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 あ、やっぱりこの紅茶おいしい。


 そんな現実逃避をしているなか、みなさんの口論は続いています。


 みなさんテーブルセットを囲んでのお茶会のようになりました。


 家主の青年はソファに浅く座っていますが、女の子の方はソファに埋まっていて、足が少し浮いています。かわいい。


 帰るタイミングを逃したわたしは、居場所なく紅茶を飲むしかありません。

 あ、このお菓子も美味しい。


「というかアホボンの体型どうなってんだよ、すげえデブだったはずなのにいきなり痩せてさ」


「君の精霊樹の葉ですっごいお腹こわしてね。気がついたら痩せてたんだよ。っていうかお腹こわしたの君のせいなんだからね!」


「んなもん完全毒耐性の副作用みたいなもんなんだから仕方ないだろ。親の金でぶくぶく太りやがって」


 完全毒耐性なんて聞いたことありませんけれど、この人達の頭は大丈夫なんでしょうか。


「でも、完全毒耐性を身につけたおかげで試しに簡単な毒を摂取しても無事だったし、なんだか身体も軽い気がするんだ。不思議な無敵感があるよ」


 それ毒に侵されている証拠なのではないでしょうか?


「俺が貴族のアホ息子なんかのために毒耐性を身につけさせたのは執事のジジイのためなんだからな。勘違いすんなよ」


 貴族――!?


 そういえばショックで忘れていましたけれどファルさんは貴族の方だったのでしょうか!?

 ここにきて普段から夜会に参加せず貴族の顔を把握していないデメリットが再び登場しました。


「ごめんなさいファル様、貴族の方とは知らずに今まで失礼を!」


 立ち上がり頭を下げると、みなさん笑ってくれました。


「こんなアホボンに貴族扱いなんて不要だぞ」


「僕は三男だから、そんな気にすることないよ。ファルと呼び捨てにしてくれ」


「お忍び中じゃから一般人と同じように扱って大丈夫じゃ」


「ゼリーうまい」


 不敬を咎められなくて少しほっとしました。

 昨日の出来事から貴族は怖いという認識になっていましたから。


 一応わたしも男爵令嬢ですけど……そうだとしても、男爵は爵位でもいちばん下位なので、みんな自分より上だと思っておけば間違いないのです。

 それに今はただのアリシアなので余計に。


「そういえば、アリシアさんは家を追い出されたと言っていたよね。よければ事情を聞かせて貰えないかな?」


 痛いところをファルさんに突かれました。


「あの、えっと……」


 こんなことを聞いてくるということは、ファルさんは昨日の夜会に参加していなかったのでしょう。

 あの場にいらしたら、わたしの顔は知っているはずです。

 大半の貴族が参加したはずの公爵家主催の夜会に参加してないというのは三男だからなのでしょうか。


 どちらにしても、ここにいるのはわたしの知らない人ばかりなので身の上話をしてスッキリして帰るのもいいかもしれません。

 どうせ雇って貰えないならストレス発散に付き合ってもらってもバチは当たらないと思いたいです。


 そこでわたしはありのまま話すことにしました。

 さすがにわたしが男爵令嬢という事や実家の具体名、マルクス様、リリアン嬢の名前といった重要な部分はぼかしてですけど。


 それでも説明を終える頃には、わたしは少し泣きそうで笑顔を作るのに必死でした。


 婚約者に捨てられ、悪役にされ、実家には見放されて今は宿無しの職無し。笑えません。

 今持っているものはトランクひとつ、それもお母様から貰ったボロボロのドレスが入っているだけです。


 それを聞いたファルさんは


「僕は最近、暗部の扱い方を教わったんだ。アリシアさんのために使うよ。ちょっと調査をする」


 と言って窓際に立ち何やらジェスチャーを始めました。


 毒は頭にまで回っていたのでしょうか。


 その気持ちだけで嬉しいですけど、暗部なんてものを信じているポンコツっぷりは心の純粋な弟達のようです。


 今度は家主の青年が話し出しました。


「あー、ざまぁは不毛だからやめとけな。そこのアホボンみたいなハゲと一緒だ、不毛だ不毛」


「ハゲてないよ!」


「住む家もないなら執事のジジイに頼み込めばいいんじゃないのか? メイドとして雇って貰うとか」


「うーむ、うちの屋敷だと難しいのう……ワシは立場もそれなりにあるんじゃが、だからこそ下手な口利きをするわけにはいかんのでのう」


「正論だねぇ」


 やはりわたしの居場所はないようです。


 女の子がゼリーを食べ終わったようなので、わたしの分のゼリーをそっと女の子の方にずらします。


 女の子はそれに気づくとこちらを見て親指をグッとしました。

 わたしも親指をグッとしておきました。いや、それ毒のはずなんですけど大丈夫なのでしょうか。


「じゃが……ワシらの憩いの場としてここを改造するなら、ファルの予算から専属従者をここに置いておくのは良いかもしれんの。お主らは客にお茶と称して水を出すし」


「お金がかからないなら良し、うちで採用!」


 えっ?

 ……えっ?


「え、あのいいんですか? あの、ありがとう……ございます?」


「よかったねアリシアちゃん、仕事が見つかったよ」


 笑顔でファルさんが話してくれます。眩しい。


 わたしはここで働かせて頂いて良いのでしょうか? 


「かわりにファルのお小遣い減額なのじゃ」


「「えぇっ!?」」





 ◇◆◇





 どうやらわたしは、ファルさんに雇われた従者としてここ、冒険者ギルド指名依頼専門室に派遣される、という形になったようです。主な仕事は家事手伝い。

 普段はユウさんとルージュさんやお客さまのお世話をしていたら良いらしいです。


 わたしのお給金と、ユウさんルージュさんへの憩いの場使用料はファルさんのお小遣いから出るようです。


 お小遣いの一部程度の価値しかないわたしって一体……


 ともかく、小さなアパートまで借りていただいて至れり尽くせりです。汚れていたお母様のドレスも何とかなるかもしれないと預かっていただけました。

 こんなに良くしていただいて大丈夫なのでしょうか?


 ビス執事さんが言うには、領地からの収入があるから少しくらい問題ないとのことです。

 領地を持つ貴族家はうちのような貧乏男爵家と違うようです。


 ビス執事さんからは、環境確認としてユウさんやルージュさんのおかしな部分があったら報告して欲しいとの依頼もありました。

 安全確認の意味でしょうが、なんだかスパイみたいです。









 それ以前に、ファルさんが1番おかしい気がするのですが、その場合どうしたら?


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