24 九尾編
大陸中央部にある大国、リシュタット。
この国は立地の利点から各国の貿易の要となっているらしい。
人の行き来が多い地域は人種や文化が混ざり合うため情報収集に適している。そう聞いて興味を持った。
そのリシュタットの中でもやはり一番の中心地は王都。人口も市場も飛び抜けた規模を誇っているとのこと。
だからキュウビは王都ギルドからの要請に応える事を決めた。
乗り合いの馬車に揺られること数日、ようやくその王都とやらが見えてきた。
何重もの高い塀に囲まれた丘の上に城が見える。
なるほどしっかりしておる、この王都を攻め落とすとしたら骨が折れそうだな。
王都付近は比較的平地だから隠れられずすぐに発見されるし、塀もそれぞれが頑丈な造りで攻める方は不利になる。
周囲を他国に囲まれながらも大陸中央部を支配しているのも伊達ではなさそうじゃ。
まぁ、キュウビにかかれば攻め落とすなど造作もないが。
そう考えながら退屈な時間を過ごしていたら、いつの間にか馬車は検問に到着したようだ。
「ようこそ王都へ。みなさん身分証の提示をお願いします」
人の良さそうな兵士が幌の向こうから顔を出した。形式的なものとはいえ、よくこんな退屈な仕事をするものじゃ。
そう考えながらキュウビは自分のギルドカードを手渡した。
「こ、これは――え、Sランク冒険者のギルドカードですか!?」
兵士が驚いている。キュウビとしては何も驚かない。
「王都に入って問題ないか?」
兵士に確認すると、驚愕の表情のまま頭をカタカタ振って認めてくれた。
ならばよろしい。キュウビは再び荷室に寝転んだ。
いろいろな地域を渡り歩くのなら冒険者になるのがいいと聞いて、キュウビはその冒険者とやらになった。
ギルドでの模擬戦闘だとか大型モンスター討伐だとか、よく知らぬが手当たり次第にぶちのめしていたら勝手にSランクとやらになっただけのこと。
そんな驚かれるような事じゃない。
そのままうつらうつらと眠っているとキュウビの乗る馬車は動くのをやめた。終点に到着したのじゃろう。やっとこの退屈な旅もここで終わりのようじゃ。
馬車を降り立ち、伸びをしながらあくびをする。
にゃむにゃむ。
昇降場所の周りには露店が立ち並び、食べ物やお土産が沢山売っていた。なんじゃここは毎日がお祭りか? 非常に気になるが、まずはギルドに向かうとするかの。
少しキョロキョロすると、すぐにギルドの看板がつけられた建物が見つかった。
ギルドは大概街に入ってすぐの場所にあって非常に助かる。
なんでも初めて街を訪れたゴロツキみたいな奴に街中をウロウロされるくらいなら目立つ場所に建てておくから真っ直ぐここに来いという事らしい。
誰がゴロツキじゃ。しかし冒険者は獲物の肉を持ったまま街に帰ってくる事も少なくないため、あまり強くも言えないのじゃが。
たまに現れるギルドの解体場で大物の肉を見せびらかしながら「えー、こいつそんな希少なモンスターだったんですかー?」とかアホみたいなこと言う奴ホント気持ち悪い。『いろんなどうぶつ』っていう絵本を買ってやろうか本気で悩む。無知を誇るな。
そういう奴に限って内臓処理をしてこないし、腐敗の早い血を抜きもしないで持って来て付近が生臭くなるのホント迷惑。
それはともかくここのギルドは建物も大きく、沢山の冒険者が行き来している。ここなら期待できそうじゃ。
ギルドの建物内に入ると、小汚い冒険者どもが沢山いた。早く帰れ、こっち見んな。
暴れだしたい衝動を我慢してカウンターまで歩いた。
「あら、珍しいケモ耳さんですね。初めてお見かけいたしますけど、今日はどうなさいましたか」
職員の女が笑顔でこちらを見下ろしてくる。
くそぅ、人間はキュウビよりも身長が高くていつも見下ろされるから腹が立つ。
「キュウビはギルドからの要請に従いしばらくここに拠点を置く予定じゃから、拠点登録をしに来たのじゃ」
用件だけを伝えてキュウビのギルドカードをカウンターに置いた。
Sランク表示を見て受付嬢が驚愕の表情を浮かべた。もうそのくだりは飽きたから早くしてくれ。
◆◇◆
「Sランク冒険者様とは知らずケモ耳さんだなんて大変失礼いたしました」
通された個室のソファの向かいで受付嬢が頭を下げている。
え、なに、頭を踏めばいいのか? 踏むのか? そういう作法か儀式なのか? 身長差があるからテーブルの上の頭まで足が届かないのじゃが。
いつもの風景を眺めながら退屈のあまり現実逃避をしてしまった。人間の作法はよくわからん。
「気にするな。ケモ耳なのは事実だしキュウビも気にしてないのじゃ」
本心からそう思う。凄くどうでもいい。
受付嬢の隣にいた大男が口を開いた。
「寛大な対応ありがとうございます。私はここのギルドマスターを務めさせていただいているジョアンといいます。改めて確認なのですが、こちらに拠点を移してくださるとのことでよろしいでしょうか? うちとしてはここを拠点にしているS級がいなかったので助かりますが」
この男がここのギルドマスターのようじゃ。
人間にしてはなかなか良い体格をしておる。丁寧な物腰のくせに殺す時はキッチリ殺しにくるだろう雰囲気も悪くない。
「そうじゃ。なに、キュウビは人探しをしておっての。ここなら有益な情報も集まるかと期待してのことでもある」
そう、キュウビの目的は人探し。そのためにずっと前から冒険者になって情報収集をしてきた。
「人探し……ですか?」
「そうじゃ。絶世の美女で、優しく、それはもう最高の女性なのじゃ。生き別れてからしばらく経つ、もう死んでしまっているのかもしれん。じゃがそれでも再び会えると信じて探し続けるとキュウビは決めたのじゃ」
そう、それがキュウビの使命だと信じておる。
だからこんな野蛮な人間どもの世界でキュウビは冒険者なぞやっておる。
「わかりました。ギルドから貴方にお願いをすることもあるでしょうし、その代わりに我々も貴方の人探しをお手伝いいたしましょう」
ここのギルドマスターは話が通じるようじゃ。前のとこのギルドマスターはホントクソじゃったからな。
「まぁ、しばらくはここに滞在する予定じゃし、今日は来たばかりで疲れた。また来るからよろしくな」
そう言い残して席を立った。本心としてはこの王都とやらを早く見て回りたかった。ここにいても退屈すぎる。
1階フロアに降りてくるとギルド内は先程よりも混雑していた。夕方の帰還ラッシュとかぶってしまったようじゃ。
その人混みの中を、フラフラ歩いてくる人影がひとつ見えた。
「アイツが噂の指名依頼だけで冒険者やってる奴らしいぜ」
「フラフラしてるぞ、大丈夫なのか?」
近くにいた冒険者達がヒソヒソ会話をしておる。
なるほど、王都のような都会にはそんな変な冒険者もいるのか。さすが世界は広い。
でもこんな簡単な仕事で稼げてないなんて、よっぽどダメな奴なんじゃろう。
どれ、すこし姿を見てみるかの。
ちょっと背伸びしながら待っていると、そいつの姿が見えてきた。
サラサラの黒髪は風もないのにふわりと揺れ、虚ろに開かれた目でも綺麗に思える紅い瞳……長い睫毛……白い肌……
ご……
ご……
「ご主人さまぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
――間違いない、間違いない!
この人はキュウビがずっと探し求めていた
「ご主人ざまぁぁぁぁーー!!」
感極まって涙が出た、でもかまうものか、ついに、やっと会えたのじゃ――
キュウビは急いでご主人様の胸に飛び込んだ。
フラフラだったご主人様はそのまま後ろに倒れこんでしまったが構うものか。
頭を、頬を、ご主人様に擦り付ける。
「ずっど探しでだのにどこ行ってたんですかぁーーー!」
「……え、あれ、……キュウビ?」
ずっとずっと、待ち焦がれていたご主人様の声が聞こえてくる。
「はい、キュウビでず、キュウビでずー!」
ご主人様の手がふわりとキュウビの頭を撫でてくれた。耳の後ろを撫でられると懐かしくて気持ちいい。
「ごめん、お腹すいて、もう……」
そう言ってご主人様はそのまま眠ってしまった。
「ご主人様ぁぁぁぁぁーーー!!」




