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五話 『醜悪な冒険者と黄金の姫の逃避行・四』

「ちっ……これは駄目だな」


 馬車が浮くほどの暴風と、肌が痛い程の強い雨になってきた。

 床の時間には、少し早いが、もう日も落ちる頃合いだ。

 

「今日はここまでにするか」


 この天候なら、追っ手も足を止めるしかない。

 そう、コータは思い、馬車を、風よけ兼雨避けに、大木の近くで停車させ、馬のウーちゃんを労ながら縄でくくりつけた。

 そのあと、一通りの嵐対策してから車内に戻ると、笑顔のロニエスが……


「凄い雨ですね♪」

「楽しそうだな」

「見るもの全てが新鮮ですので……」


 ピカーン。


 ガラガラガラドガーン!!


 稲光が起きて、直後に落雷……近くの木に落ち、炎が上がる。


「……っ」


 その衝撃は、ロニエスから笑顔を消し飛ばし、引き攣らせるには十分であった。


「あ、あの……今のもし……ここにだったら……」

「落雷に直撃したら、いくら最上級冒険者でも死ぬな。悪いが、お前を守ることも出来ないだろう」

「っ! あ、あ、危なくないですか! どうすれば!?」

「祈れ……頭上に裁きの雷が落ちないように、ってな」

「ううぅ……イカズチ。恐いです」


 コータは、ロニエスには言わなかったが、分厚い絶縁体のシートを馬車に被せて対策している。

 

(ま、だからって絶対安心ってわけじゃないしな)


 雨で濡れ、冷えた身体を、クロが小さな炎で暖めてくれる。

 その炎を少しも貰い、蝋燭に明かりを燈し、薬草調合キッドを取り出しながら、


「ヘソを出すなよ? 鬼に持って行かれるからな」

「鬼? モンスターがヘソを持って行くんですか?」

「あ、いや……忘れてくれ」


 コータは、話を切って、《万能薬》を調合し始めるが、コータの歯切れの悪い言い訳が、ロニエスの好奇心に火をつけてしまった。


「なんですか! なんですか! 鬼ってなんですか?」

「……ハァァァ」

「ため息っ!」

「ハァァァ」


 キラキラと瞳を輝かせるロニエスに、失言だったと後悔する。

 だが、一度こうなったロニエスは、鬱陶しい。

 ……話した方が静かになると言うものだ。


「俺の故郷……っで良いのかな。とにかく、遠い島国で、伝わっている民話みたいなものだ」

「故郷……何処か聞いても……良いですか?」

「いや、聞いた所でわかるような場所じゃないし、それは魔女とか別の意味で誰にもしられたくない」

「私にもですか?」


 当然だろ。

 と、敢えて言葉にせず、薬草の調合に集中する。


「いつか、……と一緒に行ってみたいです」


 そんなコータの耳に、ロニエスの独り言が聞こえていた……

 そうして、幾つか万能薬を作成し終えた頃、再びロニエスが口を開いた。


「その道具……とても大切にされているんですね? 暇があれば手入れをしていますよね?」

「よくみてるな」

「アナタを見るのは、好きですから…………あっ! 違います!」

「解ってる。一々五月蝿いぞ。これは、俺のもう一つの仕事道具みたいなものだ……勝手に触って壊すなよ?」

「ううぅ……遂に道具に負けてしました。ショックです」

「ん? オイ、それは――」


 コータが落ち込むロニエスに言葉をかけようとした時だった。


「そこの馬車! 王国騎士団近衛騎士リゲルの名において、中をあらためさせて貰う!!」


 馬車の外に大勢の気配。

 二十人はいる。


「……クソ。この嵐の中追って来るか。お前は相当好かれているようだな」

「嘘……では、あの方達が……なんで」


 ロニエスは、コータが何度も追っ手をまこうとしていたのを知っている。

 だから、居場所がばれたのは、言わないと約束してくれた、あの商人達が裏切ったから……

 その事実に気付き、苦心する。

 だが……


「これくらいで恨むなよ? 人間誰しも事情はある。きっと金でも積まれたんだろう」

「アナタは……どうして……」


 誰よりも怒る権利を持つコータが、商人達を庇ってしまうのだ。

 これではもう、ロニエスに、商人達を責めることは出来なかった。


「とにかく、うじうじするのは後だ。逃げるぞ! 良いな?」

「っ!」


 その確認は、ロニエスにはまだ、リゲルと共に王国へ戻る選択肢があると告げている。

 ロニエスはその意図に気付いた上で、


「ハイ!」

「よし。お前が望むなら、何処までだって守ってやるよ」


 ロニエスの返事に覚悟を見たコータは、御者席に飛び乗り、縄を剣で斬り、馬を走らせる。


「ま、まつのだ! とまれぃ!」

「逃げてる奴が、止まれと言われて止まるか!」


 ウーちゃんを綱で操り、最大速度で走らせる。

 ……が、向こうは騎乗、馬車を運んでいるウーちゃんとの距離をじりじりと詰められてしまう。


「このままじゃ、追いつかれてしますよ! どうするんですか!?」

「奴らは所詮、ヒーラレルラの王国騎士。関所を抜けて、聖教皇国に入れば追ってこれない。このまま逃る。クロ! 邪魔な荷物を全て捨ててくれ!」

「にゃー♪」


 コータの指示で、クロは、すぐさまロニエスが座っている座布団をロニエスごと引きずり捨てた。


「っておい!」


 その一瞬早く、コータがロニエスを掴んで救出する。


「この荷物は捨てるな」

「ううぅ……流れるようだったので声も出ませんでした~」


 捨てられる恐怖に駆られ、助けられたコータにロニエスは必死にしがみつく。

 ……この世界で、ロニエスを守ってくれるのはコータしか居ないのだ。


「もういい! 馬車を捨てる。クロ! 来い」

「にゃ~♪」


 続けて、他の荷物を捨てようとしていたクロが、コータの肩に飛び乗った。

 コータは、しがみつくロニエスのお尻と背中をしっかり掴んで、お姫様抱っこ。


「おお……っ。これってお姫様を守ってる気がするな」

「こんな時に、なにおバカな事を言っているんですかーっ」

「こんな時でも、俺にとっては大事なことだ」


 王宮から連れだし、黄金のドレスを脱がせた辺りから、ロニエスのお姫様感がなくなっていたが、

 ……騎士に終われている少女を、お姫様抱っこで守る。

 なんて、事は、お姫様を守る騎士に憧れるコータの大好物。


「……ううぅ。分かりましたから、お尻にさわらないでぇ……セクハラですよぉ」

「こんな時になに言ってるんだマセ餓鬼」

「こんな時でも、私にとっては大事なーー」

「口を閉じてろ。舌噛むぞ?」

「――ぇ?」


 ロニエスの言葉に、みなまで付き合わず、高速で前進する御者席から、ウーちゃんの背中に飛び移った。

 ふわりと、体内の内臓が浮く感覚に……


「ひゃぁああああああああああーーっ」

「にゃ~~♪」


 クロは楽しそうに喉を鳴らしたが、ロニエスは人の目も省みずに、絶叫しながらコータの胸に顔を埋めた。


 ウーちゃんに飛び乗ったコータは、馬車と繋がる紐を切り、素早く身体をウーちゃんにくくりつけた。

 

「ううぅ……身体が動かないのに、激しく動かないで欲しいです」

「……」


 言いながら、コータの肩から頭をだして後ろを見ると、馬車が転倒……

 中にあった、コータの旅支度が全て投げ出される。

 その中には、コータが今まで収集した貴重なアイテムもあった。

 ソレを、無言で見送るコータに、ロニエスはハッとする。


「っ!」


 コータが大事にしていた。あの薬草調合キッドもあったのだ。

 ……背中が凍りついた。


「な、なんで! あれは! と、止まってください。大事なものなんですよね? 取りに戻りましょう……あっ」


 ロニエスが小さな声を上げたとき、薬草調合キッドは無残にも騎馬に踏まれて粉砕してしまう。

 ……私のせいだ。と身体を震わせるしかない。


「ふっ。気にすんな」


 しかし、コータはロニエスの震える肩を触ると、


「あれよりも、お前の方が大切だ」

「……っ。アナタはっ……なんで……そんな」

「人間の命より大切な物なんかねぇんだよ」

「……ぇ。そういう意味ですか……そうですか」


 なぜか残念な気持ちになるロニエスの頭に、クロが乗る。


「あの……クロちゃん。今はちょっと許してください」

「にゃ~~あ」


 クロを見上げよとするロニエスの額を、クロには黙れと肉球でおし……


「にゃーーッ!」


 振り払った肉球で雨を凍りつかせた。

 小さな氷のツブテが、コータを追う騎馬達を襲う。


「す、ずこいです」

「にゃ~~」


 当然だにぁ~と、言うかのように更にクロが、倒れる馬車を睨むと炎が上がり、数体の騎馬が炎に巻かれる。


「クロ。もういい。お前が人を殺すな」

「にゃ~~」


 ロニエスの頭から、コータの肩に戻るクロ。


「《轟雷よ来たれ!》」


 雷攻撃魔術:《ライトニング》

 クロの攻撃を受けてリゲル達、この騎士も反撃を始める。


 シュルシュル!!


「ひゃあ!」


 鼻の先を、掠めたロニエスが悲鳴を上げる。

 ちょうど、雷が恐いと思いはじめた事もあり、三倍恐い。


 再び、招雷!


 が、コータが、《ブロンズ・ソード》をバットのようにふり、叩く。


 ギィン!


 と、耳をつんざく音と共に、《ライトニング》を弾き返した。

 魔術の芯を見極め、叩くことによる反射。

 普通の冒険者は出来ない超高等テクニックである。


 しかも、跳ね返った魔術が、騎馬を直撃する。


「安心しろ。言っただろ? お前は俺のお姫様だ。何があっても守ってやる」

「言ってませんよぉ」

「そうか……」

「でも、安心しました。安心です♪」

「そうか」


 

 そうやって、地道に騎士達の人数を減らしつつ、距離を保ってヒーラレルラ王国関門まで、走りつづけた。

 関門の一歩でも先からは《ソフィア神聖教皇国》、ヒーラレルラの騎士団であるリゲルが踏み込めば、侵略行為となり、大戦時に締結された永久的世界平和条約を侵害する事になる。

 よって、絶対にリゲルは関門を越えられない。

 

「よし。良いぞ。このまま逃げられれば俺達の……」

「……ん? どうしたのですか?」


 コータが言葉を切ったのは、関門の前に千人単位の騎士団が展開されていため。


「ち……っ。あんなのもはや軍隊じゃねぇ~か」

「……っ」


 流石の最上級冒険者であっても、千人の騎士団に突撃し、突破するのは多勢に無勢。

 コータは、悔しさを噛み締めながら、馬の足を止めた。


「フフフっ。貴様の考えなどお見通しなのだ! ソフィア皇国に逃げ込む腹積もりだったであろう」

「リゲルさん!」


 足を止めたと言うことは、コータを付かず離れず追随していたリゲルの近衛騎士団が追いつくと言うこと……


「罪人が人助けなどするからそうなるのだ! さあ! 観念して。姫様を渡すのだ! ハッハハッハ」

「リゲルさん! お話しを――」


 今にも斬りかかろうとするリゲルを説得しようとした、ロニエスの口を塞いで、


《識別眼》発動!


 後ろの軍隊     千五百人……

 リゲルの近衛騎士団  十二人……


 素早く正確に、現状を把握した。

 そして……ロニエスに耳打ちする。


「おい。やっぱりあいつらの中に、お前を殺そうとしている奴がいる。間違いない」

「……っ」


 先ほどの騎馬での逃走時、明らかにロニエスを殺そうとして魔術を撃っていた騎士がいた。

 ソレも一人二人ではない。


「今、あの女騎士に真実を話してどうなる? 意味が無いことは一回体験済みだよな?」


 ロニエスは、コクコクと緊張しながら、首を振る。


「ソレでも、選ぶのはお前だ。誠意と真心を持って選択しろよ? この状況で、まだ、お前は俺に救いを求めるか?」

「……」


 考える。考えて、考えて! そして、ぎゅっとコータの袖を握った。


「ハイ……私を救ってください」

「そうか……なら」


 コータは仮面に指をかけ、カャチャリ……

 外した。


 あらわになるモンスターの様な悍ましい顔。

 リゲル達が、あからさまに嫌悪感を滲ませる。

 

 その状態で、ロニエスの首を締めた。


「なっ! 姫様に何をする! やめないか!」

「クックック……何を? 愚問だな。『黄金の姫』は後で、いくらでも使い道があると思っていたが、ここで捕まるぐらいなら、殺してやろう……クックック」

「っ! おのれぃ! 卑怯な!!」


 卑怯結構と、剣をロニエスの首筋に当てる。

 すると……


「え? 急に変な笑い方をなさって、どうしたんですか? 頭でも打ちましたか?」

「……おい。空気を読め」

「……あっ!」


 コホン。


「キャーキャーキャーッ! 恐いです。リゲルさーぁん。この人、私にエッチな事を求めて来るんです! タスケテ~♪ (棒)」


 ……いや、大根役者すぎだろと。コータは思った。


「くっ。卑劣なッ! 姫様みたいな幼い少女に何を!?」


 が、リゲルには無垢なロニエスが人を謀るとは思えず、剣を引くしかなかった。

 リゲル達騎士団から、距離を取りつつ、後ろの騎士団にも同じように脅した。

 すると、人海が裂けて、関門までの道が開ける。


「キャーキャー。この人、変態なんです! キャーキャーッ! 今日もまた変な薬を飲まされちゃいます♪ 襲われちゃいます。……いえ、襲ってくれ無いです。ある意味、悲しいんです」

「……おい」

「キャーッ! キャーッ! リゲルさぁん! 助けてぇぇ」


 その狭い道を通っている間も、ロニエスのド下手な演技は続き、コータがやめさせようとしても、聞く耳を持たなかった。

 ……ロニエスはちょっと楽しくなっていたのである。


「おのれぇぇぇい! もう我慢出来ん! 姫様! 今、参りますぞぉおおおおおおおーーっ!」

「え? 来ちゃいました? なぜですか?」

「やり過ぎなんだよ。馬鹿ガキが!」


 近衛騎士として、時には妹のように思いながら守ってきたロニエスの声を、リゲルには無視出来なかった。

 守るべきロニエスを救うべく一騎駆けしたのだ。


「ちっ。掴まってろ!」

「ハイ」

「まてぇぇぇい!!」


 コータはすぐに、ロニエスから手を離し、疲労しているウーちゃんを蹴って、走らせた。

 まだ、状況について来れてない騎士団の間を駆け抜ける。


「《雷鳴よ来たれ》」

閃光魔術フラッシュ・ライト!? 目を潰れ!」


 ウーちゃんの眼前で、閃光と雷鳴……


「ウキィィィーーっ!」

「っ!」


 ウーちゃんが、たまらず、前脚を上げて恐れ戦きいた。その隙にリゲルが追いつき、コータを斬る。


 辛うじて瞳を閉じて、閃光を防いでいたコータは防いだのだが、コータとすれ違ったリゲルが、関門までの道に立ち塞がってしまう。


「姫様を……姫様を……泣かせるなぁああああああーーっ!」


 コータとリゲルが騎馬上での、壮絶な切り合いの果てに、コータは身体を薄く斬りさかれ、後退を余儀なくされてしまった。


「ちっ。馬上の闘いが上手いな」

「いえ、王国一の騎士であるリゲルさんと互角のアナタも中々ですよ?」

「なんで、上から目線なんだ?」


 さて、どうしたものか?

 ……万事休す?

 と、コータが思いかけたその時、


「にゃーッ!」

「っ!」


 お腹のポーチで、じっとしていたクロからの警告。

 コータは確認もせずにウーちゃんを蹴って緊急回避した。


 その直後、コータがいた場所を巨大な骨剣が粉砕した。

 逃げ遅れたリゲルは落馬する。


「なんだ、急に……?」


 危険を知らせてくれたクロを撫でながら、辺りを確認すると……

 大量の《ボーン・ナイト》が騎士団を襲っていた。


 リゲルとの闘いに集中していたせいか、既に乱戦となっている。

 大混乱である。

《識別眼》で見たところ《ボーン・ナイト》は五十体……


「そういえば、商隊の連中もそれくらいだったか?」


 いやな符合を頭を振って振り払い、


「とにかく渡りに舟だ! この混乱に乗っかるぞ!」

「舟に乗る。と混乱に乗るが掛かってるんですね」

「お前……案外余裕なのな」

「ええ、アナタの背中に居ますから」


 馬鹿言ってろと、コータはウーちゃんを蹴って、関門へ急ぐ……


 パカラッパカラッパカラッ!!


 ウーちゃんを駆けさせる。

 この機を逃せばもう逃げられない。

 今は、急ぐ時……なのだが、ロニエスはコータの服を引っ張って、


「あのままじゃ、リゲルさんが死んじゃいます!」

「……っ」


 振り返る。

 ロニエスの言う通り、落馬したリゲルを《ボーン・ナイト》が骨剣を手に襲い掛かっていた。


「お願いです! リゲルさんを――」


 コータは体感時間を最大まであげて思考した。

 助ければ大幅に、帰還率は下がるだろう……


「――助けてくださいっ!」

「っちぃ! 注文の多いお姫様だな。だが嫌いじゃない!」


 ロニエスを降ろして、馬を真っすぐ進ませつつ、垂直に高く飛び上がった。

 その飛距離、二十メトル。


 そこから、ブロンズソードを投擲。

 リゲルに振り下ろされていた骨剣に直撃し、大きく弾いた。

 コータはリゲルとボーン・ナイトの間に着地し、


「借りるぞ!」

「っ……ぇ?」


 リゲルの騎士剣を拝借し、速攻でボーン・ナイトを斬りつける。


 ザンッ!


 刃がボーン・ナイトの骨を削った。


「斬激とは言え、物理無効を突き抜ける。マジか……とてつもない名剣……いや宝剣クラス……コレならっ!」


 ニヤリッと笑ったコータは、手元に落ちてきたブロンズソードを左手で、払うように握り、二刀を構える。

 上と下の独特な構え……からの目にも止まらぬ超連激。

 一瞬で、右と左合わせて百の斬激を繰り出した。


 コータの連激が終わった時、ボーン・ナイトはボロボロと崩れ落ちた。

 ソレを呆然と見ていた、リゲルにはその技に見覚えがあった……


「二刀流……《斬激乱舞》!? 舞踏剣術を使うのは――」

「違う。攻撃スキルじゃない。ただの超連激だ」

「いや、だとしても、その剣筋は……」


 リゲルが違和感を口にする前に……コータの回りに、十体のボーン・ナイトが押し寄せた。


(ん? 狙われてるのは、俺か? まさか、ボーン・ナイト同士の馴れ合いとか?)


 ソレはありえないと、一笑し。

 コータが二刀を構え直した時……ボーン・ナイトが着ている服に見覚えを覚えた。


 泥で汚れてしまっているが、間違いない。

 あの服は、コータが助けた冒険者アオのモノ。

 ソレに気がづいてから、直前に倒したボーン・ナイトを注意して見れば、商隊の隊長ショウ老が着ていた服。


「そういうことか」


 それで、全ての察しがついた。

 コータは仮面を取りだし装着。

 大気が震えほどの気力が乗った声で、小さく呟くのだった。


「本当に……人間ほど助け慨の無い生き物はいないな」


 斬っ!

 一撃。


 一撃で、ボーンナイトを粉砕。


「助けたのに死ぬわ。民間人を殺すわ。そして、堕ちた先で俺を憎むか……」

「……ッ!」


 リゲルは全身の穴という穴が引き締まるのを感じた。

 激しいが、静かで、緩やかな、激情。

 相反する二つがコータに重なっている。


 リゲルがほうけている間に、九体のボーン・ナイトが粉々に切り裂かれていた。

 一瞬の出来事。

 バラバラと骨がバラける中で……


「それでも、何時か……救ってやるからな。今は、そこで、眠っていろ」


 リゲルには、コータの声が、空虚と悲しみに満ちているように聞こえた。

 直後、コータが持っていたリゲルの宝剣が静かに砕けるのだった。


「あああああああああッ! 私の! 私の! アスカロォオオオオン!!」

「え? アスカロン? まさか神剣アスカロン? まじか……」

「貴様ァアア!!」

「っ!」


 コータは自分が逃走中であることを思いだし、アスカロンの残骸をリゲルに投げ返して、既に関所を越えているロニエスを乗せたウーちゃんの元まで走るのだった。


 そんなコータを騎士達は、立ちすくみ見送っていく。

 ボーンナイトを、惨殺したコータに立ち向かう勇気のある者は兵の中にはいなかったのであった。

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