1 地下牢
第二章始まりです。
と思ったらまさかの展開?
ガチャン!
鉄格子の扉が勢いよく閉じる。
「ふぁっ!? お、おい! なんだこれ? ここ、って……」
衝太郎は戸惑い、思わず声を上げていた。
地下牢。
どう見ても考えても、そうとしか思えない。その言葉しか浮かばない。
石が剥き出しの壁や床、天井。暗く、空気がじめじめと湿って、その証拠に石壁にはところどころコケが生している。
牢の外には鑓を持った衛兵が控えていた。
「なんかの間違いだよな? どうしてオレが牢屋に。アイオリアを助けたんだぞ。姫殿下の命を救った恩人じゃないのかよ。おい! 聞いてるか! 出せ! ここから出せよ、いますぐ出せって!」
鉄格子を両手で握って揺する。叫ぶ。
無実の囚人が訴える、そんな典型的なスタイルになってしまっていた。
(なんで……)
どう振り返っても、衝太郎にはわからない。
ケルスティン軍との戦いのあと、騎馬のアイオリアを追ってなんとかこの街、この館に到着した。
走って、歩いて、最後は荷馬車に乗せてもらって、一時間以上かかっただろう。
そうして、やっとのことでたどりついた街。
その中心にある白い館。
仰ぎ見ながら、
『へぇー、やっぱりだ。ちょっとした中世ヨーロッパのお城、ってとこだな。あ、っと、ごくろうさん』
城門には、鑓をかまえた衛兵がふたり。それだけ言って通ろうとしたところが、
『待て!』
と、止められる。
『ははぁ、まだ話が伝わってないのか。オレは笹錦衝太郎。いま着いた、って、アイオリアに取り次いでくれ。それでわかる。まったく、次はちゃんとオレの分の馬とか用意しておいてくれって、な。徒歩で追いかけるとかマジありえないっつの。ま、オレ、馬乗れないけど』
気楽に告げた。
しかしいっこうに衛兵たちは道を開けようとしない。それどころか、新たな兵が何人も出て来た、と思うと、
『ん? ようやく許可が降りたのか。こういうのって、まどろこしいよな。で、お姫さまの部屋は……えっ、地下? なんだかどんどん壁とか天井が粗末になってくんだけど、まさかこんなところに……って、おい! これ、牢屋だろ? おいまさか、お、押すな、引っ張るなって、この! うぁあああ!』
最後は突き飛ばされるように地下牢へ。
三畳ほどの広さの個室に閉じ込められ……今に至る。
「おかしい。ぜったいおかしい! なんかの間違いだ。連絡が行き届いてないんだよ。ちょっと、そこの人! アイオリアに伝えてくれ! そうすればわかるから。オレが超重要なVIPでセレブだって! 誤解なんだよ、こんなのはちょっとしたミスで……」
衛兵に訴える。
しかし衛兵はまったく動かず、表情も変えない。
(聞く耳もたず、ってやつか。これじゃ、どうしようもないぞ)
いずれ誤解が解けて解放されるはずだ。それまで待つしかない。
「でも、まさか」
このまま、いつまでも投獄されたままだったら。
それどころか、最悪……、
「死刑とか、ないよね、ないですよね! おおおおおい! アイオリア! マジ緊急事態なんだよ! 出てきてくれよ! だいたいおまえがさっさと馬で行っちまうから!」
イヤな汗がドッと出て来る。
想像が、悪いほう悪いほうへと流れる。
(ウソだろ。異世界来るなり最初のハードなイベント乗り越えて、お姫さまも助けて、いまいちばんいいときじゃなかったのか。ほら、伝説の英雄とか救世主とかたたえられて、今晩はご馳走ざんまいの贅沢ざんまいだろ? なんかこう薄着の踊り子さんとかがセクシーなダンスとか見せてくれるとか! そんでもって最後はアイオリアに、わたしのお婿さんになって、って……)
よくそこまで都合のいい想像が、と自分ながら思いつつも、衝太郎の頭にそのとき浮かんだのはなぜか、アイオリアではなく、
「……馬の、お尻」
走り去る馬体の躍動する筋肉。それは、
「ケルスティン……ぬぁーーー! ないないない、それはない! ていうか馬だし! 半分馬だぞ。すっごい美人でも人間なのは半分だけで……半分、だよな?」
その身体の構造はどうなっているのだろう。
ファンタジーならともかく、リアルに存在する「人間・動物」としては、その境目はどこで、どんなふうに繋がっている?
無駄! 考えても無意味!
だいいち、牢の中でケンタウロスの生物構造を想像してどうする。
なんの得がある?
それでもついつい考えて、思いを巡らせて、なぜか顔を赤らめたり、しかめたりする衝太郎。
そんなとき、だ。
地下道の扉が開いて、入って来た人影がある。
「ん?」
衝太郎の視線が吸い付く。
そこにいたのは、新たな衛兵などではない。
「メイド、さん?」
黒を基調としたワンピースに胸当てまである白のエプロン。
衝太郎が元の世界で、いわゆるメイド服として認識しているコスチュームそのままの、少女がふたり。
じっと見ていると、ふたりは無言で衝太郎のほうへ近づいて来る。鉄格子に手をかけ、ガチャ、床に近い一部を開いた。
「ぁ、そこ、開くんだ」
とても身体は出入りできない小さな扉。
そこから、メイドのひとり、黒髪ショートカットの少女のほうが持っていた手桶が差し入れられる。もうひとり、金髪ロングの少女の手からも甕が。
覗き込んで、衝太郎。
そこに入っていたのは、パン、リンゴのように見える果物。干し肉。蒸かしたか焼いたかしたらしい根菜。それに、
「豆を煮たもの、か。こっちの甕は……水だ」
(メシは喰わせてくれる、ってわけか。なら、しばらくは死刑とか、なさそうだな)
再び小扉が閉じられる。
出て行こうとするメイド少女たちに、
「あ、待ってくれ! アイオリアに……アイオリア王女に伝えて欲しいんだ! オレは笹錦衝太郎! なんでか知らないが、この館まで来たら、こんなことになってる。でもこれはなんかの間違いだ! アイオリア王女が知ってる! 彼女が聞けばわかるはずで……」
鬱展開ではありません。ないつもり…。
アクションのあとの、日常パートの感じで楽しんでいただけたらと。