11 同盟
最終節です。
ついにフィレンツァ、ハイドラ軍との戦いに決着が。
「ドルギア軍でありんすと? バカな!あの人馬女の部隊など、国境に潜ませておいた軍で一網打尽に……」
「そうだな。手厚い歓迎、礼を言わせてもらおう」
幔幕を破って、フィレンツァ軍本陣に飛び込んできたのは、
「きさま、ケルスティン!」
「ありんすはどうした? いかにも、吾は十二騎士姫がひとり、ケルスティン=アリアス・コッペリオンなり。ゆえあって、ガンティオキア帝国より離脱したる者!」
ケルスティンはいっきにハイドラに迫る。
手にした馬上鑓がハイドラの胸を貫く。そのしゅんかん、
「んんんんーっ!」
ハイドラが激しく身をよじった。ウミヘビの胴体をズルンッ、と半回転させて、上体を伏せる。
同時に、
「なにっ!」
バシャッ! 水を激しく跳ね上げて、ケルスティンに浴びせかけた。
水のシャワーの目くらましもあって、ケルスティンの鑓先を間一髪避けるハイドラ。なおも迫るケルスティンに、
「ハイドラさま、お逃げください!」
「ここは我らが!」
従者の少女騎士ふたりが、斬りかかって来る。
「無駄なこと!」
難なく跳ね返すケルスティンだが、これでハイドラは追えなくなった。
そのハイドラ、かたわらにおいた三又の鑓を手にすると、あっという間に胴体を伸ばし、上から街の戦況を見る。
街を包囲するフィレンツァ軍に、後方からドルギア軍が襲いかかっていた。
虚を衝かれたフィレンツァ軍は総崩れとなって逃げ散っている。
「なんということでありんす! この戦い、あちきの負けでありんすか……悔しい!」
臍を噛むハイドラ。
しかし指揮官として、退きどきは心得ていた。
「退却でありんす! 皆の者、退却じゃ!」
言うと、ハイドラ自身、真っ先に身をひるがえす。
湖の水面を、長い胴体をくねらせながら、みるみる遠ざかっていった。
「ハイドラさま!」
「いま、まいります!」
少女騎士たちも後に続く。ただし、湖水は渡れない。湖の岸を迂回していくほかなかった。
他の兵たちは、盛り返したリュギアス軍とドルギア軍に挟撃され、次々と討ち取られて行く。
逃げた兵もいたずらに湖に飛び込んで溺れる者が続出した。
「うむ。この戦、勝ったな」
その光景を眺めながら、ケルスティンがつぶやいた。
「ケルスティン!」
市門で出迎えたのは、もちろん衝太郎とアイオリアだ。
「わざわざの出迎え、痛み入、る……ぁああ!」
答礼しようとしたケルスティンが声を乱したのは、
「ありがとう! 来てくれて! 助かったよ、ケルスティン!」
衝太郎がその馬体に抱きついていたからだ。
「ちょ、っとぉ! なにやってるのよ! 離れなさいよぉ! ……そ、それは、助けに来てくれて、ありがたいって、思ってるけど」
衝太郎の腕を引っ張りながら、アイオリアも強くは言えない。リュギアス王女としてもっと、感謝の言葉を述べたいのと板挟み、といった態だ。
「とにかく、うれしいんだ! こんどこそ、ケルスティンといっしょに戦えるんだな!」
衝太郎の言葉に、
「なにを言う。吾はまだそこまで」
「じゃあどうして、オレたちを、リュギアスを助けてくれたんだ?」
「そのことか。吾が不在の間に、あの者たちがドルギアを侵したのだ。フィレンツァ軍はドルギアの民までも多く手に掛けた。許すわけにはいかぬ」
「じゃあ、ドルギアの城を奪い返してから? それには時間が足りないんじゃない。この館を出立したのは昨日の朝よ」
不思議がるアイオリア。
「この館を出てからドルギアの国境に至るまでに、情報はもう吾に届いていた。そのうえ、国境で待ち伏せしているフィレンツァの部隊がいるというのもな。生き残った我が兵が、伝えに来たのだ。命がけでな」
「そうか、それで」
「ああ。待ち伏せ部隊を一蹴したのち、兵を集めた。するとハイドラがこのリュギアスへ向かったという情報も入って来た。城を占拠している部隊を急襲するなど造作もないが、仕返しをするならば肝心のハイドラにせぬとな。たっぷりと、だ」
これでわかった。
ケルスティンがリュギアスの危機を知った経緯も、ハイドラの本陣をいっきに突いて戦いを決着したことも、だ。
改めて、衝太郎はケルスティンに礼を述べた。
その上で、
「でも残念だな。せっかくケルスティンが来てくれた。仲間になって、ともに戦ってくれると思っていたんだが」
「そのことだが……」
「仕方ないか。ケルスティンはドルギアの領主。すぐに同盟なんて……そういえば、帝国からはもう離れたとか。じゃあ」
「うむ。それで、だな」
「ほら! 衝太郎も無理言わないで! ケルスティンはケルスティンの立場があるんだから、ね! そうでしょ!」
「ま、まあ、そうだが。考えてみると、ハイドラのような敵もいる。これで諦めたわけではあるまい。ならばともに……」
「いや惜しいな! リュギアスとドルギアが力を合わせれば、というようりオレとケルスティンが力を合わせて」
「ちょ、っと! アイオリアが入ってないんだけどぉ? どういうことなのよぉ!」
「ゆえに吾は思うのだが、この際同盟も、悪くない、のかと」
「アイオリアはもちろん、計算に入ってるって! その上でだ、オレとケルスティンが」
「考え直したところなの、だが」
「だから! ちゃんと言いなさいよ! だいたい衝太郎、おまえはアイオリアの料理人で、軍師なんだからね! わかってる!?」
「ひとまずは同盟を結んで、ゆくゆくは……」
「わかってるって! オレはアイオリアの料理人さ! そのうえ軍師で」
「救世主なんだから、ね! こんどだって、ケルスティンが来るまでもたせてくれたからで……か、感謝してるんだから! すっごく感謝して、だから……!」
「だから、だ! 吾は、ともに……!」
「ああ。これからも戦うぜ。アイオリアのために、な! うまい料理もいっぱい……ぅん? ケルスティン、いまなんて」
「だから! 言ったのだ! ともに戦いたい、と! 吾は衝太郎、おぬしとともに戦いたい。アイオリア、リュギアスと同盟を結ぶことを申し入れる。ここに、正式に、だ!」
ケルスティンの目が、なぜか潤んでいた。
頬が赤らみ、唇は震えている。
しかしその瞳はしっかりと、衝太郎を見据えていた。
「なんだって、ケルスティン、オレといっしょに……」
「ケルスティン、あなた、ほんとうに」
衝太郎が言い、アイオリアが見つめ返す。
「ああ、ほんとうだ。これからも、よろしく頼む」
差し出された手を衝太郎が握る、ところ、
「よろしく頼むわよ、ケルスティン!」
アイオリアが両手でがっちりと握ってしまった。
「おいおい。……ま、いいか。これからは三人、いっしょだ。ずっと、な」
笑う衝太郎。
「ずっと」
「いっしょ……ともに」
「ああ! そうとなったら腹ごしらえだ! 戦で腹がすっかり減っちまった! 館へ戻るぞ! 兵たちにもたっぷりと振る舞ってやろう! 酒も、蔵の中のものを洗いざらいだ! ケチるなよ! 今日はお祝いの日だぜ!」
戦いに勝利し、ケルスティンとの同盟も結んだ衝太郎たち。
オレたちの戦いは・・・
まだもうちょっと続きますw




