物語の始まり
「シン」
いつもの君の声が聞こえる。
ここはどこか別の世界。
とても豪華な建物の中で、目の前には君がいて。
楽しそうに過ごしてる。
でも唐突にそんな時間は終わって。
悲鳴、絶叫、慟哭が耳に届く。
「誰かぁ…助…けて……」
胸が痛い、苦しい、気持ち悪い。
目の前の光景から目をそらしたくて、聞こえる声を聞きたくなくて目を伏せ耳を手で押さえた。
長い長い時間がたって、終わったか、そう思って目を開けると。
世界は停止していた。
そうして夢から目が覚める。
「またか…」
込みあがる吐き気を抑えて、布団から外に出る。
冬ということもあって気温は体に響くので、落ちていたパーカーを拾う。
パーカーを着ながらふらつく足を壁に支えてもらいながら歩く。
いまだ激しく脈打つ心拍は収まらず、心なしか気持ち悪い。
連日続く悪夢のせいで眠れている気がしない。
とりあえず顔を洗いに行こうと部屋を出て洗面所に向かう。
顔を洗っているとひんやり冷えた水が肌にしみこみ、冷静になってきた思考に夢の光景が蘇る。
「はぁ…なんなんだよ」
もう一週間は同じ夢を見ている。
だんだん見る夢は長くなって、今日ついにあの子は死んでしまった。
明日はどうなるのだろうか、そんな疑問を抱きながら洗面所を後にしてニ階から下へと向かう。
また夢のことを考えたせいか、めまいと頭痛が止まらない。
なんか病気にでもなったのだろうと自分に言い聞かせる。
「あー、もう今日は学校休んで寝るか」
体調悪いのに無理したって意味ないよね、寝よう、うん寝よう。
半分まで下りた階段を戻って部屋へと戻る。
顔を洗ったくせにやけに眠気がひどい。
部屋に入ると眠気のされるがままに布団へ倒れこむ。
そうして意識は途切れてもう一度夢の中へ。
「また寝ちゃってもいいよね…」
しかし、夢を見ることはなく、静かな眠りについた。
数時間も寝て目が覚めると今度は夢を見なかったのに、ゴツゴツとした感触のせいか疲れが抜けきってない。
寝起きでよくわからないが、気だるさは感じられなかった。
まあこんだけよくなりゃましかと思い起き上がる。
意識は数十センチ先の石レンガの壁に目を奪われる。
はっきりしてきた意識が周りの光景を捉えると、そこはどこかの路地裏か何かだった。
「は?」
驚きが隠せない。冷や汗が一滴右ほおを流れる。
おもわずツ〇ッターかなんかに書きこんでやろうと考えたが、目を開けたら……なんと路地裏でした、なんて書きこんでも誰も信じることはおろか、一笑にも付されずに終わるだろう。
なぜここにいるのか、なぜ路地裏なのか、どうしてこんなことが?。
尽きない疑問に悩みながら行動に出ると決める。
「とりあえず、どこかに行こう」
どこか大きな通りにでも出よう。
人もたくさんいるだろうし自宅からもそこまで離れてはいないはずだから、そこらですれ違った人に話を聞けば帰れるだろうとこの時は考えていた。
道の左右のうちの片一方を選びとりあえず進む。
やがて道の先に開いたところを見つけ、かけだした。
やっと帰るめどが立った。そう神は思う。
しかし、人はいなかった。
裏路地のほうから出てきた人間に驚いたのか、一匹の怪物がこちらを向いた。
トカゲのような二足歩行の怪物にぎょろりと睨まれ背筋が凍る。
ちびりそうになって誤魔化そうと虚勢を張るが、それに伴って出た言葉は裏返る。
「ほぁあ?え、これ何?ドッキリ?夢?え、どゆこと?」
叫んだ声に通りじゅうの人と怪物がこっちを向いた。
神は振り返って逃げ出した。