相性というものがありまして2
「遅い、雪吹ちゃんは何してるの。」
桜花は不機嫌そうにそう言うと、地面に向かって飴玉を投げつける。
桐島は腕時計で時間を確認し、桜花をなだめる。
「まだ10分しか経ってないよ。もう少し待とう。」
その腕時計を見て、桜花の目が輝いた。
「桐島さんそれ、その腕時計ブランドものですよね。私とお揃いです。」
そう言って、桜花は白い服の袖を上げて、時計を出した。
真っ白な革のベルトにシルバーの金具。時計の3、6、9、12を示す場所には小さなダイヤが埋められている。
桐島は驚いて、一瞬呼吸を忘れた。
「育ちが良さそうだとは思ってたけど、桜花ちゃんって、どこかのお嬢様?」
そういう桐島の様子を見て、灯真が不思議そうに言う。
「それそんなにすごいのか。」
桐島は戸惑いながら言う。
「この時計は僕の憧れのブランドで、働き始めてからやっと買えたもので、だいたい20万はしたかな。これでも、このブランドの中では安い方なんだけどね。」
「まじかよ…。」
灯真は動揺した。しかしこれで今までの桜花の態度に納得がいった。
「こんなお嬢様がいきなりこんな場所に来させられたら、そりゃこうなるよな。桜花、悪かった、お前が苛立つのは当然だ。今度から少しは優しくする、できるだけな。」
その言葉に桜花は驚いて、それでも嬉しそうに言う。
「私も苛々しないように努めます。」
桜花と灯真の雰囲気が良くなって、桐島は安堵する。
もう二人の仲を取り持たなくて良くなると思うと、気が楽になった。
「他にも時計持ってんのか?」
灯真はなんとなく聞いてみた。桜花は時計が好きなのか、嬉しそうに答えた。
「もちろんです。ピンクとか赤とか黒とか、服に合わせられるようにいろいろ持っています。でも、これが一番お気に入りです。」
その答えに桐島は頭を押さえる。自分が頑張って貯めて買うものを、年下の女の子がいくつも持っているということがショックだった。
もう何があってもフォローしたくないな。
なんて大人気ないことを思った桐島にとって、桜花は止めを刺すような言葉を放った。
「まぁ、これが一番安いんですけど、やっぱり値段より見た目ですよね!」