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「ちょっとそれ、どういう――」


「お前はあの執事のジジイの配慮がわからないのか? 丁寧に構成された毒の順番、そして冒険者がここにいる事。そんなだから太るんだよ」


 ……え、何を言っておるんじゃ?


「まず最初のお茶には、痺れ効果のあるヘソロン草が微量にだが含まれていた。この痺れ効果によって後の毒による内臓へのダメージを軽減する準備が出来たわけだ」


 アホ男は自信満々に話しだす。

 それにアホ女も便乗してきた。


「今回の草は2年前に収穫されたものだね。例年と比べると甘みがほのかにある、良い出来だった年のものだよ」


 え、なんじゃそれ怖い。


「次にサラダのキノコ。レブ茸には体力を奪う効果があるが、これもまた体の防衛機能が過剰反応するのを抑える効果がある」


「私としては炒めた方が好みだけどね。味に深みがでる」


 ファマティ王子は目を白黒させている。

 きっとワシも同じ顔をしているんじゃろう、状況についていけてない。


「そして魚はジルべ、白身魚だ。身と肝に致死性の毒があるが、これがまた美味いんだ。俺は過去、この魚を食べて3回ほど死んでいる。それくらいの美味さだ。今回の料理はソースにもジルべの肝が使われていて、美味さを十二分に引き出していた」


「ユウは人生エンジョイしているな」


「ちょっと待ってくれ、つまりどういう事なんだい……?」


 いよいよファマティ王子に落ち着きが無くなってきた。当然だ、毒がしこたま盛られたと知らされたのだから。


 こいつら本当は毒について気付いていたのか?

 まさか場末の冒険者風情が世界中の毒に精通しているなど信じられない、というか、知っていたならなぜ食った? アホなん?


 甘くみていた、状況が変わった、今すぐ暗部に暗殺の指示を出すか?

 いいや、奴らは確かに毒を食べた。直接手をくだすまでもないはずだ。


 何種類かの毒の相乗効果で、あともう少しで全部の毒の効果が表面化する。今更バレたところで動く必要はないはず、もう死ぬ。


「お、そしていよいよ運ばれて来たな最後の肉料理。わざわざコックが料理を運んで来てくれたのか。うん、予想通りいい肉だ」


 アホ男は嬉しそうにそれを出迎えた。


 それに対しコックは震えていた。自身の料理が王子を殺すなんて考えもしなかったのだろう。挨拶をするために来た今ここで、真実を聞かされた。

 それもそのはずだ。食材は普通の食材から毒へと今日すり替えたのだからコックは何も知らない。


 こいつも味見で毒を多少なりとも摂取していただろう、何も知らずに死んでおけばよかったものを。


「まだわからないか? この肉料理は仕上げの皿だ。全てがここに揃ったんだ。コース料理なのにスープが無かったこと、出された毒の順番と構成、そして冒険者の俺たちがここにいる事。それらは全て同じ結論を指し示す」


 ……え?


「この食事会は、アホボンのお前に完全毒耐性を身につけさせる目的のものだったんだ! こんなアホボンのためにここまで配慮するとは、なんて家族思いの出来た執事なんだ。依頼に来た時には胡散くせぇジジイと思っていたが申し訳ない」


 アホ男は泣いておる。

 奴は何を言っておるんじゃ? 毒を効きにくくする術があるという文献を見たことはあるが、完全毒耐性なぞ聞いたこともないぞ。


「一定以上の冒険者であれば、常に解毒薬を持っていたり毒耐性を得る手段を知っていて当たり前だろう! そういう危険な職業だからな。執事のジジイは、俺たちが全世界の毒に精通していることを見抜いてこの依頼を出したに違いない。飯を食べるだけの仕事と言っておきながら全く、とんだやり手だ完敗だよ」


 何言ってんのコイツ。


 そもそもこんな特殊な毒の解毒剤なぞ簡単にあるはずもないじゃろう。そんな多種多様な解毒薬をアホ男は持っているとでもいうのか?


 アホ男は手近にあった器に何か液体を流し込み始めた。


「その気持ちに応えて今回は特別に、アホボンに完全毒耐性を身につけさせてやろう。ついでにコックも一緒にな。まず完全回復薬をスープ代わりに使ってやる。アホボン、飲め。あと肉料理のお供に精霊樹の葉だ。即死毒を食らっても即抗体作成が可能な野菜だからモリモリ食べるんだぞ。この組み合わせを使えばお前の体内に抗体だけが残って完全毒耐性獲得だ」


 なんじゃと!?

 完全回復薬なんてもはや伝説上だけの代物じゃないのか、そして精霊樹の葉って何だ、本当にそれは『野菜』なのか!?

 まさか人為的にあらゆる毒耐性を身につける事が本当に可能だというのか!?


「私はこの野菜要らないからコックの君、食べたら? その代わりにポイズンスライムのゼリーとかないかな、あれ好きなの」


 なんじゃ!?

 何が起こっておる!


「あ、デスバードの肉は溶血毒なんだけど美味いわこれ」


「私のコックがいつも私を毒殺しようとしてたから、小さい頃から全状態異常耐性がついててね。毒の味は故郷の味だね。で、ポイズンスライムはない?」


 なんであいつら自由なんじゃ!?


「じゃあアホボン、俺は少し席を外すから、ちゃんと飲んで食えよ」


 アホ男はお手洗いに向かっていった。


 まさか本当に、解毒出来るというのか!? 完全毒耐性などという未知のものを身につけることが出来るのか!?


 ワシはファマティ王子の動向を凝視した。


 ファマティ王子は言われた通り恐る恐る完全回復薬を飲み、肉料理と精霊樹の葉を一緒に食べている。

 特に変化は見られないが――


 いや、ファマティ王子がカッと目を見開いた!


 急に立ち上がり、走って向かう先は……お手洗いだ!!


 ドアノブに手をかける! しかし、先にアホ男が先に入っているためドアは開かない!!


「うぉぉぉぉ! お腹いたい!」


「なははは! 精霊樹の葉は毒状態で食べると下剤と同じでお腹こわすからな!」


「ちょっと開けてくれないかな!!」


「ボンボン、権力というのは時に無力なんだよ。それは早い者勝ちというやつだ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 うぉぉぉぉぉぉぉ! どうなっている!!?





 ◇◆◇





 結局、アホ男の言う通りみんな無事だった。


 ファマティ王子は漏らしかけたせいでスンスン泣いていたが、どうにか無事だった。ギリギリだったらしいが。

 コックの方は初めから違うトイレにいちはやく駆け込んで無事だったらしい。


 全てが落ち着いた後、仕方なくワシが食堂に姿を見せると、アホ男はワシを崇め続け、この人は一番の家臣だなどと騒ぎ続けた。もう何も言えなかった。


 後日、今回の騒動は王城関係者から『ビス大臣によるファマティ王子完全毒耐性獲得計画』だったと勝手に認識された。


 コックからは「王家繁栄のための光栄な仕事、末代まで語り継ぎます」と泣いて喜ばれ、メイドからは「こんな素晴らしい仕事を担当させて頂けるなんて、改めて一生王家に忠誠を誓います」と謎の心機一転を告白され、ファマティ王子からは「勝手ばかりしていろいろ心配かけてごめん」と何故か謝られた。


 ワシは王城の中で『真に将来を憂う者』という謎の称号と賞賛を得た。

 第2王子だけを支持していたと思っていたのに、そんなに国のためいろいろ熟慮していたのか、と。


 アホ冒険者どもが精霊樹の葉を持っていたせいでファマティ王子の完全毒耐性獲得は1度で完了したらしい。


 いろいろと後戻り出来ないところまで来てしまった。

 いまさら暗躍や画策をするのは無意味になってしまった。既に王家からの信頼度は謎のナンバーワンだ。


 実はあの時、混乱していたワシはハンドサインで暗部に暗殺指示を出していた。


 しかし結果は、吹き矢の毒針を首にプラプラさせながらファマティ王子が「もう心配かけないよ」と泣いて謝るという地獄絵図が展開されただけだった。

 しかもワシのハンドサインを見たアホ男が、真顔で『俺にもそれ出来るぞ』と言わんばかりに指を使ったキツネさんを見せつけてきただけの、しょうもない話だ。


 この食事会でファマティ王子は毒耐性を身につけ、ワシはなぜか王家からの信頼を得た。

 もうわけがわからん。


 ワシはこれから心を入れ替えて生きていこうと思う。世の中は広く、得体の知れない者が世の中にはいるということを思い知った。

 ワシはワシの領分で生きていこう。

 王家全員を支援してもワシの立場は揺るがないものになったのだから。


 そしてあの冒険者どもは自然に『定期的にポイズンスライムを送ってくれ』という謎の約束をワシらに押し付けて帰っていった。

 ホントなんなんじゃあいつら。


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