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ちゃぶ台返しです

「我々はその結婚を認めない。そんなものは認めない、認めないぞ!」


 その唸るような怒鳴るような、お腹に響くような不快な声色こわいろで、そいつは叫んだんだ。

 一斉に列席者の視線が背後の扉に向けられ、そしてため息が続く。

 

 そしたら、ルファーさんがリキッドゲート公夫妻をかばうように立ち上がり、その男に言い放ったんだ。

 

「ミエルよ、貴様に異を唱える権限はない! 速やかにこの場から立ち去れ!」


 ミエルと呼ばれた金髪青瞳の兄さん、よく見るとルファーさんに似ているなあ。あ、そういやこないだ蛇姫馬メデューサホースのところでおかしなことを言っていた兄ちゃんじゃねえか! 


 そしたらミエルとやらは続けたんだ。


「父上も母上も間違っている。どうして我が金髪族領主血統に、水髪族とは言え、他の血統を交えることをお許しになるのか! そもそもそこの女の母親は黒髪族ではないか!」


 これにいきりたったのはゴッドインパルス公。

 

「ミエルよ、貴様は勘当済じゃ、なのにどうしてここにおる。どうしてここで下衆な主張を延々と垂れ流しておる!」


 一方のリキッドゲート公夫妻は様子見に徹しているみたいだ。

 

「世俗ボケしたか父上、金髪族こそ至高、我らこそがこの大陸を納めるにふさわしい髪族なのだ。なぜそれが理解できないのだ!」


 ひでえ言いようだな。どこにでもああいう視野の狭いアホは涌くということか。


 そしたら司会のおっさんが何とか立ち直ったようだぜ。


「静粛に! ミエル殿、元領主次子のお立場を鑑みれど、既に勘当されている身、速やかにこの場よりお立ち去りください」

 お、ミエルとかという野郎が、余裕ぶっこきで司会のおっさんに接してやがる。

「兵長マスティよ、我に資格は無けれども、貴族に資格はあるはずだが」

 司会のおっさんは兵長だったのか。

「それはその通りですが……」

 お、なんだあのミエルとやらの勝ち誇った表情は。


 そしたら列席者の中から、一人のおっさんが叫んだんだ。

「私もこの結婚に反対だ。ただちに中断することを要求する!」

 誰だあのおっさんは?

 司会のおっさん、マスティさんか。も、これには改めて驚いた模様。

「ガブリエラ公、ここに及んでいきなりなんてことを!」

「私は様子を見ていただけだ。ミエル様が蜂起なさるかどうかをな」

 

 ようするに、ガブリエラ公のおっさんは、本気でミエルが子の結婚式を潰すのか否かを見極めるつもりだったらしい。そのまま式が進んでしまえばそれまで。ミエルが決起するならそれを後押しするということだな。なんとも汚ねえ大人だ。

 って、『ガブリエラ公』ってどっかで聞いたことあるよね。

「娘のイシュタをアスモデ公にお持ち帰りされたアホ貴族だな」

 言うねえウキ。そういやスライムとジュエル貝の干物をくれたカップルがいたわよね。

 

 会場内は騒然としている。

 マスティのおっさんは場を鎮めようと躍起になっているんだ。

「一旦皆様ご着席ください!」

 でも、着席しろと言われても困っちゃう。これからどうなるのかわからないしさ。

「私の反対申し入れがある以上、この結婚式は無効となるはずだが」

 いつの間にかガブリエラ公がマスティのおっさんが使用していた演壇に陣取り、言葉を続けたんだ。


「そしてルファー殿、この失態の不始末をどのようにつけるおつもりであるのかな?」


 うわあ、嫌らしい笑みだぜ。

 この野郎、自分で場を乱しておいて、その責任を主催者にとれってか。ある意味すげえなこのおっさんも。

 でも、みんなどうするんだろう。

 って、サキもリキッドゲート公夫妻も落ち着いたものね。

 どちらかというとゴッドインパルス公夫妻は悲しそうな表情をしているし。


 そしたらゴッドインパルス公が一度だけため息をついた後、一旦マスティさんに目配せをしたんだ。そしたらマスティさんもあきらめたような表情で、無言で会場から出て行ったんだ。

「負けをお認めですか?」

 というミエルの挑発に何の反応もせず、無言でさ。

 

 そしたらミエルが金髪族の優位性について延々と唱え始めやがったんだ。

 金は完成された色だとか、そもそも他色は金に仕える色だとか、下位の色は上位の色に治められてこそ幸せになれるのだとか、それを放置するから黒髪族のような最下層の者共が調子に乗って戦争を始めるのだとかさ。

 そんな馬鹿な連中を導くのが我らの義務であり使命なんだとさ。


 聞いてられねえよ。よくもまあ、他者のことをここまでおとしめて言えるもんだな。

 ボンテ達五人もさすがに耐えているけれど、あの様子だといつぶち切れてもおかしくなさそうだし。


「どうですか皆さん、金髪族以外の下劣な者は、このゴッドインパルスから追い出そうじゃありませんか!」

 

 いよいよ脳が沸騰してきたなあの野郎。自身の演説に酔いまくっていやがる。

 さすがのガブリエラ公もちょっと引き気味だぜ。

 

 そしたら、マスティのおっさんが無言で何人かの兵を連れて戻ってきたんだ。で、大威張りのガブリエラ公の後ろに控えたんだよ。

「マスティ殿も状況がお分かりか。それが賢い選択であるな」


 そしたら、次の瞬間、マスティさん達が瞬時にガブリエラ公を取り押さえたんだ!

 次にゴッドインパルス公が寂しそうな口調でこう宣言したんだよ。

「国家内乱罪をガブリエラ公に適用し、今この場で領主の強権を持って公の全ての権限をはく奪する」ってさ。

「何をたわごとを! 領主にそんな権限があるものか! って、まさか!」

 ガブリエラのおっさんの表情がみるみる強張ってくる。

「ああ、そのまさかだ。今わしはこの場で宣言する。ガブリエラ公の権限はく奪を我の領主引退を持って成立させるとな。これは領主の超法規権限発動じゃよ。別名『刺し違え』をな」 

 

 ガブリエラのおっさんは必死で抵抗したけれど、マスティのおっさんたちに取り押さえられ、そのままどこかに連れて行かれてしまったんだ。

 その間、会場内はものすごい喧騒に包まれたんだ。

「何と領主はガブリエラ公家自体をお取りつぶしにするおつもりか!」

「まさかの領主超法規権限発動とは!」

「領主はそれほどまでに、この結婚を成就させるおつもりなのか!」 

 様々な叫びが聞こえる。あちらこちらで悲鳴にも似た叫びがあがる。


「さらに宣言する。次期領主はここにおる『ルファー・ゴッドインパルス』であるとな!」


 この宣言に一層場内は沸き立ったんだ。

「ミエルよ、お前達が黒髪族の領地でどういった狼藉を働いているのかは調査済みだ」

 ルファーが冷たく言い放った。

「サキに刺客を仕向けていたこともな」

 そしたらサキも続けたんだ。

「この結婚によって金髪族と水髪族の友好は一層深まり、各髪族間での私たちの発言権も高まるでしょう。そこで私達水髪族は隣国である黒髪族との正式な講和を締結することにしています。その後金髪族の入植者には金髪族の領地に一旦戻っていただくことになります。こちらは赤髪族、銀髪族、白髪族の長にも事情を説明の上、理解はいただいておりますわ」

 そっか。いろんな街でサキが出かけていたのはそういうことだったんだ。

 

「黙れ黙れ黙れ! 認めない、認めないぞそんなものは!」

 そう叫び、扉近くに陣取るミエルを、もう誰も顧みない。

 会場の人々は、再び拍手を始めたんだ。ルファーとサキの結婚に反対を唱えるものは誰ひとりいないことを証明するかのように。ルファーとサキの計画に賛成するかのように。

 ボンテ達も講和の話までは聞いていなかったらしく、呆けた表情でサキの話を聞いている。


「認めない、認めないぞ! 愚か者共よ! ならば我が神の怒りの前に全員地獄に堕ちるがいい!」


 そう叫ぶと、ミエルは外に駆けだしていったんだ。

 でも、誰も顧みない。もうミエルはこの場にいない人になっているかのように。


「やれやれ、一時はどうなるかと冷や汗ものでしたぞ」

 リキッドゲート公がゴッドインパルス公に声を掛けている。

 だけど、ゴッドインパルス公とお妃は神妙な表情を崩さないんだ。

「あれでも我らの愚息でな。何とかしたいとは思っておったんじゃが、まさか逆にガブリエラ公を取り込みに行くとはな」

「あれも私がお腹を痛めた息子、なにとぞ皆様へのご無礼にはご容赦を」

 そっか、そうだよな。かーちゃんからしたら可愛い息子だもんな。

 何となく神妙になっちまったい。

 

 えっ?

 

 そしたらお城が揺れたんだ。まるで地震のように。

 続けて耳をつんざくような声が皆の脳裏に響いたんだよ。

 

「我が神の力を見るがよい!」


 それはミエルの声だったんだ。

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