冬山
企画「ヒヤゾク」参加作品です。
このままでは全滅だ。全員が死ぬことになる。
ある冬登山。俺達は大学のイベントとして雪山へやって来た。参加人数は男三人、女二人の計五名。もちろん雪山へ登るのだから、装備は万全。雪山登山の経験者もいる。
初日は晴れ渡り、俺達を歓迎してくれているようだった。登山も順調。初日は予定通り山小屋へ到着した。
翌日、出発しようとする俺達に、山小屋の主人が言った。
「今日はこれから天気が荒れそうだ。今日は出発は止めた方がいい」
こんなに天気がいいのに?
「大丈夫ですよ。天気もいいし、行けるところまでにしますから」
こうは言っても、俺は山小屋の主人を信用していなかった。どうせ客が少ないから足止めさせようとしているに違いない。
俺達は予定通り出発した。しかし一時間も歩くと、雪がちらつき、吹雪いてきた。どこかで避難しなければ!俺達は真っ白な視界の中、なんとか風を避けられる岩を見つけた。
「とりあえず、ここにテントを張ろう」
なんとかテントを張り、俺達は身を寄せ合った。
翌日、まだ外は吹雪いている。これでは下山も難しいだろう。今日もテントにいるしかなさそうだ。
その翌日もまた翌日も吹雪は止まない。そろそろ食糧が底をついてきた。それになんと言っても寒い。皆で身を寄せ合っても凍傷になってしまった女の子がいた。中々言い出せずにいたらしい。
彼女の凍傷は足の指だった。既に壊疽が始まっていた。だが彼女は「平気」というだけ。こんなになるにはさぞ傷みを伴っただろう。だがこの状態では切断せざるを得ない。
切断……。俺の脳裏に浮かぶそれ。ひどく魅惑的だ。
俺は、そうしなければいけないように思い、実行にうつすことにした。皆には寝る前にあらかじめ痛み止めの入った水を飲ませた。痛み止めには睡眠作用も入っている。これで誰も起きないだろう。皆が寝静まった頃、俺はナイフを出した。そして凍傷で壊疽を起こしている彼女の寝袋の足部分を切り出した。
ザクザクザク
そこから見えたのは真っ黒く指の爪の取れた足の指だった。俺はその足の指にナイフを当てた。
キーキーキーキー
ナイフは音をたてながら、彼女の足の指を切断していく。
翌日、俺は朝早くからコンロの上に網を置き、朝食を作っていた。その匂いで皆が起きる。
「もう食糧はなかったんじゃないのか?」
「ああ、ギリギリってところだな」
「なんだか黒焦げじゃないか?」
「でも肉だ。一人ひとつずつだ」
皆は余程お腹が空いていたのか、がっついて食べ始めた。
「まずくはないが、何の肉だ?」
「ああ、河上さん、ありがとう」
「え?」
俺の言葉に河上さんという女の子が驚いた。
「どうして?」
「君からもらったからだよ」
河上さんは咄嗟に自分の足を見た。右足の全ての指から肉がなくなり骨だけになっていた。
「きゃああああ!私の指が!」
「これで俺達は生き延びられるんだよ。ありがとう」
その後、レスキュー隊に見つけてもらい、俺達は無事下山した。
だが俺は警察に捕まった。何故だ。あれが最善の方法だったはずだ。
俺は拘置所に留め置かれ、体の休まる時はなかった。
ああ、こうすればいいのか。
俺は靴底を半分切った場所に隠していたナイフで首を切った。血が出るって生温かい。俺は誰かに食べられるのかな。