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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!  作者: すずきあきら
第三章 タンシチュー、かぶときのこと牛乳のスープに、フルーツパフェ!
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1 調理場

今回から第三章です。

いよいよ料理を作り始めました。

メニューは・・もう書いてありますねw

「……よし」


 蓋を取ると、鍋のひとつを確かめる。


 帽子代わり、頭巾にしたタオルの端を、衝太郎はギュッと縛り直す。

 学生服の上着の代わりに、胸まである前掛け。シャツの袖を肘までまくり、その姿はすっかりシェフだ。


 小さな明かり取りから夕方の光が差し込んで来る厨房。朝からずっとだから、もう七、八時間にもなるだろうか。


 大き目のかまどがふたつ。

 水洗いなどは、供えられた井戸の周りでするようになっている。

 そのほか、切ったりこねたり、盛りつけたりするかなり広い台。食器などは、やや離れた壁際の戸棚にしまいこまれていた。


 そして地下の貯蔵庫へ通じる扉。

 百年近く、この館ができてからずっと使われてきた厨房だから、全体にすすけて黒ずんでいるが、おおむね清潔に保たれているようだ。

 台の上、市場で買い求めて来た食材が並ぶ。


「牛肉が思ったほどじゃなかったのが残念だけど」


 市場には肉、野菜、卵、スパイスなど調味料、生きた食材まで、なんでもあった。

 しかしよく見ると、もうひとつ新鮮さには欠ける気がするものだった。


 アイオリアに言わせると、昨日は船がつかずに、食材の荷揚げがなかったらしい。

 それがドルギアとの合戦のせいなのか、いまひとつわからないが、商人たちにしてもリスク回避と儲け追求の狭間でバランス感覚がはたらいているのはどうやら間違いない。


 生きている食材……つまり鶏や豚、牛もまるごと一頭いて、庶民でもそのまま買い求めて自分で解体するのはふつうらしい。

 衝太郎には無理だが、この館の調理人に頼めばそれも可能となる。


 だがやはり、船がつかないのと、船でも湖や川を下って数日を経たうえで着くもので、その間は餌などもやらず、必ずしも生きているからベストの食材とは言えないところがあった。

 陸上を歩かされてくる豚や牛などは、さらに腹をすかせて肉が痩せ、また病気のものいるという。


「病気の家畜を売るのは罪になるのよ。見つかれば罰が下されるわ。でも後を絶たないし、そうした病気の肉を買っていく者も少なくなくて」


 とアイオリア。


 そんな病気の肉や腐りかけの肉、もう完全に腐った肉などを買っていくのは庶民の中でもかなり困窮している者たちなのだと言う。

 必ずしもいつも新鮮な食材が得られない環境。

 だからスパイスをこれでもかと使うのは、そうした食材をごまかす理由もある。


 いったん肉をすっかり茹でて、それから焼くのも、高価なスパイスが買えない者が工夫したところから始まったのかもしれない。

 そうしたところも、今後なんとかできないか、と思う衝太郎だったが、


「いまはこっちに集中だ」


 肉の塊を手に取った。

 衝太郎が買い求めたのは、牛タンだ。

 新鮮さにさほど左右される部位ではないし、そんなものまで売っているのかと驚いたが、この世界ではふつう捨てる部位のようで、値段もかなり安い。

 本来、買っていくのは庶民でもさらに生活水準が下の者だろう。


(ぜいたくせずに、美味い物を)


 作りたい。アイオリアに食べさせたい。


 この世界の、ぜいたく=スパイスたっぷり、というのも覆したい。


 すでにかまどには火を起こし、大なべをかけてある。衝太郎は牛タンを鍋に入れると、時計を見た。

 壁に掛けられている大時計。


「キッチンタイマーがあれば便利なんだが、そうもいかないしな」


 それでも時計があって助かったと思う。

 もとの世界でも、ヨーロッパでは十一世紀ごろから機械時計が普及していた。


 それまでの日時計、火時計、水時計、砂時計といったものから、自然にたよらず、より正確に一日の時間や、時間の経過を測れるようになっていたのだ。


 大なべの湯が沸騰してくる。

 すぐに灰汁が浮いて来た。衝太郎はおたまで念入りに灰汁を取る。


「一時間以上かかるな。圧力鍋なら二十分なのに。まあいい。その間にソースを作ればいいさ」


 たまねぎを取ると外側の皮を剥き、手早くみじん切りにする。にんじん、セロリも同様だ。

 これとは別に、市場で買って来た仔牛の骨を衝太郎は取りだした。


 市場では客の求めに応じて、その場で仔牛を解体したりするところもある。捨てるつもりの足の骨をもらって来て、きれいに洗っておいた。

 骨はナイフの柄で叩き、一部をくだいてから、別のかまどにかけた広口の鍋に入れ、じっくりと焼く。


 別の鍋には、香味野菜が湯気を立てている。

 中に入っているのは鶏ガラ、玉ねぎ、にんじん、セロリ、ねぎ、それにブーケガルニだ。灰汁とりも念入り。

 朝から八時間ほども煮込んだ、ブイヨンだった。


 スープをおたまですくうと、綿の布でさらに濾す。

 こうしてできたブイヨンと鍋で焼いた仔牛の骨を合わせてさらに煮出す。フォン・ド・ヴォーを作る。


「固形のスープの素って、ほんと、便利だったんだな。でも作ってみたことはあるし。……いっしょに」


 いっしゅん感慨に飛びそうになる意識をグッ、と押し戻すように衝太郎は唇を引き締める。


「でもまあ、ブイヨンやフォン・ド・ヴォーを作っておけば、ほかになんでも使えるからな」


 次の作業にかかる。


 さっきの炒めた玉ねぎに、赤ワインとフォン・ド・ヴォーをそそぐ。

 強火でアルコールを飛ばす。

 さらに、バターをひいた鍋で小麦粉を焼く。きつね色になるほど焼いたら、玉ねぎのほうの鍋へ。

 また灰汁を取りながら煮詰めていく。


 とろみがつき始めたら、ワインで味と香りを調える。

 ようやくドミグラスソースができる。

 このころには、牛タンもすっかり柔らかく茹でられている。湯を捨てて別の鍋に入れ、ドミグラスソースを注いで、またしばらく煮る。


 もうわかるとおり、衝太郎が作っているのは牛タンのシチューだ。


 あとは野菜。

 ニンジンとじゃがいもは皮を向き、適度な大きさにカットして面取りをして軽く茹でる。別にみじん切りにして炒めた玉ねぎとともに、あとで牛タンの入ったドミグラスソースの中へ投入する。

 だがそれは仕上げの数十分でいい。


「ふう! さてと、次は……」


次回はできた料理を披露。

アイオリアに食べてもらいます。

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