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 試験当日がやってきた。やってきてしまった。


「おい、あいつソロだってよ」

「今回のアホはあいつか。いい見世物だな」


 周りからいろいろ聞こえてくる。

 ヒソヒソ話をしても聞こえてんだぞこのやろう……


 B級昇格試験に望む冒険者の集合場所に指定された王都から少し離れた岩場には、数十人ほどの冒険者が集まっていた。


 もちろんソロなんて酔狂な奴は俺だけだろう。


「よぉ、ロイ。お前はひとりでも諦めずに昇格試験に来たんだな。せいぜい楽しみにしててやるよ」


 元いたパーティーのリーダーも俺を見つけて、わざわざ嫌味を言いに来やがった。ホント嫌な奴だ。


 遠巻きにこちらを見ている元パーティーメンバーも、新人の女の子までもがニヤニヤしていた。くそっ。


 今に見ていろ。俺はひとりでも必ず昇格して、幼馴染を迎えに行くんだ。


 この一週間で味わったユウとルージュとの特訓は本当に地獄だった。

 あいつら当たり前のように致死攻撃を放ってくる。

『どちらが高難易度の技を繰り出すか』で競い出した時には蒸発して死ぬかと思った。

 王都近くの岩山がひとつ突如として姿を消したのは、実はこのせいだ。


「よし、時間だな。今ここにいる人員で昇格試験を執り行う。以降遅刻した奴は参加も昇格もさせない。では、全員でグレートアーマーの棲む地点に移動するぞ」


 いま声を張り上げた冒険者パーティーが今回の試験官を務めるようで、皆に指示を出した。


 彼らはBランク、あるいはAランク冒険者グループだろう。

 Cランク以下にはそもそもギルドからの直接依頼は降ってこないし、彼らの立ち居振る舞いには落ち着きがある。


 ギルド専属の冒険者でなくともこうした仕事はBランク以上であれば、選考はあるものの受けられる。

 ギルドとしては専属冒険者を雇わなくて済むし、非戦闘員の職員を危険に晒さなくて済む。ギルドと冒険者との良い共存関係だ。

 もちろん試験官が不正などをした際の罰則は、かなりのものらしいが。




 ◆◇◆




  そこからしばらく時間をかけて移動し、試験場所には問題なく到着した。見通しの良い岩場に、グレートアーマーが何体もウヨウヨしている。相変わらず凄まじい光景だな。


 ここは王都まで遠すぎず、近すぎず、といった距離感の場所だ。

 王都からほど近い距離にグレートアーマーが大量に棲む場所があっても問題ないのには理由がある。


 奴等はこちらから攻撃しなければ、基本襲ってこないのだ。

 元は何かから重要なものを守るためにいた魔物なのではないか、というのが学者連中の見解だ。だから鎧のような体をしていて、常に同じ所でウロウロしていると。


 真偽のほどは知らないが、実技試験にはうってつけの特性のため昔から指定モンスターにされている。


「じゃあ時間もないし、早速始めるぞ。第1班前へ」


 試験官が指示を出すと、4組のパーティーが前に進み出た。


 この試験は参加する冒険者グループを3つの班に分けている。

 1班、2班が5人パーティーの4組ずつ、3班はソロ2名。


 俺以外にもソロいたのかよ、というツッコミは置いといて、そのように進行される。

 全員同時に戦闘しては試験官が審査も管理も出来ないための処置だ。


 グレートアーマーは基本的に自分が攻撃されない限り戦闘をしない。他の仲間が襲われていても無視する。

 だから取れる試験方法。


 ちなみに毎回最終班はソロと決められている。それはごく稀に現れる『本物』が来た場合、他の参加者も危ないというのもあるし、そうでない場合はソロは制限時間いっぱいまで戦闘する事が多く、後の進行に影響が出るからというのもある。表向きは。

 実際はただの見世物だが。


「1班の実技試験、始め!」


 号令とともに4組のパーティーがそれぞれグレートアーマーに立ち向かっていった。


 他の冒険者が戦う姿を客観的に見る機会はなかなか無いので興味深いが、やっぱり俺が気になるのは以前所属していたパーティーだ。奴らは第2班で出てくる。




 ◆◇◆




 結局、第1班で合格したのは2パーティーだった。

 落第してしまったのは火力不足のパーティーと、盾役が倒れてしまったパーティーだ。

 いくらグレートアーマーが特殊な攻撃をしてこないといっても、単純な強さは脅威だ。


「ロイ、お前は大人しく俺達が勝利するのをそこで眺めているんだな。その後、みんなでお前の無様な姿を見てやるよ」


 元いたパーティーのリーダーが俺に捨て台詞を吐いて前に歩み出る。いよいよあいつらの出番だ。


「第2班の実技試験、開始!」


 号令とともに第2班の4パーティーが駆けていった。


 あいつらパーティーはグレートアーマーの群れの中心あたりにいる奴に狙いを定めたようだ。


 リーダーの先制攻撃、右手に持った長剣で斬りつける。その攻撃によるダメージはあまり通っていないようだが、これでグレートアーマーに敵だと認識された。


「盾! 頼むぞ!」


 指示とともに盾役が前に躍り出た。

 グレートアーマーが持つ大剣の、地を這うような低空からの斬り上げを大楯で受け止める。

 その隙に後衛からは火球がグレートアーマーを狙って飛来し、直撃した。

 盾役が潰される前に、回復と補助魔法の得意な奴が盾役を援護してまた持ち直す。


 俺が元いたパーティーだ。なかなかうまく戦っている。

 個々人の能力はBランクに上がるのに問題ないレベルだ。


「オラァ!」


 リーダーが斬り込み、攻撃魔法の得意な奴が後方から攻撃する。

 このパーティーの基本は、これで構成されている。


 メンバー編成も、盾(ヘイト管理)、剣と魔法(攻撃)、魔法(攻撃)、魔法(補助、回復)、魔法(回復)といった構成。


 けれど、こいつらではグレートアーマーに勝てない。


 グレートアーマーが盾役を左腕で殴る。これで彼はしばらく動けなくなる。そこからグレートアーマーは体を回転させるようにして後衛3人を大剣で吹き飛ばした。


「盾、なにやってんだよ!」


「し、しかし!」


 奴らは気付いてないみたいだが、これは昔から変わらぬこのパーティーの弱点のひとつ。


 盾の奴は防御力が高く、敵の強力な攻撃でも受けきる力がある。だが攻撃を受けた際の硬直時間が長いのが特徴だ。


 ここで他の誰かが敵の注意を引いて後衛の魔法詠唱時間を稼いでやらないといけないのだが、今のパーティーにそれをやる奴はいない。


 今までは俺がそれを引き受けていたから後衛は攻撃に回復に専念出来ていたが、今のパーティー構成では魔法を使う前に回避行動を挟まないといけない。

 なのに、彼等はその事に気付いていない。


 特に、攻撃魔法が得意な奴は、強力な攻撃魔法が打てるものの静止していないと魔力をうまく練ることが出来ないクセを持っている。

 ちゃんとヘイト管理をしてやらないと能力を発揮できないタイプだ。


「「聖なる光よ我が仲間を癒せ、ヒール!」」


 回復魔法を使える2人が同時に魔法を使い、吹き飛ばされた後衛達を一瞬で回復させる。

 回復職を増員しただけあって、流石なものだ。


 けれど、2人ともが回復をしたら補助魔法がまだ掛かっていないリーダーはどうなる? ほら、簡単に吹き飛ばされた。


 以前の俺であれば、拙い回復魔法で味方を最低限のところまで俺が持ち直させて、戦闘初期は補助魔法に専念させるなどしていたが、こんな簡単に何人も同時に吹き飛ばされてはそれも出来ないだろう。


 そして何より。


「こいつ、固ぇ! 全然削れねぇぞ!」


 このパーティー編成はグレートアーマー討伐と相性が悪い。


 グレートアーマーは特徴の無い、ただ強いだけの魔物だ。だから属性攻撃に特に意味はなく、必要となるのは単純な火力。

 このパーティー編成は長期探索や時間制限の無い戦闘に有効なもので、瞬間最大火力が低い。

 強力な攻撃魔法をうまく詠唱できていない今は、それがより顕著だ。


 なんでこいつら回復職を追加したんだろう。あの女の子の見た目が好みだったとか、頼まれてカッコつけちゃったとか、そのあたりなんだろうが。

 いや、そんなものに立場的に負けた俺が言えることなど何もないが……


 グレートアーマーが連撃モーションに入った。

 1撃目は盾が受け止める。2撃目は回復職の子に直撃。それから間を置いて3撃目、またリーダーが吹き飛ばされた。

 誰も死んではいないが、既に連携は崩壊していた。


 きっと新メンバーを入れての連携強化もこの1週間あまりしていなかったんだろう、各々の特徴も出せないまま足掻いているだけだった。


「くそっ、こんなはずじゃなかったんだ……!」


 リーダーが毒づく。


「こんなの、こんなの……認められるかよぉぉぉ!!」


 リーダーが突如、見境なしに火球を周囲にばら撒き出した。癇癪を起こしたのだろう。


「おい、やめろ!」


「きゃっ!」


 味方の近くにも火球が着弾している。

 リーダーはプライドが高く、うまくいかないとすぐ癇癪を起こすタイプの人間だ。

 しかしあの場所で火球をばら撒くのはマズイ――


 そう思っている間にも、次々と着弾する火球。そのいくつもが周囲にいたグレートアーマーにも直撃した。これは……


「――全員逃げろ!」


 突然試験官の冒険者が叫んだ。


「お前らまとめて敵だと認識された! あいつら何処までも追ってくるぞ!」


 今まで大人しかったグレートアーマーまでもが被弾により戦闘行動を開始し、近くにいたパーティーに狙いを定めた。

 火球を打った奴が確認できなかったグレートアーマーは傍にいる奴を敵だと認識する。


 中には他のパーティーが戦っていたグレートアーマーもいて、激しく暴れ始めているためヘイト管理どころではなくなり、あちらでは敵味方の入り混じった乱戦が始まっていた。


 何体ものグレートアーマーが動き出した今、もう昇格試験どころではない。


「くそっ! ここにいる奴らは待機していろ!」


 試験官パーティーが走り出した。こんな不測の事態に対処するのも彼等の仕事だ。だが敵の数が多すぎる、彼らだけで大丈夫なのか。


 ――と思った時点で、俺も既に駆け出している事に気が付いた。


 あぁ、俺って元いたパーティーの事を恨んでたけど、やっぱりこういう損な役割を引き受けてしまう性格なのかな。

 試験ももう中止と命令無視でダメだろうしな。


 そう思っていると、俺の傍から凛とした声が響いた。


「ねぇ、ここでグレートアーマーを沢山倒したら、昇格試験合格にしてくれる?」


 声の聞こえた方を見ると、綺麗な銀髪を頭の上でまとめた女の子が俺の傍を走っていた。



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