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結婚式前夜

 オレ達は七人と三匹で市場を一巡りしてから、三兄弟のおっさんとザゼルのおっさんが借りている食堂に向かったんだ。

 オレもウキもボンテたちもそれぞれ色々と買い込んだんだよ。オレはサキの披露パーティーで使うベースの食材が中心だけど、ウキやボンテたちが買い込んでいるシロモノを見て、他にもちょっと追加したんだ。オレって気が利くな。

 

「おう、いらっしゃい!」

 来たぜおっさんども。

「これはまた賑やかじゃの」

 こいつらウキの連れなんだよ。ちょっとその辺で遊ばせといていいかい? 力だけはあるから下働きをさせることもできるからさ。

「イスムさんとユーキさんは私と一緒に明後日のメニュー調整をしましょうか。料理によっては今日から下ごしらえが必要でしょうし」

 そうだねザゼルのおっさん。でも、その前にこいつらを黙らすか。

 ということで、イスムのおっさんとザゼルのおっさん、そしてオレは、酒瓶を抱えてものほしそうにこちらに目を向けているウキと黒髪五人衆、そしていつの間にか混じっているダヤとキストのおっさんたち用に、おつまみを作り始めたんだよ。


 イスムのおっさんは相変わらずの肉料理、ザゼルのおっさんは野菜を刻み始めたな。ならオレはこれだ。

 まずは市場で買ってきた『金槌鮪ハンマーヘッドツナ』の切り身に塩と辛豆粉をまぶしてあげる。

 で、なじませる間、リルに頼んで桶に氷水を満たしてもらっておくんだ。

「ユーキ、腹減った」

 うるせえ、もうちょっと待ってろ。

 そしたらフライパンを強火にかける。リート、お願いね。

 で、十分に熱したフライパンに切り身を投入! 両面にさっと焦げ目をつけてあげるんだ。

 コツは焼き過ぎないこと。

 だから余熱で中まで火が入りすぎないように、ここで切り身を氷水に投入してあげるんだよ。

 で、冷めたら塊を食べやすいように薄切りにして、ネギを散らしてやるんだ。

 最後に魚醤油を白葡萄酒で割ったものに『絶頂檸檬エクスタシトロン』を絞った果実酢のたれ。これを回しかけてあげる。

 

 ほれ、『ハンマーヘッドツナのたたき』だ。

 外は香ばしく焼けているけど、中はレアだ。旨みに酒が進むぞ。

「『鶏鼠チキンマウスの串焼き』も焼けたぞい」

 おお、イスムさんは串焼きか。さすがだ。

 うへえ、それぞれの串を鶏肉と鼠肉のグラデーションにしているんだ。やるなあ、おっさん。

「野菜もたくさん摂った方がいいですからね、『絶叫大根マンドラディッシュと定番野菜のサラダ 一角汁ユニコーンソース風味』です」

 ザゼルさんはバランスがいいなあ。って?

「大根は明後日も使いますからね。この方々に実験台になっていただきます」

 さすがだ料理人さん。



「うおお! この魚は美味いぞ!」

「串焼きはいろんな肉が付いていて飽きないぜ!」

「大根の甘みと辛みと一角汁の風味で酒が止まらねえ!」

 楽しそうだなお前ら。『挽肉の徘徊蔓汁ワンダラーバインソース炒めとクラッカー』も出しておいてやるから、ちびちび食べてろ。

 

 ということで、アホガキどもとおっさんを黙らせた後、イスムさんとザゼルさん、そしてオレの三人で打ち合わせを始めたんだ。

「どうせなら『ひとひねり』が欲しいのう」

「せっかくのお祝いの席ですからね。料理にテーマを盛り込みたいですね」

 ……。

 そしたらさ、こんなのはどうかな?

 ん? どうした二人とも。真顔になっているぞ。

「酒はアレとアレ、肉は『蛇姫馬メデューサホース』を使えば何とかなるか」

「サラダはアレで決まりでしょうね。魚もユーキさんがヒントを下さいましたからね」

 うお! もう料理を思いついたのか二人とも。さすがです。

 というオレも思いついちゃったんだけどさ。

 ふっふっふ。


「一番時間がかかりそうなのはユーキさんのメニューですね。今から仕込みましょうか?」

 そうだね。手伝ってもらえるかなザゼルさん。

「ええ、その代わりと言っては何ですが、当日私もリルさんの力をお借りしても構わないですかね?」

 問題ないよねリル? よろしくね。

「それじゃ、わしも手伝うかの」

 ありがとイスムさん。

 よし、まずは骨の下茹でからだね。

 ということで、俺達は宴会チームと下ごしらえチームに分かれたんだよ。


 よし、こんなもんかな。後はじっくり煮出すだけだね。

 そしたら、誰かが食堂のドアをノックしたんだ。誰だろ?

「こちらにウキとユーキちゃんはおるかの?」 

 誰か出向いてやれよ。まるっきり無視で騒いでんじゃねえよバカどもが。

 って、あれ? あの爺さんは……。

「おう、おったおった! 久しぶりじゃのお嬢ちゃん」

 何で官憲の爺さんもといサガタス爺さんがここにいるんだよ!

「これはこれはご隠居。今日はどうなされたのですか?」

 さすがだぜザゼルさんは。大人の対応だぜ。

「いやな、サキのところに行ったら、ここでお前らが遊んでいると聞いてな。ワシも遊びに来たんじゃよ。ほれ、酒も持参じゃ」


「うお! 酒がきたぞお前ら喜べ!」


 お前らなんで『酒』に反応してんだよ。やっとサガタス爺さんに気がついたかよウキ!

「ほうほう、ファイナリスト三人お手製のつまみとは贅沢じゃのう。ワシもご相伴させてもらうぞ」

 うええ、この爺さん当たり前のように宴会の席に混じりやがった。

 仕方ねえなあ。それじゃつまみの追加でも作るか。 

 イスムさんもザゼルさんも料理に取り掛かっているね。へえ、こいつら相手に明後日の料理を試してみるつもりだね。イスムさんは肉、ザゼルさんは魚を取り出したよ。

 それならオレはお菓子を焼こうっと。

 ああ、ウキがいないと心ゆくまでお菓子を焼けるわね。


 ……。


 そういう安息もつかの間。

 で、なんで今この爺さんがここにいるのかな。


「ユーキお嬢ちゃんはおるか?」

 って、何しに来たんだよ爺さん!

「おう、おったおった。お嬢ちゃん、早速じゃが『フロランタン』を譲ってもらいに参ったのじゃ」

 うわ、さすがにこのクソジジイが発する威圧感には全員気付いたか。ウキを除く皆が緊張の面持ちで爺さんを見つめているぜ。

 爺さん、ちょうど今焼いているところなんだけどさ。一刻ほど待てるかい?

「構わん。む? それは魚か?」

 全員緊張の中、傍若無人な爺さんはザゼルさんのところまでやってきて、無造作に切り身を口に放り込んだんだ。

「うほう、これは酸っぱくて身が甘くて美味いのう」

「おい爺さん、ユーキの菓子が焼けるまで、爺さんも呑んでいくか?」

 あーあ、すっかり出来上がっちゃっているよウキさんは。一人で浮きまくっているじゃないの。

「む、酒か? いただこう」

 うわ、呑むつもりだよこの爺さんも。

「爺さん呼ばわりは心外であるな。そうじゃな、『バムート』とでも呼んでもらおうか」


 そしたらイスムさんがオレにそっと耳打ちしたんだ。

「あの爺さん、バケモノじゃろ?」

 その通りだ。多分、バケモノ中のバケモノだな。

「なんであんなバケモノと知り合いなんじゃ?」

 色々と成り行きでな。

「おう! バムート爺さん、いい飲みっぷりだな!」

「バムートさんとやら、もっと吞め」

「いただこう」

 あーあ。酔っ払いどもがなじんできちゃっよ。

 まあいいや、おとなしく呑んでいてもらおう。

 

「ヘーイ! グッドタイミングゥ!」

 ……。 

「楽しそうだねえ、オレも仲間に入れてよ! 酒もたくさん持ってきたからさあ。 あ、ユーキちゃん、グラス一つ追加ね!」

 ……。

 何であんたがここにいるんだよルファーさん。

 あんた、明日結婚式でしょ?

「独身最後の夜を満喫さ! ほら、ジャンジャン持ってきてよ!」  

 サキにチクるぞ。

「ユーキちゃんはそんなことをしない子だって、俺知ってるもんね」

 ホント調子がいいなこいつは。

 

 イスムさんのステーキ、ザゼルさんの赤身魚の酢漬、オレの各種焼き菓子追加で、場は大盛り上がり。

「それじゃわしらも同席するかの」

「そうですね。ユーキさんもいかが?」

 オレは未成年なんだけどなあ。

「ユーキ、ここだここ、ここに座れ!」

 ホント酔うと調子こきになるなウキの奴は。リートとリルとフルにとっちめられるのも、既にセットになっているよね。

 仕方がねえ。氷と水を用意して隣に座るとするか。


 結局宴会は延々と続いたんだ。バムートの爺さんも魚がよっぽど気にいったのか、帰ろうともしねえ。可愛い孫が待っているんじゃないのかよ。

「孫はもう寝ているでの」

 ああそうかい。

 

 で、黒髪五人組は宿に戻らなくていいのかい?

「誰か宿を手配したか?」

「知らん」

「知らんな」

「お前が手配したんじゃないのか」

「皆無責任だなあ」


 お前ら頭大丈夫か?


「今日はここに泊めてもらってもいいかい? 宿代に酒買ってくるからさ」


 ボンテよ、その愉快な仲間たちよ、それでいいのかお前らは。

 おっさんどもも快諾してんじゃねえよ……。


「酒だー!」

「女が何じゃあ!」

「余興じゃ余興じゃあ!」

「一番ルファー、歌います!」

「ユーキちゃん結婚してくれえ!」

「殺すぞボンテ!」


 なんだか酷い様子になってきたなあ……。

 ん? 何だいバムートの爺さん。

「我も余興をせねばならんか?」

 好きにしろよ。

「炎でも吐けばよいか?」

 やめてくれ。

 

 ……。

 

「ほらユーキ、帰るぞ」 

 ん? ありゃ、オレも寝ちまったか。って、皆さん雑魚寝なのね。バムートの爺さんは帰ったみたいかな。

「俺はともかく、お前はベッドで寝ておいた方がいいだろう」

 そっか。明日はサキの結婚式だものね。むくんだ顔で行くのは失礼だよね。


「月がきれいだな」


 昨日も聞いたよウキ。

 ウキは、オレの国ではこの台詞に特別な意味があることを知らないだろうけどさ。

 空には大きなお月さま。

 その光がオレ達の影を大きく伸ばしてくれている。ウキの影も、その肩ほどにも満たないオレの影も。

 ウキからオレに差し出された左手も、そこに伸ばすオレの右手も。


「そうね、月がきれいだね」


 心なしかオレの右手を握ったウキの左手に力がこもったような気がしたけれど、気のせいにしておこうっと。

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