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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!  作者: すずきあきら
第一章 異世界、戦争、お姫さま! オレのチートな能力は!?
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3 逆転

ピンチの主人公が窮余の一策!

盛り上がった、かなw


 とっさに横跳びしながら、衝太郎はアイオリアを弾き飛ばす。


「きゃあああっ!」


 かろうじてアイオリアを押し倒し、のしかかかった衝太郎の背中の上を、運よく馬の蹄が通り抜けた。


「お、おまえ、またっ!」

「それどころじゃない! まだ、来るぞ!」


 衝太郎の視線の先、ケルスティンが向きを変える。勢いが過ぎて二百メートルは離れている。しかし走り出せばすぐだ。


「どうするの!?」

「それをいま、考えてる!」


 近くには鑓がある。もともとアイオリアが馬上で持っていた鑓だ。

 アイオリアの馬、ブルーデは、さっきのケルスティンの突進に驚いて逃げてしまっていた。


 もう馬はない。アイオリアを馬に乗せて逃がすのも無理だ。

 幸運なことに、ケルスティンは伴を連れない一騎だけだ。衝太郎たちふたりをいたぶるのに、自分だけで充分と思ったのか。

 向こうでは敵の騎馬隊が味方の歩兵の列に突っ込み、さんざんに蹴散らす。そっちも戦いが始まっていた。


(どうする……どうする、どうする!)


 騎馬に向かって鑓を突き立てるか。


(蹴散らされて終わりだ。前衛部隊を見たろう)


 鑓を投げるか。


(よほどじゃないと当たりはしない。余裕で避けられてしまう。それにこれは馬上で使う鑓だろ。投鑓じゃない)


 鑓で馬の足元を払う。


(そんなにうまくタイミングが合うもんかよ)


 考えはけっきょくまとまらない。

 そんなにいい考えが都合よく湧くわけがない。

 迷いまくったあげく、


「えええい!」


 衝太郎が取った行動は意外過ぎるものだった。

 その鑓の切っ先を、


「え、ぇ!? きゃぁああああっ!」


 アイオリアののど元に突き付けたのだ。

 驚くアイオリアを押さえつける。その唇から悲鳴が上がる。

 しかし、ここで不思議なことが起こった。

 突進して来るケルスティンが、


「はぁぁぁあああっ!」


 ふたりの前で急停止した。


 アイオリアに鑓先を突きつけている若い男=衝太郎。

 衝太郎の出で立ちは戦支度とはとうてい思えないし、黒の学生服はかなり異質なものだ。衝太郎を最初に見つけて近づいてきた兵たちの態度でもわかる。


 それゆえケルスティンは、そんな光景におそらくは戸惑い、迷った。

 切りつけるでも蹴散らすでもなく、とっさに止まろうとした。

 だが全力で走る騎馬がそう簡単に止まれるものではない。急制動をかけたのが原因で、転倒しそうになる。


 よく騎乗のケルスティンが落馬しなかったほどだ。

 そう衝太郎が思ったせつな、ようやくケルスティンが止まった。大きく土埃を上げ、周りの雑草を跳ね上げて。

 しかしその姿勢もまた、大きく乱れている。

 衝太郎とアイオリアの、ごく間近だ。


「ぉぁぁあああああ!」


 この機を逃さず衝太郎が鑓を繰り出す。ただし、穂先はアイオリアに向けている。鑓を回しているヒマはない。


 石突のほうで突いた。

 ドシッ! 徒歩兵の高さの衝太郎から繰り出す鑓は、馬上のケルスティンにまで届かなかった。石突が激しく突いたのは馬のほうだ。


「あああ、あ!」


 ケルスティンが声を上げ、馬体がよろよろとたたらを踏む。と思うと、


「ああっ!」


 どうっ! と横倒しになった。

 競走馬のような細身とはいえ、馬体だけで三百キログラムは下らない。地面が揺れる。土埃も舞い上がる。


 ケルスティンはそれでも振り落とされはしなかった。馬体に潰されてもいない。ただ、ダメージを大きく受けたのか、すぐには立ち上がれない。


 倒れたひょうしに、兜が外れて飛んだ。

 中から長い髪が弾ける。

 金色の髪が地面に広がった。

 そこへ、


「動くなよ! それまでだ!」


 衝太郎がこんどこそ、鑓の穂先を突き付けた。


「ぅ……!」


 ケルスティンが身動きする。面覆いもすでになく、髪に隠れた顔が露わになる。


(うわ! すっげえ美人!)


 アイオリアも美人だが、ベクトルが違う。

 重なっているのは現実離れした美しさ、というところか。

 気の強そうな、というより強気と高貴な気品が甲冑を着ているようだ。これほどのピンチにあっても、恐怖より激しさが表情を染める。


 アイオリアと同じく、身体の要所のみを覆ったような甲冑。ところどころ露わな白い肌は、アイオリアにも劣らない白磁の美しさだ。

 屈辱を振り払うような、ケルスティンの鋭い視線が衝太郎を射る。


「気をつけて! ケルスティンは……!」

「わかってる! アイオリアは応援を呼んでくれ!」


(こいつを生け捕りにして……)


「んっ……えっ?」


 奇妙なことに気が付いた。

 ケルスティンの乗った馬が、ない

 いや、馬体はある。

 つやつやと陶磁器のように光る白い毛並みも妖しく美しい馬の胸や胴。しなやかでたくましい四肢。

 なのに、馬の頭がない。

 首のある部分には、


(ケルスティンの……)


 上半身が。

 衝太郎も見たことがある。もちろん、絵画や造形物などでだ。

 下半身が馬、上半身が人、それは、


「センタウロスの、一族なのよ!」


 アイオリアのひとこと。

 センタウロス=ケンタウロス。半人半獣の、伝説の亜人。


「マジ、か、よ」


 思わずつぶやく衝太郎に、


「人間ふぜいが! 我を捕えたと思うなど百年早い!」


 ケルスティンが激しい攻撃の視線を叩きつける。と思ったとき、


「うおぁ!」


 とつじょ、足をさらわれた。尻もちをつくように衝太郎が倒れる。

 ケンタウロスと知った直後、ショックで鑓の穂先の狙いも緩んでいたらしい。それをケルスティンは見逃さなかった。

 同時にはね跳ぶように身を起こす。

 衝太郎の足を払ったのは、ケルスティンのシッポだ。

 シッポといっても長くたっぷりと硬い毛が生えているから、叩きつけられでもすればそれだけでケガをしそうだ。

 シッポを振りまわしたことで、ケルスティンの腰から先を覆っていた布地が大きく翻る。腰、というのは馬の身体のほうで、ようは馬の尻部分が覆われていたのだ。


(あれってミニスカートだったんだ)


 いまさら納得する衝太郎。

 しかし仰向けに倒れた衝太郎に、ケルスティンの前足の蹄が、


「我が蹄の下敷きになりたくなくば、動くな」


 顔の上へと迫っていた。

 三百キログラムの体重の一部とはいえ、振り下ろされ、のしかかられれば、ケガ程度では済むまい。


 また形勢逆転。

 ケルスティンは起き上がる際に盾と鑓を手から離していたが、馬体につけた細身の馬上剣を抜いている。

 いっぽうの衝太郎は、とうに鑓を弾き飛ばされていた。


「えーっと、あのさ」

「おもしろい動きをする。あまり見かけぬかっこうだが、リュギアスの兵か」


 衝太郎の言葉を無視して、ケルスティンが問いかける。


(ちぇっ、時間かせぎは見破られてる、か)


 思いながら、横目でアイオリアを見る。と、


「答えないなら、この場で踏みつぶす!」


 がっ! 衝太郎の額が、蹄で蹴られる。

 もちろん、そうとうに手加減(足加減)してのことだろうが、馬の足で蹴られること自体初めてで、ほぼ思い切り額を殴られたに等しいショック。


「ぅごっ! ……ぐっ!」


 そのうえ衝太郎の、こんどは胸の上に蹄が乱暴に乗せられる。これで衝太郎は動くこともできない。


「答えよ!」


 みたびのケルスティンの問い。

 衝太郎が口を開こうとすると、


「ケルスティン! 待ちなさい!」


 と呼びかけたのは、アイオリアだった。衝太郎に近寄り、その手を取る。


「な、なんで来た! いまのうちに逃げてれば」

「勘違いをするな。おまえもアイオリアも、我が掌中にある。おまえを踏みつぶし、逃げるアイオリアを追って斬るなど赤子の手をひねるより容易なこと」


 アイオリアに代わってケルスティンが言う。


「なるほ、ど。ふたりとも知り合いらしいな」

「知ってはいるわ。よーく、ね」


 アイオリアが、ケルスティンを見上げる。

 その目もまた、一歩も引かない覚悟と、自らを犠牲にしてもいとわない誇りに彩られていた。


「だったら、オレもあいさつしておかないとな。アイオリアにもまだだった。オレは……衝太郎。笹錦衝太郎。日本の高校生だ!」


 急な衝太郎の名乗りに、


「衝、太郎?」

「笹錦……」


 ふたりともに「?」な顔になる。

 衝太郎、続けて、


「こことは違う世界、つまり異世界から来た、異世界から来た……えと、救世主だ」

「救世主、ですって?」

「ぁ、ちゃんと聞こえたか? そう、きっと。たぶん。救世主って、いうか、その方法とか能力はまだない、未定、だけどな。異世界からわざわざ来てんだ。救・世・主! だろ? ……だと、思います」


 最後のほうは尻すぼみになる。

 が、ここで威勢を張るのも、ケルスティンに向けたせいいっぱいのハッタリ。

 だがケルスティンは、


「いいだろう。衝太郎か。先のは吾の意表を衝くよい策であった。敵にしては見事。名だけでもおぼえておいてやろう。吾の思い出にな!」


 そう言うと、衝太郎の胸をいよいよ潰しにかかる。

 グッ、と体重をかけるところ、


「ぅう……よ、よく見えるぜ!」

「なんだ。この期に及んで世迷いごとか」

「違う違う。おまえの大事なところがよーく見えるってこと。こうやって下から見上げるとさ。ケルスティン、おまえ、ノーパンだろ」


 苦しい息から、めいっぱいの余裕を装って言い放つ衝太郎。

 ノーパン。

 ノーパンティー。おもに女子、女性の、ボトムの下着がないこと。その状態。

 辞書に書いてあるとは思えない。

 が、ケルスティンの馬体が下着をつけていない、この状態はまさに、それ。


 言われたケルスティン。


「ノーパン……だ、と」


 意味がわかったのだろう。

 いっしゅんの間のあと、みるみる顔が真っ赤に染まる。

 赤い顔のまま、これまでにない険しい表情を浮かべ、


「貴様、衝太郎! 殺す! いま確実に、一瞬で殺してやる! これは吾の慈悲である!」


ケルスティンの「正体」もあきらかに。

手ごわい相手ですが、どう戦うか、逃げるか。

次回も明日夜更新予定です。

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