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いったい何者なんでしょう

 城が揺れたかと思ったら、ミエルの声が皆の頭に直接響いたんだ。

「我が神の力を見るがよい!」

 とさ。

「皆の者、落ち着いて避難せよ!」

 ルファーの威厳ある声に、一旦はパニックになりかけた皆が、衛兵さん達の誘導で整然と外に出て行く。

 ゴッドインパルス公夫妻とリキッドゲート公夫妻、ルファーさんとサキはそれぞれが出てきた扉の向こうに避難したんだ。


「ユーキ、オレ達も行くぞ」

 ウキがオレのことをかばいながら外に誘導してくれる。さすがにリートもリルもフルもおとなしく後をついてきてくれたんだ。

 オレ達はほぼ最後尾。

 そしたら、前の方から驚くような叫び声が次々とあがったんだ。

「何だあれは!」

「巨人か? 人なのか?」

「まさか本当に神が降臨されたの?」

 皆が避難しながら口々にそんなことを叫んでいる。

 そしてオレ達も外で見たんだ。その巨大な金色に輝く巨体を。

 

 それは全身が金色で、同じく金色のトーガを纏っている。目がちかちかするぜ。

 表情はまるで彫像のよう。まったくの無表情なんだ。

 その足元では、ミエルが胸を張って立っているのが見える。ミエルの身長は巨人の膝に満たないほど。ということは、巨人は十メートル近くの身長があるということかな。

 皆がその姿にあっけに取られている。いつの間にか別の出口から兵隊さんたちに守られて出てきたルファーとサキ、ゴッドインパルス公達もさすがに唖然としているんだ。


「それでは者どもに、神のお力の一端をお見せしましょう」

 そしたらミエルの言葉に従うかのように、金色の巨人は近くの木を根こそぎ引き抜いて、槍のように投げ飛ばして見せたんだ。

 それは城壁に当たり、木は文字通り『木端微塵こっぱみじん』にはじけたんだよ。


「者どもよ、神を崇めよ、我を崇めよ。さすれば金髪族だけは助けよう。この神の元でな。異種族は命乞いをせよ。さすれば奴隷として生きながらえさせてやろう。さあ、選ぶがよい」


 列席者たちはいよいよパニックになっている。兵隊さん達はなんとか防衛の姿勢を保っているけれど、それもいつかは限界に来るだろう。

 場外からも巨人の身体が見えるのか、城門越しでも人々がパニックになっているのがわかるんだ。

 さすがのダヤのおっさんたちやポンテどもバカ黒たちも、何もすることができない様子なんだ。


「さあ、余興の時間がいつまでもあると思ってはいけませんよ! 兵士どもも街に出て、城内で起きている奇跡を、神の所業を市民らに伝えてきなさい!」

 ミエルはひたすら調子をこいて、神がうんちゃらと巨人の足元で絶叫しているんだ。


 一方、結婚式の当事者や列席者は、まだパニックの様相を呈している。

「リキッドゲート公の息子、ウキといったか、最悪の場合はこの国を貴様に託すぞ!」

 何言ってんだゴッドインパルス公よ!


「ウキ、ここを押さえられなかったらすまん、平和は『リキッドゲート』からやり直してくれ!」

 何言ってんだルファー兄さん!


「ウキ、貴様はユーキちゃんと生き延びることを最優先とせよ!」

 やめてよそんなこと言わないでよお父様! そんな笑顔を見せないでよお母様!


「ウキ、ユーキ、お前たちは、とにかく一旦ここからずらかるんだよ。父様たちは私達に任せな!」

 サキ、サキ、サキ! うん、うん、うん! 


 でもね、実はオレは冷静だったんだ。

「ユーキ、何も怖くはないからな、ここから逃げるぞ」

 うん。ありがとウキ。でもね実はさ、オレは目の前の巨人よりも、オレの頭の中で精霊獣達が怒り狂っているのをなだめる方が大変なんだ。

 だから心配しないでね、それからオレと、この子達を信用してね、ウキ。


 オレは皆が金色の巨人に目をとられている隙に、他の人々に見つからないようにウキを物陰に引っ張って行ったんだ。

 ねえウキ、これから起きることに驚かないでね。

「訳わからんがわかった」

 ありがとウキ。

 それじゃリート、リル、フル、お前たちの指示にオレは従うよ。

 わかった、こう唱えればいいんだね。


 リートに命ずる。

「我に名を与えられし炎の化身よ、我の『情熱』を汝の鍵とし、汝の魂をここに満たせよ」


 リルに命ずる。

「我に名を与えられし氷の化身よ、我の『冷徹』を汝の鍵とし、汝の魂をここに満たせよ」


 フルに命ずる。

「我に名を与えられし嵐の化身よ、我の『平穏』を汝の鍵とし、汝の魂をここに満たせよ」


 さあいくよ、みんな!


「汝らの存在、全てをここに顕現させよ! 『魂魄解放リベレーション』!」



 次の瞬間、城内は三色の光に包まれたんだ。


 金色の巨人が明らかに狼狽ろうばいしているのがわかる。

 そんな金色の巨人の姿に狼狽しているミエルもな。


「我は『炎鬼えんき』 我が主より『イフリート』の名と、我に足らぬ『情熱』を賜った存在」


 金色の巨人さん、それまでなかった表情がわかりやすくなってきました。主に目を剥く方向で。

 

「我は『凍鬼とうき』 我が主より『フェンリル』の名と、我に足らぬ『冷徹』を賜った存在』


 あーあ、どこからどう見ても震えているよね金の巨人ちゃん。

 

「我は『嵐鬼らんき』 我が主より『フルフル』の名と、我に足らぬ『平穏』を賜った存在』


 はい、よくできました。

 物陰に隠れたオレとウキの前で、金色の巨人もかくやという存在が姿を現しました。

 それは『巨人』という武骨な表現では足りない、威厳と威圧を併せ持つ存在達。


 怪しく揺れる妖炎の衣を纏った、ほっそりとした切れ長の目線が美しい、赤髪赤瞳の女性とも見まがうような存在。

 

 透き通るように青く輝く冷気の衣を纏った、くりくりとした瞳が可愛らしい、快活な男の子のような存在。

 

 嵐のごとく荒ぶる白い衣を押さえつける様に筋骨隆々の体に纏わせた、恐怖と安堵を同時に感じさせる、丈夫ますらおのような存在。


 次に訪れたのは、しばしの静寂。


 ……。

 

 赤き鬼が口を開いた。

「随分と我が主の前で失礼をかましてくださいましたね」


 青き鬼が口を開いた。

「お前、どこから湧いてきたのか知らんが、終了決定な」


 白き鬼が口を開いた。

「我が主の慈悲はどう考えても貴様にはもったいないな」


 新たに現れた三色の鬼によって、観衆はパニックを通り越して硬直してしまったみたいなんだ。

 そりゃそうだよな。オレだっていきなりこんな状況を目の当たりにしたら、即効で腰を抜かす自信があるぜ。


 が、ミエルも負けていない。

「たかが赤と青と白ではないか! 金色の神よ! そのお力で目の前の者どもを蹴散らしたまえ!」

 でもさ、どう見ても金の巨人自体がパニックになっているんだけどさ。

 金の巨人は自棄やけになったように、その辺の木を引きぬいて、三体の鬼に投げつけたんだ。

 だけど、それは金の巨人に絶望を与えただけだったのさ。


 赤き鬼に投げつけられた木は、その直前で業火に焼かれ、灰燼と帰したんだ。

 青き鬼に投げつけられた木は、その直前で凍りつき、粉々に砕け散ったんだ。

 白き鬼に投げつけられた木は、その直前で不可視の竜巻にすり潰されたんだ。


 びびる金色の巨人。

 しかし時すでに遅し。


「燃え尽きなさいな」

「凍えながら砕けろ」

「粉塵となるがよい」


 三人の言葉に続き、金の巨人に無慈悲な光が注ぎ、轟音が続く。

 炎が焼き尽くすときに放つ赤い光と焼ける音。

 水が凍てつくときに放つ霜の光と凍てつく音。

 嵐が引き裂くときに放つ乱れる光と乾いた音。


 で、続けてオレの頭に、みんなからの声が響いたんだ。

 

 リートの声。 

「小僧はこの餓鬼ガキに操られています」


 リルの声。

餓鬼ガキの殲滅と同時に小僧に巣くう者も消えます」


 フルの声。

「主よ、水髪の大男を小僧に向かわせてください」


 わかったみんな!

 ウキ、ミエルを助けに行ってあげて!

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