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アルテリオンの名において  作者: フリージア
3/40

初めましての挨拶は3

 日は登り、朝が来た。

 そよ風が吹き、木の葉が擦れる音が聞こえる。

「わぁ、空気が澄んでいて、自然が綺麗!」

 桜花は目を輝かせて辺りを見渡し、その様子を見た桐島が微笑む。

「村はこっち。迷子になるんじゃないよ?」

 灯真は無表情で、そう言う雪吹の後ろを歩く。

 5分もすれば慣れたのか、静かになった桜花は髪をとかしはじめた。その様子を見た桐島は、ポケットから出した小さなタオルで眼鏡を拭く。

 雪吹が危機感のない2人に呆れていると、同じ表情をした灯真と目が合う。

「多分私、あんたと同じこと考えてる。」

 微笑みかける雪吹に、灯真はそっけなく応える。

「そうだな。」

 雪吹は、このまま何事もなく森を抜けられるだろうと安心して、鞄から袋を取り出した。長方形の形をしたクッキーの様なそれは栄養補給食品だ。

「バランスブロックあるけど食べる?」

 食べる。灯真がそう言おうとした時だった。

「うわ、桜花ちゃんはさがって。」

 焦る桐島の声が聞こえた。後ろを振り返ると、桜花を背に庇う桐島の目の前に3匹の狼がいる。いつの間にか後ろをつけられていたらしい。

 その様子を見た雪吹は灯真に鞄を押し付け、走り出した。灯真が何か言いかけていたがどうでもいい。

「この世界ではこんなことができるって、見てなさい。」

 そう言う雪吹の手には、どこから出したのかわからない、真っ赤な剣が握られていた。桐島の横を通り過ぎると、何の躊躇もなく、一匹目の狼に向かって剣を振り下ろした。真っ二つに斬り裂かれた狼だったものを目にして、桐島は視線を逸らした。その後ろで桜花は悲鳴を上げ、灯真が口元を押さえている。

三人の様子が視界に入らない雪吹は、そのままもう一匹を横に斬り裂いた。ちょうどその時、残りの一匹が跳びかかる。しかしそれは、雪吹が剣を持っていない方の腕を獣のように変化させることで防がれる。そのまま引き裂いてこう言う。

「まだ実践には慣れないね。」

 雪吹は何事もなかったかのように、皆の居る方を向いた。そして視界に入った三人の表情に困惑する。真っ先に言葉を発したのは、桐島だった。

「ふ、雪吹さん。ここは、ゲームや漫画のような、世界なのかい。」

 桐島の声は震えているが、その表情は少し嬉しそうだった。

「ここも現実だと思うけど、そう思ってたら気が楽なんじゃない。」

 雪吹は紫の髪を触りながら答える。その時、赤い剣と獣の手が消えていることに気がつき、桐島はさらに質問する。

「武器はどこから出してどこにしまったんだい。それは僕にもできることなのかな。」

 雪吹はそれを肯定するように頷いて、言葉を続けた。

「できるからこの世界に召還されたの。武器はね、想像して力を動かして作るから、どこにも隠してない。」

 それを聞いた桐島は嬉しそうに声を上げた。

「僕はゲームの中のようになれるんだ。嬉しいな、ずっと憧れていた…。」

 最後まで言い終わらないうちに、桜花が怒ったような声で言った。

「桐島さん馬鹿なんですか!いい年した大人がくだらない事言わないでください。それに雪吹ちゃん!殺生はダメでしょう、命は尊いの!追い払うだけでよかったでしょう、いつから残忍になったの。そんなことが平気でできるなんて、おかしいよ。」

 顔を真っ赤にした桜花は、2人に向かって飴玉を投げつけた。

 痛がる桐島と、上手に受け止めた飴玉を口に入れる雪吹。

「もう知らない。知りません。」

 そう言った桜花は、どこかへ走っていってしまった。

 雪吹は頭に手を当てて、ため息を吐いた。

「残忍って…。ここに来たってことはあんたにも素質があるんだっての。」

 その言葉に灯真が反応した。

「どういうことだ。」

 雪吹は失言をしたというかのように口に手を当てる。それから少し迷いながらも、口を動かした。

「あー…ショック受けるかと思って言ってなかったんだけど、まあいいか。この世界に適応できない奴を召還しても役に立たないから、召還する時にいくつかの条件を付けるらしいの。その中に、残酷なことに耐えられる精神と、残酷なことをする素質があること、があるんだよね。」

 それを聞いた灯真は、納得したような、何かが吹っ切れたように言う。

「そういうことかよ。俺は復讐したい奴がいる、いつかあの時の仕返ししてやりたいって、ずっと考えている。だから今、ここにいるんだろうな。」

 その様子を見て、雪吹は安堵の表情をする。

「こんなことなら最初に言えばよかった。」

 柔らかい雰囲気で顔を合わせた二人に、桐島は申し訳なさそうに声をかける。

「あの、和んでいるところごめんね。追わなくていいのかな。」

 その問いに、雪吹は不思議そうに答えた。

「さっき追跡できるようにマークしたから大丈夫だけど。」


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