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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!  作者: すずきあきら
第五章 ベジタリアンの濃厚メニューと、新たな敵
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3 サラダ

ケルスティン向けの料理、始まりました。

このあとのメインディッシュは?


「さぁ、入ってくれ!」


 衝太郎が言い、ジーベとフィーネが広間の扉を開ける。

 アイオリアとケルスティンが招き入れられた。十人以上が一度に座れる大きな長テーブルには、ふたりだけの席が設けてある。


「ありがとう、衝太郎」


 椅子を引く衝太郎に、アイオリアが礼を言う。

 ケルスティンの席に椅子はなく、代わりに分厚くやわらかな敷物が床に敷かれていた。


「招きにあずかり、光栄に思う」


 敷物の上に、馬脚を折りたたむように座るケルスティン。アイオリアとテーブルをはさんで向かい合う。


 けっきょく、この会席が実現したのはリュギアの街に戻って来て三日目だった。


「いろいろ準備に時間がかかってな。待たせちまったが、その分きっちり、いいものができたって思うぜ。今日はたっぷり、食事を楽しんでくれよな!」


 白エプロンと頭には白いタオルを頭巾にした衝太郎。

 その言葉どおり、ここ二日間、リュギアの市場をつぶさにめぐり、食材を買って帰っては厨房で料理を作って研究していたのだ。


「楽しみね。衝太郎のことは信頼しているけれど、今日は野菜ばかりのメニューっていうじゃない。お肉も魚も卵も食べられないのだから、正直がっかり、ってところはあるわね」


 アイオリアが言えば、


「吾のためにこのような席を設けてもらい、特別な食事を作ってくれるのを感謝する。が、吾は騎士であり武人。食事に楽しみを見出すことなどない。せっかく笹錦が作ってくれるのはうれしいが、どんなものであっても吾は文句などない」


 目を伏せ、ケルスティンもまた衝太郎に告げる。


「あら、衝太郎はアイオリアの料理人よ。『どんなものでも文句はない』? まるで不味いものが出るみたいじゃない。衝太郎の料理を食べたこともないあなたに、そんなことを言われる筋合いはないんだから」

「気に障ったのなら済まない。吾の言いたいのは、うまい、不味いではなく、出されたものは食するということ。それが吾の食することのできるものなどであれば、な。生涯、食の楽しみなどにうつつを抜かすつもりはない」

「なによ、まるで料理を楽しむのが悪いみたいじゃない。だいたい、ケルスティンが野菜しか食べられないから、衝太郎が苦労してるのよ。アイオリアだって、仕方ないから付き合ってあげてるけど」

「無理に付き合うことはない。いつ出て行ってくれてもかまわない。人はそれぞれ、重きを置くものが違う。吾の場合は、武術であり戦術、戦いにいかに勝つかということで、食事とはそもそも無縁のこと」

「でもその戦いで、衝太郎に負けたのは誰だったのかしら。負けたくせに料理より武術だ、戦いに勝つことだ、なんて言われても、ねぇ」

「アイオリア、そなた、吾と我が軍を愚弄するか」

「愚弄もなにも、事実、勝ったのはあたしたち、衝太郎とアイオリア、リュギアスなんですからね!」

「なんだと!」

「なんですって!」


 ガタン! ザッ! アイオリアが席を立ち、ケルスティンも身を起こした。

 テーブルをはさんで向かい合い、にらみ合うふたり。

 とうぜんケルスティンのほうがずっと背が高く、上から見下ろすが、アイオリアも負けずに見上げて退かない。


 一触即発か。というところ、


「おいおい! なにやってるんだ、ふたりとも。今日は会食。ふたりでオレの料理を食べてくれるんじゃなかったのか。ケンカするなら、とにかくまず食べてからにしてくれよな」


 衝太郎がふたたび入って来た。

 その言葉に、


「そうね、とにかく食べてみないとね。どうせサラダで野菜いっぱいなんだから、お腹が冷えてしまわないように、もっと厚着してくればよかったけれど!」

「野菜を食すていどで冷える腹なら、戦場には不向きだな。この邸から出ずに腹巻でもして寝ているがよかろう」

「ぅぅぅ……ふん!」

「ふむ!」


 衝太郎の手前、なんとか矛を収めたアイオリアが席に着きなおすと、ケルスティンも膝を折った。

 ようやくそのふたりのテーブルに、料理の皿が運ばれる。


「まずは前菜からだ。って、コース料理みたいな堅苦しいのじゃないけどな。さぁ、食べてくれ!」


 そう衝太郎が言って、侍女たちが並べた料理は。


「やっぱりサラダじゃない」


 アイオリアの言葉どおり、色とりどりの野菜が白い皿を彩るサラダだった。


「見た目にはきれいなものだ」


 ケルスティンも、そう言うとテーブルのナイフとフォークを持つ。

 サラダの野菜を口に運んだ。


「ぅ、ん?」


 ケルスティンの表情が微妙に変わる。しかしなにを言うでもなく、次の野菜へとフォークが伸びる。


「前菜って言うの? まぁ、最初はサラダで、しかたないわよね。いただきます! ……んっ、あら」


 アイオリアもまた、顔色を変えた。


 いやいやのように食べたのはブロッコリーだ。すぐに別の野菜を口にし、フォークをつぎつぎと動かしていく。

 皿の上に盛られていたのは、ひよこ豆、レタス、芽キャベツ、にんじん、きゅうり、ミニトマト、じゃがいも。

 それにパスタも、少量混じっていた。


 ドレッシングはオリーブオイルと酢、ワイン、それに砂糖を少々混ぜ合わせたもの。さほど変わったものでも、工夫が凝らされているわけでもない。

 ケルスティンのための料理なのでチーズなどはないし、ポークのハムやチキンもとうぜん入っていない。

 なのに、


「なんだか、すごく味が深いの。野菜の味が濃いっていうのかしら。こんなの初めて!」


 アイオリアの言葉に、


「うむ。いつも食している野菜がまるで別のもののようだ。これは、採れたところが異なるのか。それとも野菜の種類か。見た目は同じようだが」


 ケルスティンが同意する。


 その間もふたり、フォークが休むことはない。


「気に入ってもらえたようでうれしいよ。じつはその野菜、採れてからかれこれ五日は経ってるんだ」


 衝太郎が言うと、ふたりは驚いて顔を上げる。


「五日も、ですって!」

「少しもしなびたり痛んだりしていないのはなぜか。むしろ風味が増している!」

「うん。じつはこれ、オレのいた世界でまえに流行った、ボトルサラダとかジャーサラダっていうものなんだ」

「ボトル……サラダ?」

「ジャー、とは」

「どっちも、入れ物って意味でな。たいていボトル状の広口のガラス瓶を使う。これがそれさ」


 そうして衝太郎が侍女に持たせたボトルを見せる。


「それがボトル……」

「なんと、きれいなものだ」


 口の直径が十五センチ、深さは二十センチほどのガラス瓶に、色とりどりの野菜が詰められていた。


 下から黄色いじゃがいも、グリーンのブロッコリー、白いパスタ、赤いトマト、また黄色いひよこ豆、またグリーンのレタスなど。

 カラフルな層をなしている。


「こうやって野菜を詰めてドレッシングをかけて、蓋をして密閉するだけなんだ。あとは涼しい暗所に置くだけ。こっちの乾燥した気候なら、数日は楽にもつ。発酵も手伝って野菜の味は濃くなるし、ドレッシングが染みてうまくなるんだよ」


 日持ちしないサラダを作り置きして、時間が経ったあとでも食べられるだけでなく味が増す。

 ボトルのまま持ち運びもできるから弁当にも添えられる、とボトルサラダが好評なのはそうした理由があった。


 生野菜を洗ってそのまま食べるのがふつうのケルスティン。

 これまではせいぜい、食べやすいサイズにカットした野菜に、オイルと酢、ワインなどのドレッシングを混ぜ合わせただけのサラダしか知らないアイオリア。

 ふたりともに、野菜のうまみ、おいしさを再発見する衝太郎のボトルサラダだった。


「かんたんに作れるのがいいんだ。いろんな野菜の組み合わせやドレッシングで、同じボトルサラダでもいろいろできる。でもただ野菜を詰めてドレッシングをかけただけじゃないぜ。いま出したサラダ、野菜の層によって隠し味にアーモンドの粉やバジルも少し加えてある」

「そんな工夫もあるのね」

「知らなかった。ただの野菜がこのような……」


 関心するふたりがそろってサラダの皿を平らげたころ、なんとも香ばしい香りがくゆってきた。


「じゃあ次だ。この料理のメインといこう!」


 衝太郎が言い、侍女たちが運んで来たもの。

 それは、


「これ、って!」

「なに……!」


 大きな皿の上、鉄のプレートが敷かれている。その上に、いままさにジュゥジュゥと音を立てて焼けていうるメインの料理。


「さぁ、食べてくれ!」


 笑顔で衝太郎が勧める。

 しかしアイオリアもケルスティンも、まるで皿の中身に圧倒されたように、言葉を失っていた。

 最初に口を開いたのは、


「これ……お肉、よね。ステーキよ」


 アイオリアだった。続いてケルスティン。


「吾は肉を食さぬ。いや、食せぬ。なのになぜ、このような肉の塊を焼いた食事を出すの

か。吾をからかっているのか、それとも……!」


 複雑な感情が渦巻く表情を衝太郎に向ける。

 しかし衝太郎。


「オレを信じてくれ。この料理はふたりにぜひ食べてほしい。もちろんケルスティンにも。そしてオレはぜったいにケルスティンをからかっても、侮辱してもいない。それを約束するよ」


 皿の中心には、こんがりと焼けた「肉」がスパイシーな香気を放っている。

 たっぷりとかけられたソースと、付け合わせの温野菜。

 どれをとっても、二百グラムは超えるボリューミーなステーキだ。


「いいわ。あたしが食べてみる!」


 アイオリアがナイフで「肉」を切る。


 切り口から「肉汁」があふれ、さらに香気が広がった。

 「肉」の断面はきれいなピンク色を見せている。フォークの背で押すと、じゅわっ、と肉汁が滲み出た。


「これ、ぜったいお肉よ! いただきます……んっ、ん、ぅ?」


 ひと切れを口に頬張り、咀嚼するアイオリアの表情が、不思議なものでも見たように変化する。

 こくっ、と飲み込んで、


「衝太郎、これ」

「どうだ。うまいだろう。特製「ステーキ」さ!」


 衝太郎に言われて、アイオリアは戸惑ったままうなずく。


「ちょっと繊維質っぽい食感とか、お肉に間違いないと思うんだけど。スパイスが効いていて、ジューシーでとてもおいしいの! でも、なんだか……」


 それを聞いて、ケルスティン。


「吾も食しよう」


 ナイフとフォークをとる。


「いいのか、ケルスティン」


 あえて問う衝太郎に、


「よい。衝太郎、そなたは料理人だそうだが、吾から見ればれっきとした武人。そのそなたが約したこと。信じろと言ったその言葉にウソはないはず。吾も武人ならば、衝太郎、そなたを信じる!」


 そう言ってナイフを使う。一片を切りだすと口へ運んだ。


けどケンタウロスって、腰から上は人間だし、肉は食べられないのですかね。

その先の馬の胃までいくと、消化できなくてNG、とか?w

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