相性というものがありまして3
三人のもとに戻った雪吹は、不思議な感覚に陥った。
それもそのはず。仲の悪かった桜花と灯真が楽しそうに会話をしていて、桐島は壁に向かって頭を下げているのだから。
私がいない間に何があったの。
雪吹はそう思いながら、とりあえず桐島に声をかけた。
「桐島、壁に挨拶してないで説明してほしいんだけど。私の居ない30分に何があったの。」
その声に喋ることに夢中になっていた桜花が答える。
「なんか悩んでいるみたいだからそっとしておこう。そんなことより宿なんだけど…。」
言いにくそうに尋ねる桜花に、雪吹はなんてことないという口調で言った。
「あぁ、泊めてくれるって。民家だけど。」
その言葉に、桜花の表情は明るくなった。
早く行こうと桜花に急かされて、雪吹は動こうとしない桐島の腕を引いた。
桐島は雪吹にだけ聞こえるように呟いた。
「世の中は理不尽だね。」
雪吹は何のことかわからなかったが、なんとなく桜花が何か言ったのだと思った。
3人は雪吹に連れられるまま、村の中心に入る。市場のように店が並ぶ通りを抜けると、小さな屋敷に着いた。
老夫婦に出迎えられ、案内されたのは2階にある部屋だった。
老婆が襖を開けると、イグサの香りがした。替えたばかりなのか、綺麗な畳が敷かれている。10畳程あるその部屋には、長方形のテーブルと布団が2つ置いてあった。
「疲れているでしょう、お食事ができるまでゆっくりしていてね。」。
4人はそれぞれの言葉で礼を言うと、部屋を出ていく老婆の後ろ姿を見送った。
「物腰が柔らかい女性ですね。ここなら安心していられます。」
桜花は嬉しそうに言いながら、座布団の上に座る。
「そうだな。いい人そうで良かった。」
灯真はそう言いながら障子を開け、窓際に腰を下ろした。革のコートの内側から黒い箱とライターを取り出すと、箱から出した細い棒に火をつけて口に咥えた。その様子を見た雪吹は灯真の隣に座って言う。
「あんた煙草吸うんだ。匂い残るから食事の前は止めてよね。」
灯真は数秒考えてから、指で煙草の火を消して窓の外に投げた。
「あんたけっこうワイルドっていうか、なんていうか、意外と雑なんだ。」
雪吹はそう言いながら、灯真の指先を見る。彼がしている黒い革の手袋は、5本の指先が出るように穴が開いている。
良い武器にできるかも。
雪吹がそう思った、ちょうどその時だった。
襖がノックされる。
はい。と桜花が返事をする。
「お食事をお持ちしました。」
老婆と共に食事を持ってきたのは、可愛らしい風貌の女性だった。老夫婦のお孫さんで、隣町の祭典に行くため、ここに泊まっているのだという。
2人は手際よく食事を並べると、気を使ってくれたようで長居せずに部屋を後にした。
「和食ね、美味しそう。」
桜花は並べられた食事を見て嬉しそうにする。お米に味噌汁、焼き魚に漬物。いたって普通の和食なのだが、この世界に来て初めての食事ということもあり、とても美味しそうに感じられた。