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 指名依頼専門室に戻ってきた俺達。


 ユウは道筋が見えてきたと言っていたが、何にせよ試験までの時間が無いことは確かだ。


「実力を認めて貰ったのは嬉しいが、あと一週間しか時間がない。これからは俺達の連携強化に努めないか」


 そう提案した。


 俺が強くなれると認めて貰ったところで、試験に間に合わなければ意味はない。それよりも連携で合格率を上げる方が合理的な判断だ。


「……ロイはなにを言ってるんだ? 俺達は昇格したくないから試験に臨むのはロイだけだぞ」


「はぁ!? なに……! え、はぁ!?」


 絶句。


 5人のパーティーでギリギリ討伐出来るかどうかのグレートアーマーを、ひとりで討伐する? 正気の沙汰じゃない。何の冗談だ?


 ユウは真面目な顔をして語り出した。


「Cランク未満の冒険者が試験に合格しても、将来の昇格権利を得られるだけで飛び級はしないと聞いた。それでも、試験とか面倒なんだ!」


 真剣な顔して言うことかそれ。


「ん、Cランク未満が合格してもって、まさかユウはCランク未満なのか?」


「俺達はFランクだぞ」


「はぁ!? 意味わかんねぇ!」


 こんな化物がFランクとか間違ってる。

 隣に座るルージュにも雰囲気がある。こいつらがFランクだなんて何かの悪い冗談だ。


 どっちにしたって俺がソロで試験突破なんて、どう考えても無茶な話だ。俺の実力は俺が一番よくわかっている。

 そして、この試験にソロで挑む奴はみんなからアホだと思われている事も知っている。


 毎回何人かは現れるのだ、ソロで突破できると言いながら惨敗していくようなアホが。

 そのアホに俺がなれというのか。


「大丈夫だって、道筋が見えてきたって言ったろ。作戦なら考えてある。その名も……ドーピング作戦!!」


 力強く叫ぶ。


「武器も防具もこっちで用意する。ロイの装備はさっき破壊しちゃったから、そのお詫びだと思ってくれ。あとは一週間みっちり特訓したらグレートアーマーぐらい何とかなるだろ」


 簡単なことのように言う。

 そんな無茶苦茶な作戦があるんだろうか?


「いや、普通なら5人パーティーで挑むような試験なんだぞ……」


 俺が目を白黒させていると、ゼリーを食べていたルージュが会話に加わってきた。


「5人パーティーっていうけどさ、昔からそういった類の多人数パーティーとも私は戦ってきたけど、あいつら案外弱いよ。誰かを倒したら簡単に瓦解するから」


「……なんだって?」


「昨今の冒険者はスキルがどうとか、職業がどうとか言ってるけど特徴的ってことは、弱点もわかりやすいんだよね。極端な性能の人達が全員揃ってバランスが取れる構成だから、誰かを倒せば簡単に崩れるし。盾役を親切に攻撃してやる義理もないし、誰かを人質を取ってもいいし、パーティーを分断して個々に叩いてもいいし、逆に潰しやすくなって助かるよね」


「悪魔みたいな発想だな……」


「いいや、魔王だよ」


 ルージュがドヤ顔で答える。


「その辺の奴らが5人でやっと倒せる敵だからってのは考えなくていいよ。この程度の敵ならロイがそのまま強くなればいい」


 そうはいっても今から強くなるにも限度があるわけで、時間制限のある試験、敵を削りきるだけでも至難の業だ。

 言うほど簡単に出来る事とは思えない。


 ユウがいつの間に取り出したのか、綺麗な装飾の施された2本の剣をテーブルに置いた。片方は長剣、片方はやや短く対になっているようだ。


「この剣をロイに託そう。この剣には、涙なしに語れない過去がある。この機会に受け取って貰えると助かる」


「なんだこの剣……ちなみにどんな過去が?」


「これはな、元はどこかで倒した魔物の角だったんだ。その無骨さに惚れて一時期そのまま武器として愛用してたんだが……なんか知らん、小さい髭モジャのオッサンばかりの村に行った時、オッサン達が夜に宴会を開いてくれてな。そいつらと朝まで一緒に騒いでいる間に俺は眠ってしまったんだが……目を覚ました時には、俺の愛する角は、こんな無残な姿に変えられてたんだ……!」


 ユウは剣を握り締めて震えている。

 その小さい髭モジャのオッサン達ってもしかしてドワーフのことなのではないだろうか。


 もしそうじゃない人間の髭モジャオッサンばかりの村があったとしたら、それはそれで嫌だ。


「しかもスペアで用意していた角を含めた2本ともだぜ!? あいつら目を覚ました俺に向かって、小綺麗に変わり果てた剣を差し出して歓迎の証とかぬかしやがったんだ。ふざけんなよ、俺はあのままが良かったんだよ! 俺の無骨な角はもう帰ってこねぇんだよ! そんで俺もう頭に来ちゃってさ、全力でオッサンをぶん殴って吹っ飛ばしてやったんだけど、あいつら異常に固かったうえに楽しくなったのか『祭りだ!』とか騒ぎ出しやがって、そこからは村全体とちぎっては投げの大乱闘を丸1日したって過去があるんだ。最後にゃあいつら『人間は面白い』とか言い出しやがって、こっちは何も楽しくねぇんだよふざけやがって」


 ドワーフはずっと伝説上の存在と言われていた種族だ。その伝説だったものが、いつからか突如姿を現して人間と関わるようになった。

 それが何故かはずっと原因不明だと言われていたし、そもそもドワーフの村の場所は人間には見つけられないと言われていたんだが、果たして……


「あまりに腹が立ったから後日、この剣をそのへんの街で売り払おうとしたら『こんな異常な業物は買い取れません』とか言われるし……角のままだったら間違いなく素材として売れて高い金になったはずなのに、剣だと金にすらならないんだぜ!? 最悪だわ」


「大変だったんだな……」


 どう返事してやるのが正解なんだ。明らかに角のままよりも剣の方が価値ありそうなんだが……


「そんなわけだから、とりあえず手に取ってみてくれ」


「あぁ……」


 渡された剣を持ち上げてみると、異常に軽く、鞘から刀身を少し引き抜くと、素人目にも数打ちと全く違うとわかる鈍い輝き放っていた。刃に触れるだけで命まで切られそうな雰囲気だ。

 こんな一品、そこらの街で気軽に扱える代物ではないだろう。


 2本あるうちの片方が長剣で、片方がやや短いのはセットで運用することを考えられているのだろうか。

 短い方はやや太く、頑丈そうだ。


「すごい剣だな……」


「売れないし捨てるのも辛いし、収納スペースを圧迫して困ってたんだ。もうそれロイが触ったから返品不可な」


「……子供か」


「あー! じゃあ防具は私が用意する!」


 ルージュが楽しそうに身を乗り出し、どこから取り出したのか黒い胸当てをテーブルの上に置いた。

 赤のラインで装飾が施されているが、こちらも実用重視の趣きがある。


「これね、私の住処の宝箱にしまって置いてあったんだけどさ、誰も宝箱を開けてくれないまま終わっちゃったから困ってたんだよね。せっかく用意したのにね。ロイ、ちょっとこれ着けてみてよ」


 促されるまま胸当てを装着してみると、不思議なことに胸当てが体にフィットするよう伸縮した気がした。

 なんだか魔力も溢れてきた気もする。


「なんだこれ、魔力で体が覆われているようだ」


「そだよ。これいい防具なんだよ。呪いで暗黒魔法が得意になるけど」


「……今なんて?」


「呪いでね、暗黒魔法しか使えなくなるの。もう脱げなくなる呪いもあるから、人間社会で生き辛くなっちゃうね」


「なんて防具を装着させるんだ! 人間が暗黒魔法を使えるなんて聞いたことない、迫害されてしまうだろ! 鬼か!」


「えへへ、いいや、魔王だよ」


「お、おぉ、そうか……」


 魔王だったら仕方ないよな。

 もう、よくわからん。


「よし! 剣の処分……もとい、武器の準備もできたし、あとは足りない防具をちょっと追加したら試験までの一週間、みっちり特訓だな! 存分に強くなってもらうぞ!!」


 俺に不用品を押し付ける事が出来て嬉しくなったのか、ユウはノリノリだった。



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