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17 追放冒険者ロイ編



 俺は耳を疑った。だがそれは聞き間違いではなかったようだ。


「だから、お前はクビだよ。ロイ」


 再びそう淡々と告げられた。あまりに突然の出来事に、俺はアホみたいにただ立ち尽くすばかりだ。


 冒険者ギルドのオープンスペースに俺達パーティーはいつものように集っていた。

 いや、『俺達』パーティーではなくなったのか?


「どういう事だ?」


「お前みたいな特徴のない奴はもう俺のパーティーに必要ないって言ってるんだよ。お前の代わりに加入するメンバーも見つかったしな」


 リーダーが目を向けた先には、女の子が立っていた。

 メイスを持っているため回復職タイプだろうか。

 この状況で俺を見てニヤニヤしてやがる。嫌な感じだ。


「来週いよいよ昇格試験ってタイミングで、何を言ってるんだ。無茶だろ」


 俺達はBランク冒険者への昇格試験をもう来週に控えている。

 中堅冒険者と認められるには険しい実技試験をこなさなくてはならない。今のこのタイミングでメンバーの入れ替えなんて無茶な行動としか思えなかった。


「ロイは前衛だったが盾役としては頼りないし攻撃力だって微妙だ。つまり役に立たねーんだよ、お前」


 リーダーが吐き捨てるように言った。他のパーティーメンバーも俯いたままだ。

 言葉にはしてこなかっただけで、どうやらみんな意見は同じだったようだ。


 確かに俺は何かに特化したタイプではない。だがだからこそ特徴的なメンバーばかりのパーティーの中で、時に前衛、時に後衛と、バランサーの役割を担ってきたと自負していた。


 だけれど、そう思っていたのは俺だけだったようだ。


「あぁわかったよ、勝手にするがいいさ」


 仲間だと思って損した。

 もうこいつらと話す事などない。


「勝手にするね、お前はクビだ出て行け」


 そう言われて頭に血が上った俺は踵を返して冒険者ギルドを後にした。

 今日は依頼を受ける気にもならないし、あいつらと違う宿をとってふて寝してやる。

 そう決めて歩き出した。





 ◇◆◇





 そんなだから、こうしてベッドで頭を抱えることになる。

 まぁ、よくある話だ。


 このままでは俺は昇格試験を受けるどころではないため、Bランクへ上がれない。

 いくら役立たずだと罵られようとも試験まではパーティーにしがみ付くのが正解だったのだろう。

 正解だとわかっていても、それを行動に移せなければ何の意味もないのだが。


 それにたとえ俺が懇願したところで昇格試験は1パーティー5人までと決められていて、俺と入れ替わりであの子が入れば5人の定員。

 しがみ付く以前に取り付く島もなかったというのが本当のところだ。


 俺はBランクに昇格したい。

 それはBランクになれば冒険者としても中堅だと認められ、受けることが出来るクエストの種類も報酬も増え、生活が安定するためだ。


 間の悪いことに故郷の幼馴染へは、もう昇格すると手紙まで出してしまっている。

 これで昇格出来ませんでした、なんてカッコ悪くて言えないのも大きな問題だ。


 一人前の冒険者になって故郷の幼馴染を嫁にする、そう青写真を描いていたものが、ここにきて急速に遠退いた。まぁ、まだプロポーズもしていないんだが。


 はぁ。


 俺はBランクに上がりたいんだが最大の問題点は、この昇格試験はソロで突破できるようには作られていない、という点だ。


 駆け出しのFランクからDランクへは、何度か依頼をこなしていれば勝手に上がる。またDランクからCランクへはある程度経験を積んだ冒険者ならクリアできる試験があるくらいだ。


 しかしそこから先が難しい。


 Bランクの冒険者になるためには信頼性が求められる。

 突出した能力、あるいは他の冒険者との協調性と一定の地力があり、困難な依頼も達成可能とギルドに認めて貰えなくてはならないのだ。


 その審査における実技試験がグレートアーマー時間内討伐だ。グレートアーマーは、大型の鎧のような魔物で、体は堅く魔法も効きにくい。


 一部の突出した能力がある奴はソロで討伐も可能なんだろうが、まずそんな奴はいない。

 ほとんどの冒険者はパーティーを組んでこの試験に臨む。俺が所属していたパーティーもこのタイプだ。


 最大5名、それだけの数の冒険者と一緒に共闘できる協調性が無ければBランクへは上がれない。

 また、人数が5名集まれば討伐は容易なのかというと決してそんな事はなく、各々がうまく連携してやっと倒せるくらいの難易度設定となっている。


 時間制限があるのも厄介で、チマチマ削る作戦もとれない。


 このBランク昇格試験は別名『中途半端な奴の壁』と呼ばれていて、俺は今まさにその壁にぶつかっていた。


 とにかく頭を抱えていても仕方がないんだし、改めてギルドに行ってみよう。

 もしかしたら空き枠のあるパーティー情報があるかもしれない。





 ◇◆◇





「ありません」


 当たり前の返答しか来なかった。


「エントリーしている人達で空きがあるパーティーの話は聞きませんし、既にどこも最終の連携調整に入っていますので、今からでは難しいかと……」


 受付嬢は申し訳なさそうにそう話す。


 そりゃそうだ。

 直前の今は連携の強化をする時期だ。

 今頃メンバーを集めている時点で、そのパーティーは既に不合格だと言っていい。


「無いよなぁ。すまんかった、変な事を聞いて」


「昇格試験にはCランク以下の冒険者しかエントリーも出来ませんから助っ人も難しいですよね……」


 有り難いことに受付嬢は一緒に悩んでくれているようだ。


「……Cランク以下で、お金さえ積めば一緒にエントリーしてくれそうな人達の紹介は出来そうなんですけど……どうしますか?」


「なんだそれ?」


「お金のためなら文句をブーブー言いながら、なんだかんだ手伝ってくれそうな人達です」


「ただのクソ野郎じゃないか」


「はい。でも何故か、不思議なんですけれど、何とかしてくれそうな気がする。そんな人達なんです」


 なんだそれ。





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