういった類だろうか。


 歩いていくと、そこは市民街の端にあるレンガ造りの建物の2階だった。看板がかけられていて『冒険者ギルド指名依頼専門室』と彫られている。


 ……なんだこれは。


 あたかもギルド公認かのような名前が付けられているが、いいんだろうか。


 だがいま重要なのはそこではない。

 ワシは階段を上るとドアを叩いた。


「はーい」


 ガチャリとドアが開かれて、ワシを出迎えたのはメイドだった。Sランク冒険者というのはメイドすら雇用できる暮らしをしているのだろうか。


「ワシはSランク冒険者のキュウビという人に依頼をしに来たんだが、ここで合っているかな?」


「はい、まぁ、一応。依頼者の方ですか、いらっしゃいませ。それではこちらにどうぞ」


 煮え切らない返事をするメイドは少し困惑しているようにも見える。どうしたことだろう。


「キュウビさん、お客様ですよ」


 そうメイドは声をかけながらワシを中に通し一緒に奥へ進むと、口喧嘩をしている声が聞こえてきた。


「なんでお前もここに住むって勝手に決めてんだよ、出て行けよ!」


「キュウビはご主人様と一緒にいるのが当たり前なのじゃ、むしろお前が出て行け!」


「ふざけんな、俺がここを借りてんだよ! それに勝手にみんなの限りある食費を使い込みやがって!」


「ここに住むからにはキュウビの食費でもあるじゃろ!」


 ……なんだここは。


「ほらほらキュウビさん、お客様のお出迎えしないとダメですよ」


 メイドは平然とそれに割って入って、小さな女の子の肩を押してこちらに向き直させた。


 この女の子がSランク冒険者?


 女の子はまだ子供のように見える。

 長い髪の上にはフカフカの耳がついており、大きな瞳が子供っぽさをより強調している。

 服装は東方の国の民族衣装、着物を着崩したような格好をしているが、そこから大きな尻尾も出ていた。


 珍しい、獣人というやつだろうか。


「おぉ、王都に来てからキュウビへの初の依頼者じゃな。依頼とは何じゃ」


「なんで普通にここで仕事を始めようとしてんだよ」


「キュウビさん、まずは座ってからお話ししないとですよ」


 ……なんだここの奴ら、マイペースすぎるだろ。


 よくわからないが、とりあえずメイドに促されるまま皆で着席し、テーブルには紅茶が差し出された。


 こんな混沌とした中でも平然と振る舞うこのメイドは影の支配者か何かなのだろうか。


 ……それはともかく。


「改めて、ワシは魔法省で長官をやっておるシュルツという。今日は魔法省での総力祭への協力を依頼しに来た」


「総力祭とは何じゃ?」


「1年に1度行われる魔法省のお祭りみたいなものだ。そこでの出し物を考えていたのだが、今年は是非に、貴方にそこで魔法を披露して頂けたらと思っている。きっとみんな喜んでくれるだろう」


「あいわかっ…………いや、少し考える」


 迷いなく承諾しそうだったのに、急に態度を変えるキュウビとやら。


「少し考えるというのは、なぜですか?」


「キュウビは王都に来てから、あくせく無条件に働くことを辞めたのじゃ。依頼は厳選する。指名依頼専門室にも入ったことじゃしな」


「入ってねぇよ。今まで沢山の依頼を引き受けて来たからSランクなんだろ。数少ないSランクなんだから何でも引き受けろよ」


「キュウビはご主人様と会うため結果的にSランクになっただけで、もうどうでもよいのじゃ。よく考えてみろ、Sランク冒険者がみんな必死に働くような世の中じゃったら、それは危険がいっぱいという事を意味する。そんな世の中じゃったら今頃とっくに滅んでおるわ。実はSランクが駆り出されるほどの必要性がある仕事はあまりないのじゃ」


「有り金の全部とうちの食費を使い込んだくせに偉そうに……」


 ……冒険者ギルドが言っていたのはこういう事か。


 おおかた、Sランク冒険者のキュウビが急に指名依頼以外は引き受けないとでも言い出したんだろう。

 なるほど。我々だけでなくギルドの方にもいろいろと苦労はあるらしい。


 コトン


 と音を立ててワシの前にお茶菓子が用意された。

 ふと見ると、それは油揚げだった。


 ……なぜ油揚げ?


「今ここにあるのはこれしかなくて、すみません……」


 なんでだ。


 ふと正面を見ると、キュウビが油揚げをガン見で凝視している。


 ……食べたいのか?


 試しに油揚げの乗った皿をテーブル上で、右に左に動かしてみると、キュウビの視線もそれに合わせて動いた。食べたいのか。


 そっと皿をキュウビの前に差し出すと、キュウビは目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。


「少しは話がわかりそうな奴じゃな。でも何でキュウビにそれを依頼するのじゃ? 魔法を披露するなら魔法省とやらの奴等で勝手にやれば良いじゃないか」


 痛いところを突いてくる。だが、まぁ隠す事でもないか。


「どうも最近、王都に暗黒魔法を使う奴が現れたという噂があるようでな。我々の人員は会場の保全に割かれることになったのだ」


 本当の理由は少し違うが、本当にしてしまえば良い。魔法省の人員は防護シールドと回復を担当したらいいのだから。


「暗黒魔法を使う奴か。なるほど、そやつは魔族かもしれんし、警戒しておきたいというわけじゃな」


「その通りです」


 暗黒魔法は人間には扱えない。扱える奴は魔族の可能性が極めて高い。


 魔族が王都を滅ぼしに来た可能性もあるし、魔族を他国が雇った密偵という可能性もある。本当にそんな奴がいたら、の話だが。

 全く、眉唾にも程がある。


 すると今まで座っていた青年が急に席を立った。


「暗黒魔法の使い手かぁ。俺にはよくわからんなー。おおっと、俺は今晩のサラダとデザートにする油揚げの仕込みをしなくっちゃ」


 なんかよくわからん言葉を発している。サラダとデザートの油揚げって何だ。


 そう思っていると、急にキュウビの背筋が伸びた。


「そうじゃ、いい案を思いついたぞ。その総力祭とやらでキュウビとユウとの対決を行って良いのであれば、引き受けようではないか」


 キュウビは手を叩きながら言った。


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