初めましての挨拶は2
「ちょっと!さっきからなんなんですか!こんな状態で情緒不安定なのはわかるけど、ちょっとは苛々するの隠してよ!!」
桜花はそう言うと、鞄から飴玉を出して灯真に投げつけた。それは頬に命中し、灯真の怒りに火をつける。
「うっせえなあ、お前が落ち着きすぎなんだよ!」
2人の喧嘩が始まった。言い争う声で、茶髪の人物が目を覚ます。
「あぁ、喧嘩はダメだよ。仲良くしなきゃ。」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
「今の、寝言でしょうか…?」
「寝言にしてははっきりしてないか?」
茶髪の人物は起き上がり、黒い眼鏡を外して目をこする。そして辺りを見渡すと、桜花と灯真に視線を向けた。
「状況を知りたいところだけど、喧嘩を聞く限り、君たちも何もわからないんね。僕は桐島、よろしくね。」
物腰の柔らかいお兄さんの登場に、桜花は救われた気持ちになりながら名前を名乗った。灯真もそれに続く。
すると桜花の膝の上に寝ていた女性が体を起こして一言。
「灯真と桐島ね。私は雪吹。よろしく。で、桜花もここに飛ばされたの?災難だったね。」
雪吹と名乗った女性は桜花と知り合いのようだ。両手で紫色の髪を整えながら、怠そうに言う。
「喧嘩うるさくて起きちゃった。」
そう言って大きく伸びをする雪吹に、桐島が話しかける。
「雪吹さん、よろしくね。1つ聞いていいかな。落ち着いているいけど、一度目覚めていたのかな。何か知っているなら教えてほしいな。」
そのセリフに、雪吹より先に桜花が反応した。
「雪吹ちゃんを疑っているんですか。雪吹ちゃんは違います!幼馴染です、何も知りません!」
桐島は困ったように苦笑する。その様子をみて桜花は下を向いた。その肩を、雪吹が優しく押さえる。
「私、皆よりも少し先に、ここに来てた。それでここのこと、少しわかった。信じられないかもしれないけど、最後まで聞いて、質問は後で受け付けるから。」
雪吹はそう言って、三人を見た。予想が当たったというような桐島の顔、少し驚いたような桜花の顔、苛立ちと不安が入り交じったような灯真の顔。それぞれの表情を確認して、雪吹はゆっくりと語り始めた。
「私がここに来た時にはメイド服を着た人が居た。これは、彼女から聞いた話と、私が確信したこと。」
どうやら私たちは異世界に召還されたらしかった。この世界では、私たちの世界の人間は何かしらの力を使えるようになるらしい。この世界は今、いくつもの国が領土争いをしている状態で、自国を支えるためにその力を借りたいとのことだった。そのメイドは怪我をしたせいで先に国へ帰ってしまった。召還したのは3人。だから他の2人と一緒に首都へ向かうことになり、2人が来るまで寝て待っていた。
「ってこと。質問ある?」
一通り話し終えた雪吹は、3人に声をかけた。
「あの、1人多くないかな。召還したのは3人って言うけど、ここは4人居るよ。」
桜花が遠慮がちに言う。それに雪吹は困ったように答える。
「それ、私も思ってたんだよね。確かに3人って聞いたんだけど。」
「お前が寝てる間に1人混ざったんだろ。」
灯真はそう言って、桐島を睨む。
「桜花と雪吹が知り合いってことはお前が混ざったんじゃないのか。」
否定をしようと桐島が口を開きかけた時、桜花の声が聞こえ口を閉じた。
「違います。私見ていました。私が来た時には雪吹ちゃんが寝てて、そのあとに桐島さん、その次に灯真さんが来ました。」
灯真と桜花の睨み合いが始まった。
桐島は雰囲気を変えようと話を切り替える。
「雪吹さん、とりあえず首都に行けばわかると思うけど、いつ出発する予定なのかな。」
「日が昇って、ここが少し明るくなったら。夜は危険なんだって聞いたから。」