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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!  作者: すずきあきら
第四章 東の砦の決戦
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2 ドルギア軍の陣

東の砦を包囲しているドルギア軍の陣。

指揮官ケルスティンのようすであります。

やっぱり水浴びは必須ですよね!


「なに、リュギアスの軍が迫っているだと」


 報告を受けて、ケルスティンは身を起こした。


 柔らかで清潔な藁をたっぷり敷き詰めた特製ベッドが、ケルスティンの馬体をやさしく覆う。

 人の身体である上半身は、大きな枕の上に裸で横たわっていた。

 朝の光で明るい天幕の中。ケルスティンの野戦宿泊所であり本陣でもある。

 藁を散らしながら前足の蹄が床をとらえる。ケルスティンの豊かな裸の乳房がプルッ、と揺れた。


 立ち上がるまえに、侍女たちが肌着を持ち寄る。しかし、


「よい」


 そう言ってケルスティンは馬体を持ち上げ、完全に屹立すると天幕を出る。


「控えー!」


 とたん、声が飛んだ。

 天幕を警護していた兵たちが鑓を掲げる。が、振り向いて騎士姫を見ることはしない。その間をケルスティンはゆうゆう進み、間近の川へと入って行く。


「このあたりの川はよい。水も清浄だ」


 バシャバシャと水を跳ねて進む馬体。

 馬の腹が水に浸かるほどの深さまで来ると、ケルスティンは脚を折って川水に馬体を沈めた。


 追いかけて来た侍女たちが、タオルを水に浸してケルスティンの肌をぬぐう。髪を洗い、整える侍女もいる。

 つねに戦いの最前にあるというのに、蝋のような真っ白な肌には傷ひとつない。対照的に馬体の毛は漆黒で、つやつやと陽を弾いた。


「よい天気だ。よい戦ができそうだな」


 陽をあおぎながらつぶやく。

 その瞳は青空の下に、遠く見えるリュギアスの東の砦を見つめる。


「姫さま、ご用意が」


 最後に、侍女たちが手桶に汲んだ水をていねいにケルスティンの裸体にかけ、ようやく沐浴が終わる。

 ケルスティンは身を起こすと、


「んっ!」


 ブルブルッ! 馬体が大きく震えて、水をはね散らかす。


「きゃっ!」


 侍女のひとりが思わず小さな悲鳴を上げ、顔を覆うが、ケルスティンは笑って川から上がる。

 川へ入ったときと同じように、


「控えーー!」


 護衛の兵が声を張り上げる中、ケルスティンは再び自身の天幕へ。そこで肌着、さらに騎士の正鎧をまとった。


 アイオリアがそうだが、ケルスティンの鎧もまた、たっぷりと肌を見せた最少の物、きわどい物だ。

 盾と剣、それに鑓を持った従卒たちが周りに侍る。護衛の中でもつねにケルスティンに付き従う精鋭たちだ。


 といってもケルスティンは、身の回りの者をすべて女子で固めている。ここまではすべて、侍女も護衛も従卒も女子たちだった。


「集まっているか」


 臨時に設けられた柵を越えながら、ケルスティンが従卒に尋ねる。

 答えを確かめながらケルスティンが向かうのは、一度に十人以上が入り、席に着くことのできるもっとも大きな天幕だ。


「アリアスである!」


 言うと同時に、侍従たちが入り口の幕を左右にかき上げる。中では十人もの部隊長たちがいっせいに立ち上がり、ケルスティンに一礼した。


「よい。楽にせよ」


 その言葉に従い、部隊長たちはめいめいまた席に腰を下ろした。甲冑の触れ合う音が響く。

 部隊長たちは全員が男だ。

 年配の、歴戦の者から若い者まで。伸ばしたヒゲなどふてぶてしい面構え、顔に傷を持つ者も少なくない。


 ケルスティンはテーブルを見渡す端の、長の席につく。しかし椅子に座ることはない。

 馬体の脚を折り、身を低くする。

 これでも席に座った部隊長たちよりは位置が高い。


「報告を。それと、朝食を全員に」


 ケルスティンの言葉を合図に、テーブル上に地図が広げられる。

 同時に、侍女たちがまた何人も、食事の桶を手に入って来た。部隊長たちの前へと置いていく。

 部隊長たちも手桶の中の食べ物に手を伸ばし、口に運びながら聞き入り、ときに意見を述べる。


 ケルスティンの側にも、食事の手桶が置かれた。

 しかし他の部隊長たちとは異なり、幅広の籠のようなものだ。

 中には、にんじん、ほうりんそう、セロリなど、色とりどりの野菜がひとかかえも盛り上げられている。りんごもあった。

 どれも新鮮なものを、たったいま川の水で洗って来たばかりだった。


 そのひとつを手早く頬張ると、ケルスティン。


「リュギアスの軍の到着はいつになるか」

「はい。いまより三時間後。昼まえには、と予想されます」


 部隊長の答えを聞きながら、地図に見入る。

 地図には周囲の地形のほか、リュギアスの東の砦が描かれ、ドルギア軍部隊がいくつかの駒になって置かれていた。


「ふむ」


 ケルスティンの視線の先。ドルギア軍部隊の駒は、ほぼ均等に砦を取り囲んでいる。

 いっぽう、砦の側を通る街道を、リュギアス軍は進んで来る。

 このままだと、砦を包囲するドルギア軍の背後に出ることになる。


「敵の数は」

「物見によりますれば、およそ二千と」

「二千も集めたか。あなどれんな」


 そう言いながら、ケルスティンの表情は明るい。にんじんを手早く食べると口を布でぬぐい、


「策がある者。誰でもよい、申してみよ」


 うながすと、何人かの部隊長が口を開いた。


「いっそいますぐ砦へ攻めよせ、いっきに落としてはいかがでしょう。多少の損害が出たとして、なにほどのことはありますまい。後方を楽にしてからの戦いのほうが、ことを運ぶに易し、と考えます」

「それには時間が足りぬ。昨日ならともかく、三時間後には敵が到着するのだ。陣立てなどを考えても、砦を落とし、また兵を整えるのに三時間では済むまい。あまりにもせわしないというもの」

「いっそ砦の包囲を解き、全軍でリュギアスの増援にあたってはいかがでしょう。小一時間もあれば勝敗は決しましょう。そのあとでまた砦を囲んでも問題はないかと」


 大きく分ければ意見はそのふたつ。


 部隊長たちの話を聞く間にケルスティンはすっかり籠の中の野菜をたいらげていた。瓶の水を侍女が容器に注ぐ。ガラス製のグラスだ。

 水を飲み、もういちど口を拭うと、ケルスティンは部隊長を改めて見回した。その上で地図に目を落とす。


「砦の押さえに千人を残し、残りの二千でリュギアスの増援に当たる。ただちに陣立てを変換せよ!」


 よく通る声が天幕内に響いた。

 地図を見たしゅんかんに、ケルスティンはすでに決断していたのだ。


「して、合戦の地は」

「ここだ」


 指さす。

 砦から数キロを隔てた、川を東に見る平地。敵味方四千の兵が入り乱れてもじゅうぶん以上の広さがある。


 部隊長がたちがうなずく。

 全員が席から立ち上がった。ケルスティンも身を起こす。


「全軍、出撃する!」


次回、ついに両軍激突か。

そのまえに布陣、重要であります。

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