P4 古墳姫・蘇生
飛鳥は、見つけた。
自分の家の隣に、大きな何かがある事を。
飛鳥というのは、1人の青年の名前である。
冠位十二階で1番位が高いとされている、紫の冠を被っており、いかにも金持ちそうな衣服を身にまとっている。
しかし、誰にでも性格や趣味がそれぞれある物で、特にこの人は……
「何でしょう…。」
豪族である飛鳥よりも遥かに大きなそのひらべったい建物的な何かは、見れば見るほど興味のそそられる物だった。
それの上の方を見ると果てしなく続いて行きそうなほど縦の幅がある事が分かった。
しかし、こんなに大きな物でも、飛鳥の家よりは古いみたいだ。所々草や苔も生えているし、扉らしき物に掛けられている南京錠も、その形が分からないくらいに錆びて変形していた。
飛鳥は、そんな建物(?)を見て歓喜のような、動揺したような声を小さく立てた。
「こ…これ……!?」
そして、大きく息を吸った。
「これってもしかして、仏教で最古の遺跡か何かですか!? だとしたら凄い芸術品です…!!」
そう、彼【飛鳥】は、仏教を愛して止まない【仏教ヲタク】の青年だったのだ。
飛鳥は、目を輝かせながらゆっくりとその建物に近づく。まるで、獲物を捉えるために忍び寄る猫のように。
「な、中に入りたい…! それが無理なら、せめて、触るだけでも……!!」
この一言だけ聞いていたら、行動からしてもかなりの変態と間違われるだろう。
そのまま飛鳥は、小さい南京錠に手を掛けた。しかし、壊れかけている凄く脆そうな南京錠なのに、何故だかどんなに力を入れても開くことが出来ない。
「ど、どうしましょう。誰かに頼むにも、まずは自治会長さんを説得しないといけませんし、手伝って頂ける保証も……。」
自治会長とは、この年表の中で1番年上の【縄文】のことだ。
しかし、口下手で住民から恐れられているため、必ず縄文が何かをいう時は弥生が通訳をしているという感じなのだ。
少し悩んでいたら、急にその答えが思いついた。飛鳥は真顔で声を出す。
「あ、そうだ。」
そう言ってから、すごい速さで飛鳥は走り出した。
奈良という男の家に向かって。飛鳥の家を通って、その隣の家へ。
家が近かったため、そんなに時間はかからないのだが、飛鳥が全速力で走った結果、二分分程で到着した。
一体、飛鳥は何を考えているのだろう。
(私と同じ仏教ヲタクの奈良さんなら、私の気持ちを分かって頂けるはず! まずは味方を作らねば!!)
普通に馬鹿なことを考えていた。
ちなみに、奈良家は巨大な仏像だ。
ちゃんとした形で出来ており、どこからどう見ても家ではないのだが、飛鳥は仏教が好きという気持ちをそこまでして表せるのは凄いと思っている。
ちなみに、普通の人が奈良の家を見た瞬間、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら後ずさり、最後には1度帰ってしまうという。
とりあえず、飛鳥は仏像の足の辺りをノックしてみた。
コンコンッという、空洞が出来ているようなこもった音がする。
「どなただ?」
「あ、私ですよ、奈良さん。」
飛鳥の声を聞いた後、奈良は仏像の裏の方から出てきた。 これが、彼にとってはいつもの事だ。そして、飛鳥にとっても普通の事だ。
「おお!飛鳥!! 俺の仏教仲間!!」
「はい!貴方の仲間の飛鳥です!!」
そう、大声で言葉を交わした後、2人は再開した遠距離恋愛中のカップルのように抱き合った。
ただの隣の家の隣人だというのに。
「とにかく入ってくれ!一緒に仏教について語り合おうじゃないか!!」
「はい!お邪魔します!!」
ハイテンションなまま2人は入っていくと、大仏家の中はさほど広くなかった。
今は大仏の腹部辺りの部屋にいるようだ。
そこからは通路や階段が沢山あり、それぞれに看板がかかっている。
・右腕らへん ・左腕らへん
・右足らへん ・左足らへん
・頭部らへん ・口のベランダ
一般人からしたら、かなりおかしな所だろう。
しかし、奈良はともかく、飛鳥もこの家のことについて一切ツッコまない。
この2人は、まさに狂っている。
出されたお茶を飲んで一息つくと、ついに飛鳥が本題を出してきた。
「それで、お話したいと思っていたこと何ですけど…。」
かくかくしかじか…と、飛鳥は説明した。
その話を聞き、奈良は笑顔で答える。
「ああ!あの遺跡は俺も見たことあるよ!!
俺もずっと中を見てみたかったんだ!!
そういう事なら力を貸すよ!
一緒に縄文さんの家に行こう!!」
と、言うことらしい。
大分早く話は終わり、二人は出て行き辛そうな細いはしご(左足)を降り、大仏の親指のドアから外へ出た。
そして、西の方、縄文の家へと向かった。
竪穴住居の扉を開けると、普通に暗闇から縄文が出て来た。
「…どうしたの?……何かあったの?」
死んだ(狩った)小鳥を握りつぶしながら、縄文は言う。
その行動から飛鳥は少々引いているものの、奈良はお構い無しで、話し始める。
「いや、飛鳥と弥生さんの家の間に、大きな仏教(?)の遺跡がありましてねー?
そこに扉があったので、中に入りたいなーって思いましてー!!」
「え、いいけど、別に。」
あっさり、受け入れられた。
普通に真顔なキョトンとした顔で。
相変わらず、鳥の死骸を握り潰しているが。
「ありがとうございます!!
よし!飛鳥行こうっ!!」
「はい! 縄文さん、ありがとうございます!」
そう言って、縄文の家から二人は足早に去った。
…いよいよ、その時が来た。
二人は余程興奮している様だ。
「はあ、はあ…。ようやく、この扉を開くことが出来るのですね……っ!!」
「はあ、はあ、はあ、はあ……っ!!
やっとこの時が来た…。ここに、仏教の全てが……っ!!」
ガチャンッ!!と、金属の音を立て、扉が開かれる。
次の瞬間、眩しい光が二人を襲う。
「…うっ!!眩しいっ!!」
何か、凄い宝でも眠っているのだろうかと、二人は想像しながら目を押さえる。
しかし、次の瞬間……
「ふわああぁ…。
アタシを起こしたのは、アンタたちね。
折角気持ちよく寝てたのにっ!!」
…想像していた【宝】は、一人の小さな少女に成り下がった。