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ヒューマンドラマ

愚か者の自業自得 自分の首を絞めるバカ 【ざまぁ劇場】

作者: 山目 広介

 派遣社員として働いている一人のおっさんがいた。

 能力はそこそこ高いと自負する程度はある。

 個人の評価だとそれが正しいかは不明であろう。能力が低いと他者の評価も正しく行えずに低く見積もったり、その上自己評価も正しく行えないから実態よりも相対的に高評価になったりするらしい。

 しかしそのおっさんは違った。派遣先の社員さんとの飲み会で「頑張ってるから時給上げといたよ」と言われるぐらいには高い。それでも派遣元の会社から給料を上げるということは言われない。世知辛い世の中だ。


 そんな中そこの課長が交代する。

 その元の課長も飲み仲間だ。年末の忘年会シーズンには偉くなったので毎日のように他の人たちから飲みに誘われたそうだ。

 それでも気の置けないという理由で一緒に飲みに来る。

 飲み会の疲れを飲み会で癒す。大変だと思われた。

 その時、交代することを教えられたのだった。


 代わった課長は支出を抑えるために派遣会社を一括し、請負にしたい、と言いそれでおっさんも派遣会社を移籍することになった。

 請負になることによってリーダーが派遣されてくる。

 ただこのリーダー、使い物にならない。


 人材派遣会社の人手不足は当たり前。作業能力とリーダーとしての能力は別物ではあるが、とりあえずそういう人間を引っ張ることで何とか回しているという現状だからだ。

 おっさんの経験上、謙遜するような人の方が向上心もあり、能力も高い。しかし威張っているような人物は能力がちょっと足りないような気がする。先に話題にした自己評価と同じものだ。大言壮語吐くようなヤツにそれだけの実力を持ったものを見たことがない。ただこれは社会の底辺層だからかもしれない。


 有能な人物であればこんな下っ端の仕事はしないだろうからだ。大言壮語を放って実行できる実力を持っている人もいるのかもしれない。だが派遣会社ではそういう人物はやはりいないのではないだろうか。


 このリーダー。人の仕事の妨害をしてくる、休憩の邪魔する、など無茶苦茶すぎる人物。


 まず最初に始業前に投入するものの予定を告げに来た。おっさんはそれに仕方なく付き合う。

 しかしそれが連続で毎日来られると黙ってもいられない。それは日に2、3分かもしれない。しかし月にしたら40分から60分。残業代をつけるのではないのならやってられない。緊急の用事ならば請け負うだろう。そうではない日常業務なら仕事の時間にするべきことだ。本来なら時間外労働をすれば叱るべき立場の人物のはず。それなのにそれを指摘すると、そんな人なんだ、と言って去っていった。

 時間外労働をして怪我でもしたらリーダーの監督責任だということを理解していないようだった。

 まぁ話し合いで怪我はしないだろうけど。


 他にも倉庫との往復で、通路はおっさんの動線となる。そこでうろつかれると邪魔になるのは当然のことながら鬱陶しいことこの上なかった。これも一度注意して退くならまだ仕方がない。理解すれば次からはないと考えられる。しかし、このリーダーは学習能力が欠如しているのか、これを繰り返した。

 おっさんはリーダーに叱りつける。重い物の運搬は止まったり動いたりでも負担になるのだから。時間も余計に掛かる。効率化を目指しているのに逆のことされても困る、と言って聞かせた。


 効率化。これは請負になったために台数を出荷しなくては儲けにならないのだ。それなのに一部だけ人数を増やして対応すれば、他はそのしわ寄せがくる。おっさんの作業場所もそのしわ寄せが来た場所の一つだった。


 だからこそおっさんは声も荒げるのだった。

 しかしそれを見た中でおっさんを注意しようと動いた者がいた。しかも二人。その派遣会社で長くいるための上役みたい、纏め役な感じだろうか。

 一人はおじさんだ。それまでは同じ会社ではないのでそこまで関わってはおらず、同じ会社になったから動いたようだ。そのおじさんはリーダーの方が悪いと暗に伝えていた。一応リーダーだから、と遠回しな表現で。理解はしてもおっさんを注意するのは一種のパフォーマンスだからだろう。元纏め役として威厳を示すためであろうとおっさんは思うのだった。

 もう一人はガタイの良い兄ちゃんだった。本気でおっさんに注意しているようだったので論破する。


 おっさんも工場のライン工程のリーダー経験者だった。ライン自体も長期で不良を出さずにいたので表彰される程度には優秀なラインにいた。周りの助けがあったことはおっさんも認めている。だがちゃんとラインを回していたからこそ、周りからは楽なところと誤解を与えていたこともあった。そもそも前任者から引き継いだラインがグダグダだったのを立て直した苦労を知っているおっさんだからこそ作業者の邪魔をしていることに許せなかったのだ。


 その兄ちゃんをやり込めたおっさんは、リーダーたちからは偉そうにしていて、とても生意気そうに見えたことだろう。


 それ以外にもリーダーたちはおっさんが気に食わなかった。リーダーの指示に従わなかったのだ。

 正確にはある特定の種類を投入しろ、という指示を途中で止めたりしたのだ。

 これには理由がある。ちゃんと作業者に部品の数を確認し作業可能な台数を調べた上で投入数を調整したのだ。

 同じもので固めれば作業効率を上げられる、それは確かなのかもしれないが、部品が無くなれば梱包まで行かず、出荷できない。

 そのリーダーの部品の発注ミスもあり、出荷できるものと出荷できないものがあってその調整を投入のおっさんがしていたのだ。そうでなければライン上に出荷できないものが溜まってしまう。それだと他の作業も滞る。それを防ぐため、リーダーの指示を無視したのだ。これらは派遣先の人から教わったもので、その判断は派遣先の人も理解している。だからこそ強行できるのだった。

 それを説明してもリーダーたちは気に食わない。状況を理解できていないのだ。


 問題が発生した場合、報告し、対応してもらうために派遣先の人に確認をする。

 請負になったらリーダーに報告しなければいけない。最初にそれを行ったら、派遣先の関係ない人に聞きに行き作業が滞る。三人目で漸く事務の対応できる人物へと到達する。誰が担当なのかを理解していなかったらしい。

 次に問題が発生したとき、面倒だったので派遣先の担当者へ直接連絡後、事後報告でリーダーに連絡した。対応が円滑ですぐに処理される。それは緊急だったため、担当探しをしていたりする時間が惜しかったのだ。おっさんがいたときにはその二つしか問題が発生しなかったので、状況に合わせた対応だとは理解されなかったかもしれない。

 リーダーは自分が頭越しにされて表情を(しか)めていた。



 そんなだからリーダーたちはおっさんに無茶ぶりをする。正攻法では敵わないからだ。

 それに真っ向から挑んでおっさんは負傷した。

 そしておっさんは辞めることになった。

 リーダーたちは目の上のたん瘤だったおっさんの追い出しに成功したのだった。




 おっさんが辞めるには引継ぎをしなくてはならない。

 そのため、新人を派遣元の会社は雇うことになった。その数、三人。

 一人は入荷処理。残りの二人は投入と、請負になったために全員の当番制だったゴミ捨てなどの雑務を一人で熟してきたおっさんの業務の残りすべてだ。


 おっさんの給料は安かった。新人で入った三人たちの一人当たりの給料よりも低いだろう。その派遣会社の給料は良かったのだ。おっさんが元いたところよりも。移籍に当たって給料などは据え置きだったから。

 にもかかわらず、より高い単価で三倍もの支出。

 これを知った上司はこのリーダーを呼び出す。

 当然叱るためだ。

 収入が変わらないのに支出が増えれば当然利益は減る。叱るのは当然だろう。


 おっさんは何もしていないが、それに対して思った。


「ざまぁ」


と。




 おっさんが辞めた後、おっさんの元同僚から連絡が入る。

 おっさんが抜けた後、そこがどうなったのかをおっさんは知ることになった。


 おっさんがいたときは入荷処理は半日早く処理していた。前任者から引き継いだやり方だからだ。

 それが新人と代わって、それでは間に合わないと判断される。

 それで一日早く入荷の処理をするようにすれば対応できるのではないか、とリーダーたちは考えた。

 そして実行される。

 しかし、それで済むわけがない。

 投入にちゃんと指示をしなかったため、入荷したばかりのものを投入した。入荷処理は次の日付なのに梱包まで行って出荷処理が出来ないことが分かる。

 ライン作業を行って梱包まで作業をしても出荷に繋がらない。後日に回される。

 既定の台数に到達しなかったのだ。

 請負であるため、それは派遣会社の損失ということになる。


 さらに投入で同じ種類ばかり流すことで効率化をリーダーたちは計った。

 しかし部品の数などから換算される作業可能な台数以上を投入することで、部品切れを起こし作業が不可能な物がライン上に不要な在庫として発生し、ラインの流れが滞ることとなる。

 効率化が反転、渋滞の元となったのだ。

 その日も目標台数未達となり損失となった。


 他にも投入作業の新人二人は大きいサイズは二人で作業する必要があり、作業効率が落ちる。そのため小さいサイズのばかりを投入した。

 新人二人は雑務の作業に時間を取られていたため、効率を上げるためにしたことだった。

 これにより倉庫の在庫を置く空間が無くなる。

 小さいサイズなら同じ在庫数でも空間を取らない。だが大きいサイズだと多くの台数を置けない。

 バランスを考えなかったため、入荷するための空間がなくなり入荷もできなくなる。

 また、この後、大きいサイズの投入を連続ですることになり、この二人の作業効率も落ちる。

 これによりまた請負の必要台数にいかず、損失が続くのだった。


 これらにより、リーダーたちは投入の管理をする破目になる。

 仕事が増え、その上、それぞれの意見が合わず、時間が掛かれば作業も滞り、また未達が続く。


 さらに苦情も来たそうだ。廃棄物処理業者から、ゴミの分別が出来ていないとか、段ボールの山が崩れたとか、発泡スチロールとか色分けされてないとか、いろいろあったらしい。ここでおっさんのようにちゃんと仕分けしてくれ、ということも言われたようだ。おっさんは当番制が破綻した際に定期的に廃棄物処理の業者さんたちと顔と合わせることになったので、知られていたのだ。

 おっさんが投入に仕事を引き継いだとき、リーダーたちが自分たちの指示に従うようにおっさんの引継ぎを無視して後から再度指導していたせいもあるのだろう。おっさんは入荷処理の方に時間を取られていたから。入荷処理の彼は左利きでシリアルナンバーや名称を記入するときに自分の手で覆い隠してまだ完全に覚えていないために間違えてても気づかないことが多く、確認に時間を多く要したのだ。それが入荷処理を半日ではなく一日早めた理由だろう。

 それによって派遣先の会社からも苦情が来たらしい。廃棄物処理の業者は会社が違うため、派遣先でも抗議は重要と考えているとのこと。そのことでも上司に叱られたそうだ。


 自分たちの指示によって事態が悪化し、さらには自分たちの仕事が増えて残業時間が増え、なのに損失が続く。

 それにより再度上司から呼び出しを受け、リーダーは叱られることとなった。


 さらにリーダーたちは、元同僚曰く、減給されたそうだ。仕事が増えてその上減給。踏んだり蹴ったりというところだろう。

 そもそも請負になった計算におっさんがいたときのおっさんの能力を考慮して採算を取れるとしていたようだ。なのにおっさんが辞めて、引継ぎの三人がそれだけでおっさんの能力に到達してないため、その分を補うように減給されたらしい。元同僚も詳しくは分からないようだったが。




 おっさんはそれを聞いて連絡をくれた元同僚にお礼を言う。

 おっさんは何もしていない。ただ辞めただけだ。

 これこそが自業自得というものなのだろう。自分たちの考えなしの指示がどういう結果になるのか、身をもって知ったのだ。なぜおっさんが、リーダーたちの間違った指示に従わなかったのか、思い知ったであろう。

 実際はどうだろう。学習能力低いから覚えていないかもしれない。おっさんの忠告、無駄だったわけだし。

 ただおっさんは自身を認めなかった者が苦しんでいて、おっさんはとても気が晴れた。


 そして、おっさんは重要なことなのでもう一度ドヤ顔で言うのだった。


「ざまぁ」



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― 新着の感想 ―
[一言] 製造機械関係の仕事をしているので、似た様な風景を何度も見ました。 リストラブームの時も、アウトソーシングブームの時も、さらに大規模なやつを。
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