第3話
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「―――女子小学生になってる・・・⁉」
真っ白い病室の真ん中で、俺―――椋鳥草太は思わず叫んだ。
病室の壁にある全身鏡に映っているのは、記憶の中にある高校2年生の男子、椋鳥草太のものではない。つややかな黒髪を左右で束ねたサイドテールに、触れば折れてしまいそうな、華奢な手足。身長は・・・140cmくらい。子供ながら、わずかに胸が膨らんでいるところを見ると、小学校・・・5年生くらいだろうか。
「こんな・・・俺、小学生の女の子になってる・・・え・・・何で・・・?」
激しく混乱する俺。すると、鏡の中の女の子も激しく取り乱す。半泣きになってるよ、あーあ、かわいそうに、誰だよ、こんなかわいい女の子を泣かせたやつは!俺か!なんかごめん・・・
自分に自分で謝ってみる。すると、鏡の中の女の子も頭をペコリと下げて、上目遣いに申し訳なさそうな表情になる。あれ、なんかこれいいかも。
「って、楽しんでる場合かよ・・・」
とりあえず、今の状況を冷静になって考えてみる。
普通に考えて、ある日突然、女子小学生になっていた・・・なんてことはあり得ない。マンガやゲームの中でならいざ知らず、実際にそんなことは不可能だ。
「いや・・・絶対に不可能ではない、か。」
あり得るとしたら・・・そう、例えば、VRの技術と、ECDなんかを駆使すれば可能かもしれない。
VRとは、人工的に作り出された仮想現実のことだ。例えば、コンピューターで精巧に作られた3D空間の中で、現実ではありえない大冒険を楽しんだり、現実では決しておてても繋げないような美少女と恋愛したり、そういったことを体験できるゲームが、最近若者の間で流行している。
そのVRの世界に、本当に入ってしまったかのように感じさせる装置、それがECDだ。コンタクトレンズ同様、目の角膜につけるだけで、映像を目の前に映し出すことができる。この、コンタクトレンズ型のディスプレイが3年前に発明されたとこで、メールやテレビ電話、インターネットの画面なんかも、視界に直接表示できるようになったし、VRゲームも急速に広まった。つまり、便利な世の中になったのだ。まあ、何もない空間に向かってブツブツ言ってるような、ヤバめの人も増えたけど・・・
―――それはともかく。このVRとECDの技術を使えば、女子小学生になってしまったと、錯覚を起こさせることもできるかもしれない。つまり、俺の目にECDが埋め込まれていて、VRで作られた少女の姿を、自身の姿に投影しているとしたら・・・
「でも、これが仮想現実だとして・・・どうやって確かめる・・・?」
普通のECDはコンタクトレンズタイプだが、手術で眼球に直接埋め込むタイプもあるという。埋め込まれていたら、もう確かめようがない。
うなる俺。すると鏡の中の少女も、その愛らしい顔に似つかわしくなく、眉間にしわを寄せてうなりだす。
ふと、自分の眉間のしわを触ってみる。そうか、もしかしたら―――
「VRの弱点をつけば・・・」
VRで再現できるものにも限界がある。今の技術だと、五感のうち“視覚”と“聴覚”は、限りなく現実に近いものを再現できる。“味覚”と“嗅覚“も再現する技術が確立され始めている。でも―――
「触覚・・・触った感覚だけは、まだ再現できていないはず」
俺の中で一つのアイディアが浮かぶ。触覚による仮想現実の有無の確認。すなわち、自分の体が本当に女の子になってしまったのか、触って確かめる・・・これだ!
ノーベル賞ものの革命的アイディアに思わず小躍りする俺。もちろん、ノーベル変態賞である。
「でも・・・いいのか・・・?」
自分とはいえ女の子、それもおそらく、小学5年生くらいの女子である。その体を・・・触る・・・?
頭の中で、天使の俺(理性)と悪魔の俺(欲望)がせめぎ合っている。
悪魔の俺、100人くらい。天使の俺、1人。
悪魔の圧倒的勝利‼コアラ並みの理性に我ながら脱帽である・・・
と、言うことで、俺はさっそく全身鏡の前に立つ。
もう一度、鏡の中の女の子を見る。黒く艶やかな髪、雪のように白い肌、まさに大和撫子と呼ぶにふさわしい雰囲気。そして、それとは一見相反する、子供じみたサイドテールに、大きな瞳。
清楚な雰囲気と幼い風貌という相反する魅力をあわせ持つ、まさに美少女と呼ぶにふさわしい女の子。
その女の子が、まるで生まれて初めて異性に告白を瞬間のように、頬を赤らめ、うるんだ瞳でこっちを見ている。か・・・かわええ・・・まあオレ(?)がやってるんだけど・・・
(この娘の体を・・・さわる・・のか・・・)
心臓がどくんどくんと音を立てる、全身から汗がにじみ出る。例えるなら、試合本番前のアスリート。あるいは下着を盗む直前の下着ドロ。どちらかというと後者である。むしろ、後者一択。
どこから触って確かめるか・・・
(まずは・・・あ、脚。脚にしよう・・・)
いきなりお尻とか、そういう遠慮のないのは紳士のすることではない。椋鳥草太は紳士なのだ。そして童貞なのだ。おいばかやめろ、自分で自分を傷つけるな。いのちをだいじに。
(では、さっそく・・・)
フニフニフニ。
膝から下、すねやふくらはぎ、足首あたりをゆっくり、マッサージするように触ってみる。
筋肉がついてない、ほっそりとした感触。男のものというよりは、やはり少女の足の感触に思える。
(でも脚なんか、運動してなきゃすぐ衰える。病院に長い間入院して、寝たきりで痩せちゃったのかも・・・)
脚や手では、確実な証拠にはならないようだ。ここはやはり、男になくて女にあるものを、直接触って確かめるしかない。男になくて女にあるもの、それは・・・
(・・・お・・・おっぱい、とか・・・?)
・・・紳士?ああ、あいつならもう死んだよ。
否、これは真実の証明のためだ。決してやましい気持ちなどありはしない。あるわけがないのだ。ちっぱい、おっぱい、夢いっぱい。
(お、おおおっぱい?おっぱいさわるの?女の子の?まじで・・・?)
生まれて初めての生おっぱいに動揺しまくる俺、しかし、もうあとには引けない。
―――ドクン
病院着の襟に手をかける。
―――ドクン
鏡の中の少女が、病院着の前をゆっくりと開く。
浴衣のような構造のそれは、見る見るはだけ、幼い首から肩にかけてのライン、鎖骨、そして膨らみかけの乳房と・・・桜色のつぼみがあらわになる。
―――ドクン。ドクン
はじめてのいけないことに、わずかな興奮を覚えているかのように、少女の顔は赤らめている。両手を病院着の襟から離し、その膨らみかけの部分にゆっくりと運ぶ。そして・・・
―――フニッ
・・・・・・う
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼!
揉んだ!膨らみかけのおっぱいを!俺はついに、漢として、新たなステージに到達したのだ!
今ならわかる。人類の歴史の中で、男たちが命がけで求めたもの。幾世紀にもわたる哲学的探究の果てに、到達する真理。それはすなわち
「「「おっぱい!」」」
そう叫ばざるを得なかった。それほどまでに、おっぱいは素晴らしかったのだ。
感涙にむせび泣き、しばしちっぱいの感触を楽しんでいるうちに、俺は少し冷静になってきた。
(・・・これが女の子のおっぱいである証拠がどこにある・・・?)
(今触っているのは、おっぱいじゃなくて雄っぱいかもしれない・・・長く入院した結果ふとって、俺におっぱいができただけかも知れないじゃないか・・・)
なんということだ、おっぱいですら、これが仮想現実ではないという、確実な証拠にはならないというのか・・・
決死の努力も無駄に終わり、俺はひざから崩れ落ちる。意地悪な神に屈服するかのように、顔を地に伏せる。もう、真実を確かめる方法は本当にないのか・・・?
(いや・・・まだだ・・・!)
神という存在は、いつだって俺たちの願いを叶えてはくれない。希望を踏みにじり、予想以上の苦難をあたえ、嘲笑っているかのようだ。だから―――
(願いを叶えるのは神じゃない、自分の・・・俺の意志だ!)
そう、まだ可能性はある。たった1つだけ、本当に女の子になってしまったのか確かめる方法が。それは―――
(・・・股間だ!)
男と女の決定的な違い。触って確かめることのできる、唯一の場所、それこそが股間。
(もう、やるしかない。アレがついているかどうか、触って確かめるしか・・・!)
迷いはなかった。俺は再び立ち上がると、全身鏡と向き合う形でベッドの上に座った。股間のアレを確かめるのに、一番確実なフォームだ。
俺がベッドに腰かけると同時に、鏡に映る少女も、ベッドに腰かける。
顔を赤らめ、伏した目に涙すら浮かべながら、少女はゆっくりとか細い脚を開いた。そこには・・・何の柄もプリントされてない、しかし、だからこそまるで雪原のように清らかな、純白の・・・パンツ。
(―――ッ‼)
あまりの興奮に意識がもうろうとする。鼻から赤い液体がしたたり落ちる。
(耐えろ・・・耐えるんだ、俺・・・!)
山でいえば、まだ3合目くらいを登ったに過ぎない。こんなところで気を失っては、頂を見ることは到底かなわない・・・!
(パ、パンツを、脱がなきゃ・・・)
病院着の裾をまくりあげる。すると、少女の下半身があらわになる。細い。けど、腰から太ももにかけてのラインは丸みを帯びたカーブ。少女から女性へのわずかな変化を、見て取ることができる。
そうして病院着をまくりあげると、今度は純白の布に手をかけ、少しずつ、それを下へ、前へずらしていく。途中で、座っているお尻に引っかかってしまうので、背中からごろんと布団に倒れこむ。お尻を浮かした状態で布を通過させると、あとは一気に足首のあたりまでずり下した。
(ぬ、脱げた・・・)
脱げてしまった。あとは、確認するだけだ、股間にアレがついているのかどうかを。
お尻を浮かした状態のまま、少しずつ脚を広げる。まとうものの無くなった下半身は、やけにスースーする。
手を股間のあたりにさ迷わせる。・・・ない。アレが見つからない。
(やっぱり・・・俺は本当に、女子小学生になっていたのか・・・⁉)
いや、まだ100%確定ではない。股間を直接触って確認するまでは。
(直接・・・直接さわる・・・)
鼻から一筋の赤い液体がツツッ―――としたたり落ちる。負けるな俺、ここまできたんだ、股間という名の真実は目の前じゃないか。真実はいつも一つ!股間も一つ!
(俺は・・・俺は触るッ!女の子の大事なところをッ‼)
手がゆっくりと下がる。そして俺は、女の子の天使に触れ―――
「「「目が覚めたようじゃなハルお姉さま!!」」」
鍵がかかっていたドアが勢いよく開けられ、そこから9歳くらいの少女が元気よく現れた。
―――沈黙。
ベッドの上で大股開きに股間を触ってる、私。
扉を開けた勢いのまま、不審者を目撃して固まる少女。
その状況を要約するなら―――
ある日女子小学生になって、尻モロを見られた。