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 計画は雑でも構わない。

 ファマティ王子と冒険者が一緒に殺されれば良いのだから。


 殺すだけなら何処かに誘き出して斬り殺せば良いのだが、ワシはファマティ王子を嫌っているわけではない、最低限の敬意は払う。

 そのための毒殺だ。多少は苦しむだろうがそれは仕方ない。


「今日は王子の見聞を広めるために冒険者との会食を手配したので楽しみにしてくだされ。珍味も用意したので、彼らには毒味役として食事に参加してもらうよう依頼をしてあるのですじゃ」


 嘘じゃない。


「毒味役としてか! 冒険者と話が出来るなんて楽しみだね」


 ワシの隣で人の良さそうな笑顔を浮かべるのはファマティ王子。

 太っているが、ふわりとした銀髪に優しい顔、そして性格も優しいという生まれ持っての人たらし。それがこいつだ。


 ワシは計画通り、こいつを誘い出すことに成功していた。


 城下町の様子に興味があるこいつのことだ、冒険者との会食と言えば誘い出すのは容易だった。


「先にお伝えした通りワシは執事に扮しており食事の準備などで同席できないため、今回は王子と彼らとの食事会となりますのじゃ。ただし、彼らにはファマティ王子の事を貴族の令息と説明してあるので、くれぐれも身分は明かさないで欲しいのですじゃ。身分を明かして彼らに誘拐などされてはたまりませんからな」


「わかったよ」


 冗談めかして言うとファマティ王子は納得してくれた。


 王族と冒険者が同じテーブルにつくなど普通では考えられないため、この会食は彼にとって貴重な経験となるだろう。


 だからこそファマティ王子はワシの依頼通り普段は使われていない屋敷なんて怪しい場所までノコノコ来たのだ。

 周囲にこの会食を秘密にしてくれという願いを聞いてまで。


 そして冒険者との会食という特殊な舞台を水入らずの状態に整えるために今回はワシが執事役で立ち合い、食事の準備などをするため席を外す。となっている。


「まぁ、たとえ冒険者が暴れようとも周囲には暗部が控えているので何も問題はないのですがね。じゃから安心して欲しいですじゃ」


 嘘じゃない。ただし確実にファマティ王子を殺すためのワシが育てた暗部だ。


 嬉しそうにファマティ王子は人の良さが見て取れるいい笑顔を浮かべた。

 そんないい人だから殺されるのだ。





 ◇◆◇





 辿り着いた食堂のドアを開けると、例の冒険者2人組が執事とメイドの姿で立っていた。


「おいっすー」


 執事どころか態度はオッサンだった。


「お、おいっす……」


 ファマティ王子、それはさすがに返事しなくてもよいですじゃ。


「だ、誰かから服を借りたのか? 今日はよろしく頼むぞ。ま、まぁワシは準備があるから後は任せたぞい」


「館に来るなら執事とメイドかなと思いまして。今日の毒味役はお任せください」


 アホ男は丁寧な礼をした。

 よくわからんが後のことは奴らに任せて逃げ出そう。こちらは作戦さえうまくいけば良い。


 さて……


 気を取り直してさて、最初に用意するのはお茶だ。


 このお茶には遅効性の毒を混ぜてある。ほんの少し体を痺れさせる効果がある。


 味覚を鈍感にさせ後の毒に気付かれにくくし、いざという時も痺れさせて逃がさないための下準備だ。


 味には多少の苦みがあるが、お茶の苦味と併せたらわからないレベルで、またこの毒が採取できるのは他国の森林であるためよほど毒に精通していなければ気付くことはない。


 仕事に対してやる気ない使えないという噂の捨て駒メイドにお茶を運ばせるよう指示を出して、ワシは覗き穴から奴らの様子を伺う。


 丁度やつらはテーブルに着席したところだった。


「いいかボンボン、食事が無料で提供されるのが当たり前だなんて思ってるんじゃないぞ。あの執事のジジイは頑張ってるんだから毎日感謝しろよ。そんなだから太るんだ」


 ……なんか説教しとる!!

 なぜ、なぜ冒険者が王子に説教しとるんじゃ!?

 アホなのか!?


「そう言われればそうだね。僕は今まで食事が自由に食べられる事に何の疑問も持たなかった。それが既に驕りだったのか」


 なんか納得しとる!!

 いい話みたいになっとるが、ただ単に彼らはクズ冒険者で金がないというだけなんじゃがな……

 全員にお茶が用意される。


「出されたものを最初に頂くのは俺たちだ。いいか、先に俺たちだ。ボンボンのお前は後だ。わかったな」


『群れのボスは俺だ』みたいな論調だが、お前達はただの毒味役じゃ。


 アホ男がお茶に口をつける。


「……むむ! これは、まさか……もしや執事のジジイは……!」


 突如意味不明な事を呟き出すアホ男。


 なんじゃ、もしかしてこいつ、この毒を知っておったというのか!?


「おいボンボン、お前もちゃんとこのお茶を全部飲み干せ」


 そうでもないらしい。


 メイド服のアホ女も普通にお茶を飲んで


「あ、これ懐かしい味がする」


 とか言っている。


 毒の味が故郷の味とか、涙が出そうなんじゃが。


 とりあえずファマティ王子もお茶を飲んだ。

 ここまでは問題なく進んだと考えて良いんだろう。


 次は前菜のサラダ。


 こちらにも毒が仕込んである。

 サラダの中に入っているキノコは体力を奪う効果がある。これも逃げる力を削ぐ目的のものだ。また、この毒だけでも数時間後には動けなくなり死に至る危険なものだ。


 アホ女はサラダを食べるなり「うまい!!」と叫んだ。

 毒入りのサラダ程度でそんなに喜んでいるのを見ると、切なくなる。


 アホ男はサラダに口をつけると「執事のジジイ……感服だぜ」などと呟きだした。

 よくわからんが、もはやこいつらの言動の意味を考えても無駄かもしれない。


 何も気にしないでサラダを食べるファマティ王子。警戒心など微塵も感じられないため、やはりこいつらを毒味役に選んで正解だったようだ。


 ファマティ王子は合間合間に冒険者と雑談をしているため嬉しそうだ。

 奴らは食うのに必死で素っ気ない返事しか返ってきていないが。


 次は魚料理。

 この魚は、食うと美味いが毒で死ぬ、というシンプルなものだ。

 この毒を摂取すると2時間後には神経毒がまわり悶え死ぬ結末になる。いよいよ短時間で殺せる毒だ。


 アホ面どもは何の躊躇もなく料理を食べた。


「うまい!!」

「さすが執事のジジイ、コックの腕も完璧だな」


 あいつらは相変わらず美味そうに食べる。

 そして毒を食わせとるのに、すごく感謝されとる。


「ホントに初めてみる食材だけど美味しいね。でもなんだか体がだるいんだ」


 ついにファマティ王子が体の不調に気づいた。

 だが今更気づいてももう遅い、お前達はみんな毒入り料理を食べた、もう手遅れだ!!


「当たり前だろボンボン、料理は全部毒入りなんだから」


 …………ぬん!!?


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