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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!  作者: すずきあきら
第二章 メシマズ! この世界の料理はどうなってる!?
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3 オレが作る!

前回に続いて、まだ牢屋の中にいます。

この世界の説明パートにもなっています。


 翌朝。


「おはようございます」


 の声とともに地下室へ降りてきたのはジーベと、その後ろでペコッ、と頭を下げるフィーネだ。


「んぁ、おは、よ。ふぁーあ!」


 あくびとともに返す衝太郎。なにしろ陽の射さない地下牢だから、いまが昼なのか夜かもわからない。もちろん壁に時計などない。

 ふたりが持っているのは昨日と同じ、手桶と甕だ。中身はもう見なくてもわかる。朝食なのだろう。


「で、アイオリア……さまはもう戻って来たんじゃないのか」


 念のため手桶の中を覗いて、昨日とまったく同じメニューなのを確認。うんざりしてとりあえず水だけを飲む。


「はい。ただいま評議会の代表者を集めて、お話しをされているところです。なにしろ頭の硬い連中……みなさんですので。アイオリアさまもお困りで」

「ごめんなさい。ごめんなさい……!」

「ぁ、いや。キミがあやまらなくてもいいんだ、えとフィーネさん」

「フィーネ、でけっこうです。わたしはジーベ、と」


 代わってジーベが答える。フィーネもうなずく。


「あ、そうか。うん、わかった」


 考えてみれば、アイオリアを呼び捨てで、侍女に、さん付け、はない。


「では、これで」


 会釈して出て行こうとするふたりに、衝太郎。


「あ、待って! ……よかったら、この国のこととか、もっと、この世界のこと、教えてくれないか。いや、ほら、なにしろ退屈で、やることもないし、さ」



「……バレンドン大陸の、グレナグラ=ビラ王国の、リュギアス国。その中心都市のリュギア。街の人口は約一万。リュギアス全体でも五万、ってところ、か……んっぐ、不味い」


 口の中の硬い干し肉をなんとか噛みほぐしながら、衝太郎が反芻する。

 ジーベとフィーネ、ふたりの侍女から教えられた、この世界に関する基礎事項だ。


「もうひとつ、この大陸の半分を統べるのがガンティオキア帝国です。グレナグラ=ビラとガンティオキアは、千年の昔から対立し、戦いが絶えません」

「千年も、か。百年戦争ってのは聞くが、千年戦争だな」

「百年、戦争ですか?」

「あ、いや、こっちの話。続けてくれ。……この豆、いつも芯が残ってるんだよなぁ」

「ど、どうぞ」


 鉄格子を挟んで、フィーネが甕の水を差し出してくれる。もっぱら、衝太郎の質問に答えるのはジーベのほうだ。


「それでも先の十年ほどは比較的平穏だったのです。戦いが激しくなったのは二年ほどまえ。センタウロスの騎士姫、ケルスティンが隣国のドルギアに赴任して来てからです」

「赴任、って、まるで、異動とか転勤みたいだな」

「ケルスティンは王族と称し、ガンティオキア皇帝の勅命を受けてドルギア軍の総指揮官となったのです」

「王族、って、みんなあのケルスティンみたいな姿なのか。馬の……」

「わかりません。が、王族が人とは異って異形なのは、神の姿を映したものなのだとか。王族の騎士姫は十二人いる、とも」

「そう、なんだ」


(ケルスティンは、もともとこのあたりにいた種族とか、そういうのじゃないわけか)


 ケンタウロスの村や郷があって、そこでは半人半獣の種族が日々暮らしている、そんな絵が浮かんでいた衝太郎だったが、どうやら違うらしい。


「このリュギアスはグレナグラ=ビラに属し、ドルギアもガンティオキアという大きな帝国の一部。王や皇帝によってこの王国を任されているに過ぎません。もっともリュギアスでは、アイオリアさまのフィーネバルト家が、もう三代にわたってこの地を治めています」

「わかったぞ。そういうの、ええと連邦、じゃない、領邦国家っていうんだ。日本でいえば江戸時代の藩みたいなもんだな」


 衝太郎の視線は床の上に置いた教科書へと注がれる。昨日の晩読んだ途中までが開いたまま伏せてあった。


「アイオリアさまの父君、先王が戦いの末にお倒れになったのが先年。母君はとうになく、兄弟姉妹もないため、アイオリアさまはひとり、このリュギアスを切り盛りしていらっしゃるのです」


 そのアイオリアが十七歳、同い年と知ってこれまた衝太郎は驚く。


「でも、なんで攻めて来るんだ。なにが目的で」

「土地、お金、権益……このリュギアスは、大陸の東と西をつなぐ大動脈、ギード大街道の要衝にあたります。とくにリュギアの街は、ファリア山脈とファーレン湖の間にあって、すべての人と物がここを通るといっても過言ではありません」

「なるほど。それほどの場所なら、他の国が欲しがるわけだ。通行税ってあるんだよな? それだけだってたいへんな収入になるし、ここを取れば、周りに対してぐっと有利になるってことか」


 経済的にも、軍事的にも、だ。


(向こうの地球、オレのいたほうの世界だって、さまざまきな臭いことはあるけど)


 表立った侵略行動にはいろいろそれっぽい理屈をつけるものだ。

 しかしこの世界では、欲しいものがあればそれはイコール、戦争を仕掛ける理由にじゅうぶんなる。

 そこまで話が進んだあと、


「少々、お待ちください」


 ジーベが言い、フィーネがペコッ、とお辞儀をして、席を立つ。いったん階上へと消えたふたりが、しばらくしてまた降りてきた。

 そして持ってきた物。


「身体を洗っていただきます」


 大きめのたらいと、いくつもの大甕だ。ふたのない甕からは湯気が立ち上っている。そのお湯をたらいに注いで、


「準備ができました。衝太郎さま」

「こちらへ、ど、どうぞ」


 衝太郎のほうを向いて、ジーベとフィーネが。

 特別なのか、鉄格子も開けられている。鑓をかまえた衛兵がその後ろで油断なく見張っているが。


「準備って、できたって、入浴? 風呂のこと?」

「服を脱いで、お入りになってください」

「替えの下着は、こちらでよろしいでしょうか」


 まっすぐ、いつもの冷静な視線を眼鏡の向こうから向けて来るジーベと、もう真っ赤になって顔をうつむけているフィーネ。


(はぁ? そりゃ、風呂には入りたいけど、昨日はあんなで、戦って泥だらけだったし、でも、でもこれは……!)


「わかった! じゃあ、行水はするから、みんな出て行ってくれないか」


 そう言うと、侍女たちは不思議なものでも見たような顔を衝太郎に向ける。


「……あ、いや、あとは自分でやるから、みんなはもう行っていいってことで」

「なぜなのですか。私どもはアイオリアさまから衝太郎さまのお世話をおおせつかっております」

「あ、あの、早く服を脱いでくださらないと、お湯が冷めてしまいます、から」


 侍女たちは譲らない。

 ジーベはとうぜん、フィーネも。それが仕事なのだから、とうぜんとも言えるが。


「自分でやるって! その、きみたちはアイオリア付きの侍女なんだと思うんだけど、オレは男だし、いちおう」

「それが、なにか」

「殿方の、お世話をするのは、は、初めて! ですけれど、できます! がんばり、ます」

「だー、かー、らー! キミたちはともかく、オレが問題あるんだって! とにかく、ちゃんと自分でできるから、さ! 行った行った!」


 ついには、地下室から追い出すべく彼女たちの背中を押して……、


「なにをしている!」


 それまでずっと無言だった衛兵が、とつぜんどなり声を上げる。


(そうか、しまった!)


 侍女たちに触れたのがいけなかった。


「待ってくれ、オレは……!」


 鑓の穂先が、衝太郎の胸を刺す。思わず手をかざし、逃れようとするが、


(間に合わねえ!?)


 視界には、ジーベとフィーネが、衛兵を止めようとしているのも見える。しかし、繰り出される鑓を止めるにはいたらない。


 ダメか! こんなところで。

 そう思ったしゅんかん、


「衝太郎! いるの? 衝太郎!!」


 とつぜん地下室に続くドアが勢いよく開いた。そして飛び出してくるのは、


「アイオリア!!」


 同時に、開いた扉にまともに打ちつけられ、鑓を弾き飛ばされる衛兵の姿も。


「衝太郎!」


 アイオリアは、ほぼドアを蹴破った勢いのまま衝太郎に飛びついて来る。


「うぐぉっ!」


 ほぼ体当たりを受けたのと同じショック。

 なんとか抱きとめた。


「あ、アイオリア。な、ナイス、タイミング」

「遅くなってごめんなさい! ようやく評議会の頭の固いジジイどもを納得させてやったわ! だいたい……」

「アイオリアさま、ジジイ、とは」

「ぁ、いけない! 許してジーベ! ええ、と……年配のご先輩がただけにいろいろと立てなくちゃいけなくて、衝太郎を待たせちゃったけど、嫌疑も晴れたし! 正式に、我が国、わたしの館へ招待するわ!」

「お、おう!」



「……で、このメニューは。盛大な晩餐会じゃなかったのか。伝説の救世主を迎える宴、とか、そういうのじゃないのかよ」


 その晩。


 改めて衝太郎を迎えての宴が催された。

 もちろん、地下牢ではなく館の広間、迎賓の間だ。

 豪華な調度に囲まれたその部屋の、長大なテーブル。その上座の端にアイオリアと衝太郎が向かい合う。

 しかして、ジーベとフィーネによってしずしずと運ばれてきた料理は。


「干し肉、豆を煮たやつ、蒸かした根菜、でも冷めてる。それと、硬いパン……がーっ! オレが地下牢で食べてたのと同じやつだろ、これ! なんのジョークだ、それともいやがらせ? あ、わかったぞ。いったんがっかりさせておいて、すぐにほかほか湯気の立った料理が運ばれて来るんだな。オードブルは山海の珍味だ!」

「いえ、これだけです」

「量は、ありますよ。お代わり、なさいますか?」


 ジーベが冷たく、フィーネが笑顔で告げる。

 その反応が、最初の衝太郎の言葉となったとしても無理はない。


「あら、どうしたの? お腹が空いてなかったのかしら」


 テーブルの対面では、アイオリアが干し肉を頬張っている。地下牢と違うのは、きれいに皿の上に盛られ、ナイフとフォークもついていることくらいだ。


「そういうことじゃなく……もしかして、これがここのふつうの料理なのか? オレが囚人食だと思ってたのは、この世界っていうかこの国の標準的な」


(オレを歓迎してくれるこの席で、お姫さまのアイオリアも食べてる。てことは、標準どころか、上級の、ご馳走?)


「これが!?」


 思わずまた口走ってしまった。


「そうよ。それとも衝太郎、お酒でも欲しいの?」

「いや、それはない。まだ未成年だしな。未成年……この世界じゃ関係なさそうだが、とくに酒が飲みたいわけじゃない」

「なにを言っているのか、よくわからないんだけれど。地下牢でも同じものを食べたのよね? 食事に毒でも入っていたとか、それでお腹を壊したとかではないのでしょう」

「ああ、それはない。いちおう完食したよ。腹いっぱいにはなった」

「どこに問題が?」


 逆に、問われる。


「問題、ないのか」

「食事とはそういうものじゃなくて? 毒でもなく食べられるものを食べ、空腹を満たせばそれでいい」

「いや、そういうだけど」

「食事は必要な分だけすばやく、空いた時間に済ませておく。それがほかの仕事の妨げにもならず、効率よく時間を使う賢い方法よ。違う?」

「違わない、けど!」


(いや、なにか違う。なんか、違うぞ!)


 アイオリアの言葉に面と向かって反論はできない。

 間違いは言っていないからだ。

 しかし違う。かなり違う。いくら異世界だからって、食事のありよう、食事に対する考え方がまったく異なっていた。

 もしかしたら、昔、地球で言う中世ヨーロッパもこんな感じだったのか。


(いやいや、庶民はともなく王侯貴族の飽食は古代からだし。つってもオレは贅沢がした

いわけじゃない。けど、こんな……これはない!)


「どうしたのよ、衝太郎」


 黙っていると、アイオリアが聞いてくる。

 衝太郎はぶつぶつ、自分の心の中でつぶやいていたつもりが、


「……違う」

「えっ」

「違うんだよ、やっぱり! 食事ってのはもっと! 楽しくて豊かで、人と人とを繋ぐ、っていうか、栄養とか量だけじゃないんだ。まして、仕事のじゃまにならないときに済ませておくとか、そういうのじゃない! もっとできたて、湯気の出るあったかいスープや、肉汁がにじみ出る分厚いステーキとか! 誰かのために心をこめて作るものが料理って言って」


 言葉となって口から溢れ出す。しかしアイオリアはあくまで冷静だ。


「料理? そんなものは必要ないわ。肉や野菜はたしかにそのままでは食べられない。食べにくい。だから最低限調理する。そのための調理人がこの館に何人もいる。それのどこが違うっていうの」


 料理に対して、冷淡と言ってもいい。


「だからそれと料理は……!」


(違うんだって!)


 どうやって説明しようか。そもそもアイオリアにはわかってもらえるのか。衝太郎が言葉をいっしゅん呑んだ。


「……わかった」

「えっ」

「オレが飯を作る! オレに飯を、作らせてくれ、アイオリア!」


次回、いよいよ料理を作るのか!

そのまえに、もうちょっとあるみたいです。

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