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1 村娘ナナリー編


 冒険者って何だろう。

 そんな答の出ない事を考えていた。


「起きろ、もうすぐ到着するぞ」


 馬車の護衛をしている冒険者さんの声で、私は目を覚ました。

 いつのまにか眠ってしまっていたらしい。


 私はたまたま街道を通りがかった行商人の馬車に乗せてもらい、王都を目指していた。

 冒険者さんの言葉は、目的地の王都に到着するということなんだろう。


 荷物でいっぱいの狭い馬車の中で伸びをして、固まった体をほぐした。

 街と街を繋ぐ街道は馬車が安定して走れるようになっているとはいえ、重い馬車は揺れるし辛い。


「お嬢ちゃんは王都で冒険者ギルドに依頼を出すんだっけか?」


 商人お抱えの冒険者さんが声を掛けてくれた。


「はい。私の村にもモンスターが出現するようになってしまい困っているんです」


「そうか。俺達は商会と専属契約を結んでいるから力になれなくて悪いね」


「いいえ、とんでもないです。ここまで乗せてもらっただけでなく護衛までしていただいて、それだけでも私には十分すぎます」


「いい結果になる事を祈るよ」


 冒険者さんは笑った。きっといい人なんだろう。

 冒険者は荒くれ者が多いと聞いて警戒していたけれど、なかにはいい人もいるようだ。

 当たり前だけれど。


 冒険者。

 魔王が討伐された頃に立ち上げられた、新しい仕組みだ。いわゆる何でも屋さん。人々を魔物から守るために出来た組織だと聞いている。


 以前までの国が主導する騎士団に全てを任せる方法では即時性やコストの面での効率が悪く、国への負担が大きかった。

 そのことへの解決策として各国が話し合い、生み出されたものが冒険者機構だ。


 実際、冒険者さん達のお陰で以前と比べて格段に世界は安全になった。

 私がこうして一人で王都に向かう事が出来るのも、冒険者さん達が日々魔物と戦って数を減らしてくれているからだ。


 少し魔法が使えるだけの私では、以前の世の中で一人旅なんて危なくて出来なかったろう。冒険者さまさまだ。


 とはいえ、冒険者を手放しでの歓迎も出来ない。


 冒険者という稼業は危険も多く、また冒険者という資格を取得する人達の出自は問われない仕事。

 だからこそ、冒険者には気性の荒い人や、スネに傷があるような人も多く集まっていると聞く。

 一応ギルドが管理しているとはいうものの、怖いと思ってしまうことは仕方のないことだろう。


 でも、今回私は冒険者さんに依頼を出さなくてはならない。故郷の村を守るために。




 ◇◆◇




「どうなってるんですか!」


 冒険者ギルドに私の怒号が響いた。


「なんで依頼を受け付けてくれないんですか!」


 私は声を荒げて訴えるが、ギルド職員の女性は困った顔をするだけであった。


「ですから、予算が少なすぎるんです。依頼内容からみて冒険者は上位ランクの大型パーティーが必要となるでしょう。この依頼料ではとても難易度やパーティー編成に見合う報酬とならないため、依頼自体が成立しないんです」


 職員は困った顔で先程と同じ説明を繰り返した。


「でも……!」


 言いかけて、私は言葉を詰まらせた。


 私は王都に着くなり冒険者ギルドを探し、こうして依頼を出す手続きをしていた。しかし、依頼料の話になったところでこの結末だ。


 職員さんが言いたい事も分かる。分かっているのだ。


 貧しい村から出せる依頼料なんて、他と比べたら取るに足らない金額だということくらい。


 だけれど、納得出来ない。簡単に引き下がることなんて出来るはずもないのだ。

 私は村の希望を背負っているのだから。


 その“少なすぎる依頼料”にどんな想いが込められているのか、分かってもらえない事がたまらなく悲しい。


 村を出る時に「みんなでこれぐらいしか用意出来ないけれど、村を守るためよろしく頼んだよ」と手を握ってくれた村長の想いを。


「お前に危険な思いをさせるのは辛いが、私達には家畜の世話がある。少ない稼ぎのためだが村から離れるわけにはいかない。頼んだよ」と送り出してくれたお父さんの想いを。


 そんな想いなど微塵も関係もなく、金額だけで全てが判断される。

 そのあまりの悔しさに、怒りに、視界が滲んできた。


 世の中は金、金、金が全てだというのだろうか。


 そして実際、金が全てなのだ。


 現実は非情で、私は立ち尽くす事しか出来ないのだ。


「時間はかかるが騎士団が派兵してくれるかもしれん。それを待つんだな」


 近くで成り行きを見守っていた冒険者のひとりが声を掛けてくる。

 きっと慰めの言葉なんだろうけれど、今の私には嫌味にしか聞こえなかった。

 私にどんな顔をして、村のみんなにそれを報告しろというのか。


 他の冒険者が野次を飛ばしてきた。


「儲からねぇ仕事なんざ引き受ける奇特な奴いねぇよ! それこそ巷で噂になってる指名依頼専門の、頭のおかしい奴らでもなけりゃあな! ははは!」


 辛い言葉をぶつけられ、悔しさのあまりついに涙が溢れてきた。

 私には溢れ出るそれを止める事がもう出来なかった。


「そうですね。指名依頼を直接契約するのなら、ギルドへの手数料もないですしその予算で引き受けてくれる冒険者がいるかもしれません。私が把握している指名依頼を受け付けている冒険者を紹介します。彼らは2人組なので難しいかもしれませんが……」


 そう言って手渡されたメモを私は握りしめた。


 ギルド職員は、申し訳なさそうに、何かの助けになればとメモを丁寧に書いてくれたが、結論として、私達にはその絶望的な可能性に縋る他ないと突き放されたのだ。




 ◇◆◇




 歪んだ視界がやっと落ち着いてきた頃、私はメモに書いてあった場所にたどり着いた。


 そこは王都市民街の端、外周部にある建物だった。

 古いレンガ造りの建物の2階。

 外壁には木の看板が据え付けられており『冒険者ギルド指名依頼専門室』と汚い字で彫ってある。


 怪しさしか感じられない。


 しかし私にはもう他の選択肢が無いのだ。


 私は勇気を振り絞って階段を登り、古びた木製のドアを叩いた。


「すいません!」


 少し待つと中からドタバタとした足音が近づいてきて、勢いよくドアが開かれた。


「やぁどうもマーヤさん! ジュリエッタがまた脱走しました――」


 中から出て来た青年は突如そう言うなり、硬直した。


 何だ。何なんだ。


「……うちは羽毛布団なんて買いません!!」


 何だ。何なんだ。


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