初めましての挨拶は4
桜花は走りつかれて足を止める。
「もう嫌だ、なんなの。いきなり訳の分かんない所に来て怖かったのに、灯真さんは短気で、雪吹ちゃんは残忍なうえ、一番まともだと思った桐島さんまでわけのわからない人だったなんて。」
そう愚痴をこぼして、茂みの中に飴玉を投げつけた。
草が動く音がする。
桜花は大きくため息を吐いた。
「帰りたい。」
そう呟きながら、ゆっくりと歩きだした。
雪吹と離れてしまったため、向かう先などわからない。それでも、ただ歩き続けようと心に決めた。このまま森の中に居るのは嫌だから。
「どこかに町があればいいんだけれど。」
いくら歩いても町は見えない。
太陽の陽射しは強く、歩き続けていると暑いくらいだった。
桜花は真っ白い扇子で仰いで暑さに対処する。
「もしかして、迷ったのかな。」
自分が迷子だと自覚すると、急に寂しさが込み上げてきた。
そんな時だった。
「お嬢さん、1人かな。」
後ろから女性の声が聞こえた。
桜花は振り返る。
「は、はい。」
戸惑った様子の桜花に、女性は優しく微笑んだ。その様子に優しい人だと感じた。
「あの、近くの町まで行きたいのですが、迷ってしまって。」
困ったように言う桜花に、女性は優しく答える。
「案内するから安心してね。」
桜花は嬉しくてたまらなかった。
「ありがとうございます。」
そうして桜花は女性について行った。
小さな川にかかる丸太でできた橋を渡り、草原を通り、坂を上って辿り着いた先には、崖が見えた。
騙された。
そう気がついた時は既に遅かった。
辺りには人が隠れることのできそうな岩や木、草むらがあった。
そこから何人もの人が表れて、桜花を囲う。
「騙したんですね、最低。」
睨みながらそう言う桜花は、彼らの装いから盗賊だと推測した。茶色い麻の服だろうか、典型的な盗賊、と言った服装をしている。それぞれが持っている武器は刃先の曲がった短い剣や、刃こぼれしていそうな汚い剣で貧しさが伺える。。
「だって貴女の服の素材が良いから、仕方ないんじゃないかしら。」
女性の態度は一変し、冷たい口調になっていた。
どうやらこいつらにとって桜花の服は良いもの、らしい。
桜花は自分の浅はかさに苛立つ。
いつもならこんなことにならないのに、弱っている所に付け込まれた。
そう思うほど、腹が立っていく。
「騙される方が悪いんだよ、餓鬼。」
誰かが言った言葉が、桜花の苛立ちを加速させる。その言葉に続くかのように、彼らは口々に喋りだした。
「金も荷物置いて行きな。」
「もちろん着ている服もだ。」
「早くしないと殺して身ぐるみ剥ぐぞ小娘。」
その言葉を聞くほど、桜花の怒りが強くなっていく。そしてとうとう我慢の限界がきて、言葉を返した。
「私、この服が良い素材なんて思ったことはありません。あなた方はどれほど貧しいのですか。汚い身なりと話し方の通り、低俗ですね。」
桜花は心底軽蔑したような表情をして、彼らを睨んだ。彼らは桜花の言葉に怒り、暴言を吐きながら襲いかかる。
汚い。無意識にそう叫んで、反射的に扇子を持っていた手を振るう。