相性というものがありまして
空が茜色に染まった頃、土で舗装された道の先に村が見えた。そこは時代劇にでてきそうな和風の建物や、現代にある旅館の様な建物が並んでいる。村の規模としては小さいが、一つ一つの建物が綺麗で、まるで町の一角が切り離されているようだった。
「湯治に来たみたい。」
そう言って桜花は嬉しそうに、跳ねる様な足取りで村の中へ入っていく。桐島は彼女を見失わないようにと後をつける。
「大人びたこと言ってるわりには子供っぽいところもあるんだよな。」
困ったように言う灯真は、雪吹の方を見る。
雪吹の視線の先には木の看板が立っていた。見たことのない文字で何か書かれている。村の名前だろうか。雪吹はその文字を注意深く見つめている。
「この世界の文字か。俺たちの世界の外国語みたいだな。」
そう話しかけると、雪吹が声をあげる。
「そうか、この既視感、それだ。この文字、母音と子音からできてるんだ。」
雪吹は灯真の頭を撫でた。
突然のことに灯真はたじろく。
「な、なにすんだ!」
その様子に雪吹は笑う。
「良い子良い子―ってしてみた。」
「子ども扱いすんなよ。」
灯真はそう言って、桜花と桐島の後を追った。
雪吹は黒い鞄から手帳を出して、その文字をメモした。
桜花は建物の壁を背にしゃがみ込み、下を向いている。そして桐島は困った表情をしながら桜花の頭を撫でてなだめている。
その様子を見て灯真はどうしたのかと声をかける。
「忘れていたけど、僕たちこの世界のお金持ってないんだ。宿には泊まれないよ。」
桐島の声は暗かった。
灯真は後ろを振り返り、遠くを歩く雪吹に視線を向ける。その様子で何かを感じた雪吹は走ってこちらに向かう。雪吹が着くなり、桜花は小声で文句を言った。
「首都に向かうってそれまでの生活どうしろって言うの。」
「お前なぁ、そんな言い方ないだろ。」
灯真が怒ったように言う。桐島は2人をなだめようと、言葉を考える。
「灯真君はお兄さんなんだから押さえて。桜花ちゃんは幼いのに頑張ってるんだから多めに見てあげて。ね。桜花ちゃんも大丈夫だから、ね、安心して。」
雪吹は三人に向かってため息を吐いた。
皆この世界になれるの遅すぎでしょ、半日は経ってるのに。
そう思うが言わないことにする。言ったら収集がつかなくなりそうだからだ。
相性の悪い二人は桐島に任せることにして、雪吹は村を見渡した。
「ここで待ってて。どうにかする。」
そう言って村のどこかへ消えていった。