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こういう結婚式も有りなのね

 衛兵さんの先導で、オレ達はゴッドインパルスの城内を案内されたんだ。

「結婚の儀は『真実の間』と名付けられた広間で行われます。ちなみに明日の『披露パーティー』は『健啖けんたんの間』と名付けられた大広間で執り行われます。料理人の皆様には結婚の儀終了後に、直ちに厨房が解放されますので、明日の料理準備に取り掛かっていただける段取りとなっております。詳細はまた後程」 

 ふーん。明日の披露パーティもお城の中で行われるのね。こりゃ今日はお城に泊まり込みかな。

 そんなことを考えながら衛兵さんの後についていったオレ達は、真っ白な扉の前でいったん立ち止まったんだ。

「こちらが本日の会場となる『真実の間』となります。どうぞ空いている席にお掛けください。ただし、前三列は親族席となっております。正面を向いて右側が新婦側の席となっておりますので、ウキ様とユーキ様はそちらまでお進みください」

「ねえ衛兵さん、この子たちも連れて行って構わないのかな?」

 オレの質問に衛兵さんは笑顔で答えてくれた。

「精霊獣は家族同然ですからね、ご一緒にどうぞ」

 こうして扉が開かれたんだ。

 

 うわすげえ! 既に数十人のご立派な身なりの方々が着席済だぜ。

「それじゃお嬢ちゃん、わしらは最後尾に座っておるからの」

 わかったわダヤさん。さすがにタロベエとジロベエのサイズじゃあ、一番後ろにいるしかないものね。

「ウキお前ユーキちゃんに必要以上に構うんじゃねえぞ」

 何を言っているんだボンテは?

 

 オレはウキに手を引かれながら、右端の通路を前に進んだんだ。席はすでにほとんど埋まっている。

「誰かしら、あの黒髪の娘は?」

「リキッドゲート家の妃は黒髪族ですからね。それに連なる者でしょう。後ろに座っている黒髪族の男どもはおつきか何かかしら?」

「野蛮そうねえ。ああ怖い」

 おばはんたちは遠慮ねえな。全部聞こえているぞ、

「気にするなユーキ」

 気にしてねえよ。噂話好きのおばはんなんか、どこでもいるからな。ありがと、ウキ。

「おう、遅かったの、ウキ、ユーキお嬢ちゃん」

 お、サガタス爺さんじゃねえか。爺さんも昨夜の酒は残ってないみたいで何よりだな。

「ユーキ、ここに座れ」

 わかったよウキ。

 リートはオレのひざ上、リルは隣、フルは通路でごめんね。


 さて、正面とその左右に合計三つのテーブルがおかれ、そこに二人掛けの椅子がそれぞれセットされている。まるで真ん中に置かれたテーブルをはさんで、両脇のテーブルが向かい合うように。そしてその後ろにはそれぞれ扉があるんだ。

 あれはどうするのかな?

「まあ、楽しみにしていろ」

 そうだね。オレもこの世界の結婚式って初めてだし。

 神父のおっさんとか坊さんとか神主さんとか来るのかな。


 それで、最前列の席ににオレ達が腰かけてしばらくすると、外から鐘の音が響いた。これが式の合図らしい。すげえ、城外にもお知らせしちゃうのかよ。って、そりゃそうか、領主様の息子様のご結婚だもんな。

 

 お、いかめしいおっさんが現れたな。おっさんは後ろの入り口から歩いてきて、ちょうどオレ達の真横くらいにしつらえられた演壇みたいなところにスタンバイしたんだよ。

「まずは、リキッドゲート公およびリキッドゲート妃の入場です」

 するとおっさんの声と同時に、まずは右側の扉が開かれ、サキのお父様とお母様が現れたんだ。うはあ、威厳あるなあ。渋いぜ中年。


 お父様とお母さまは丁寧に一礼すると、右側のテーブル席に並んで腰かけられたんだよ。

「続けて、ゴッドインパルス公およびゴッドインパルス妃の入場です」

 すると今度は左側の扉が開いたんだ。で、入場してきたのは金髪に青瞳のおっさんとおばはん。うわ、高貴なオーラがむんむんだぜ。ちょっとおっかねえな。

 このおっさんとおばはんも丁寧に礼をすると、左側の席に並んで腰かけたんだよ。

 

「それでは、『ルファー・ゴッドインパルス』並びに『サキ・リキッドゲート』の入場です」

 へえ、新郎新婦って言わないんだ。あ、そっか。まだ結婚していないのだものね。

 そしたら正面の扉が開き、ルファーさんとサキ姉さまが入場してきたんだ。

 うわあ、二人とも純白の衣装なんだ。何だよこの美男美女は。会場からもさすがにため息が漏れているぜ。

 でも腕も組んでないのね。『いまだ別人』ってことなのかな。

「それではまず、ルファー・ゴッドインパルスから、当事者であるサキ・リキッドゲートへの正式な求婚および、本結婚に対する列席者の承認を得るための演説を行います」

 演説?

 すると、ルファーさんは一旦立ち上がり、こちらに向かって朗々と歌を歌うように言葉を紡ぎ始めたんだ。

 

 曰く、自身がどれだけサキのことを愛しているかということを。

 曰く、サキとの人生において何を目指し何を育んでいくのかということを。

 曰く、この結婚が自分たち二人だけでなく、周囲にも幸福を囲んでくるであろうと。


 ……。

 

 見惚みとれれちまった……。ルファーさんの堂々とした姿に。


 最後に大きく礼をして、ルファーさんの演説は終わったんだ。


「次にサキ・リキッドゲートより、ルファー・ゴッドインパルスへの回答および列席者への回答理由についての演説を行います」


 するとサキは優雅に席から立つと、列席者に背を向ける姿勢。つまりはルファーさんを正面とする姿勢で、深々とルファーさんにお辞儀をすると、ゆっくりと頭をあげ、宣言したんだ。


「謹んでお受けいたします」


 とさ。

 そしたらサキはゆっくりとこちらに振り返り、オレ達に向かって同じように演説を始めたんだ。


 ……。


 ああ、素敵だなあ。


 サキの真剣なまなざしと、それを背後から見守るルファーさんの優しげなまなざしが心に染みるよ。

 こんな結婚式もあるんだなあ。

 最後にサキは改めてゆっくりとお辞儀をし、優雅な足取りでルファーさんの隣の席に戻ったんだよ。

 

「それでは、各々の父母による承認を行います。まずはリキッドゲート公から」


 そしたら、まずはリキッドゲート公とお妃様が立ち上がって、ゆっくりとルファーさんの背後にまわり、リキッドゲート公はその左手をルファーさんの左肩に、お妃様はその右手をルファーさん右肩にゆっくりと置いたんだ。

 続けてリキッドゲート公が宣言したんだよ。

「我らはルファー殿の演説を承認する」 


 続けてゴッドインパルス公とお妃様も席を立ちあがり、同様にサキの両肩にそれぞれの手を置いたんだ。

 そしてゴッドインパルス公の宣言。

「我らの演説を受け入れていただいたこと、感謝する」

 そっか、ルファーさんが先に求婚したから、こうした流れになるんだね。

 何だよこっちをチラ見してくんなよウキ。


「それでは、列席者からの承認をお願いいたします」

 そしたら案内人のような清楚なおばはんが、オレ達に起立し、順番に拍手をしていくように促してくれたんだよ。

 へえ、徐々に大きくなる拍手が二人を包むようで素敵だな。

 ルファーさんとサキも満面の笑顔だ。後ろの領主様達もまんざらでもない表情だね。


「ルファー! サキ、幸せにな!」

 うは、サガタスの爺さんが感極まって泣きながら声をあげているよ。年寄りは涙腺が緩くなるって本当なんだな。畜生オレもちょっと緩んじまったぜ。

 

 拍手は徐々に大きくなり、最後列のダヤさんたちおっさん衆やバカ黒五匹のところまで達するところで最高潮となったんだ。

 お、司会のおっさんが咳払いをしている。そろそろ締めかな。どんなふうに締めるんだろ。

 きっと格好いいのだろうな。おっさんの晴れ舞台だぜ。

 

 って、そしたら突然後ろから扉をたたきつけるような音が響いたんだ。

 

 その音に全員が驚いて手を止めてしまう。司会のおっさんはいいところで驚かされたらしく、むせて咳こんでしまっているよ。

 

「我々はその結婚を認めない。そんなものは認めない、認めないぞ!」


 次に響いたのは、怨嗟えんさのこもったような低く響く、誰かの声だったんだ。

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