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お父様とお母様

 サキとウキのご両親から夕食をごちそうになることになったのだけれど、二人、特にウキの表情がさえないんだ。

 どうしたのかな?

「ここには料理人がいなくてな。食事は三食とも専門業者からの『仕出し(ケータリング)』なんだ」

 そうなのウキ? ということは、サキとウキのご両親はここに住んでいるわけじゃないのか。それはそうよね。二人の故郷は『サンライズブリッジ』より向こうだって言っていたものね。

 そう言えばメイドさんの姿も見えないや。

「ハンナは日中だけ掃除に来てくれるんだよ」

 ふーん。なんだかよくわかんねえよサキ。

 

「それでは食堂に参ろうか」

 おっす、お父様。 


 うわあ!

 そこに並べられていたのは数々の料理。きれいに盛りつけてあるなあ。

 テーブルは十人掛けかな。正面にお父様、その左にお母様、向かいにサキ。

 そしたらウキがサキの隣にオレをエスコートしてくれたんだ。うへえ、似合わねえ。

 ウキがオレの前に腰掛けたら全員集合。

「それでは召し上がれ」

 そうなんだよな。この世界って、お母さんの合図で食事が始まるのだよな。

 ちなみに食事前の挨拶はてんでばらばら。サキが言うには、感謝を表せば別に神に祈ろうと農民に祈ろうと目の前の獲物に祈ろうと何でもいいらしい。

 改めて『いただきます』の汎用性が心に染みるぜ。

 

 で、目の前の料理。

 まずは皆がやっているように、棒パンをスープに浸してあげる。そうしてからスープを一口。

 ありゃ、ちょっとぬるいかな。

 これはチキンスープだね。鶏の味が染み出ている。相変わらず味付けは塩のみだけどさ。


 サラダは白トマトと青菜ときゅうりみたいなの。これに塩を振ってある。

 うーん。塩のお陰で白トマトの甘みが強調されるのは美味しいけれど、ちょっと寂しいな。


 メインディッシュはお肉を焼いたもの。この香りはアレね。

「『岩石蜥蜴バシリスクリザード』のステーキとは、奮発したな父上」

「わかるかウキ。今日はお前達との待ち合わせ日だったからのう」

 そう、目の前のステーキはイスムさん達お得意のバシリスクリザード。やっぱり美味しいわあ。

 素材がいいと塩だけでも美味しいよね。って、調味料いらないよね。


 付け合わせはイモと玉ねぎをステーキを焼いた後のフライパンで炒めたものかな。バシリスクリザードの味が染み込んでおいしいけれど、ちょっと見た目がグロイわね。


 飲み物は赤果実酒。渋さが肉の美味しさを繰り返し感じさせてくれる。おっと、たくさん飲まないように気をつけなくっちゃ。

 棒パンも柔らかくなったからいただこうっと。


 最後のデザートは『十甜瓜デカメロン』をくし形に切ったもの。この甘さだと上から三番目くらいの玉かな。他の部分がどうなったのか気になるところだなあ。

 

 あら、ウキが何か物足りなさそうだな。

「母上、今日はこれだけか?」

「あらごめんなさい、今日お願いしたのはこれだけよ。足りなかったら外で何か求めましょうか?」

 ……。 

 何だよその目はウキ。お前、さっき焼きそばを食べたばかりだろう?

「ユーキ、一枚でいいんだ……」

 何が一枚だよ。

「肉……」

 わかったよ。


 サキ、中座させてもらってもいいかなあ。

「ごめんねユーキ、ウキが相変わらずアホの子で」

 いいってことよ。そしたら食後酒も何か持ってくる?

「頼めるかいユーキ。父様、母様、食後に『エクスタシトロンのモヒート』はいかが?」

「ほう、興味あるな」

「何かお客さんにやらせてしまうのは申し訳ないわ」

 いいってことよ。ちょっとまってな。

「ほらウキ、お前も手伝いに行くんだよ!」

 サキに説教されてやんの。ウキざまあ。


 で、再び屋台を置いてある部屋。

 肉の両面を焼き付けてから、休ませるためにリートのオーブンに入れておいて、その間にカクテルを仕込んでいくんだ。

「俺はここで食っていく」

 皆が飲み物を待っているんだから我がまま言うんじゃないよ。で、味はどうすんの?

「今日はバター醤油にしておこうか」

 何が『しておこうか』だよ阿呆。


「お待たせしました。こちらお試しくださいね」

 オレの後ろでウキがトレイに乗せたモヒートを運んでいるんだ。で、オレはそれを父様、母様、姉様の席に後ろからサーブしていったんだよ。

 ほれウキ、お前とオレは酔っ払わないように酒無しのフローズンだからな。

 あーあ、もう肉を食うことしか考えていないよこいつは。

 

「よい香りの肉じゃな。ウキ、わしにも一口くれぬか?」

「一口だけだぞ父上」

 こいつら似た者同士か?

「ほう、これは柔らかく仕上げてあるのう。この香りは魚汁ともう一つは乳酪か? それ以外にも香りと味付けに工夫がなされれおるのはわかるが……」

「わかるか父上。ちなみにこの肉は『鼻でか猪』の肉だ。百グラム二百エルだ。まいったか」

 ばらすんじゃねえよウキ! さっき百グラム五千エルのバシリスクリザード肉を食べたばかりだろ恥ずかしいなあ。

 何で硬直しているんだよお父様!

 

「サキ、この飲み物はさっぱりしていて美味しいわね。このレシピはどこで手に入れたのですか?」

「母様、それはユーキのオリジナルカクテルですわ」

 ちょっと待てサキ、オリジナルというほど大したもんは使ってねえぞおい!

 何でグラスとオレの顔を交互に見比べるんだよお母様!


「父様、母様、三日後の披露パーティの料理はユーキにお任せしようと思っております。これはルファーも合意済みですから」


 ……。


 沈黙が重いぜ。

 

「そうは言っても、お嬢ちゃん一人で百人分の食事を用意するのは無理であろう」

 おう、無理だな。

「実はリタイアメントキャッスルの『コンテストファイナリスト』が二組、この街にお見えになっているのです。既に協力をお願いできないか連絡済ですわ」

「それはすごい! じゃが、そのような腕の良い料理人がユーキさんとともに料理をしてくれるものなのか?」

 ウキの失礼な物言いは父親譲りだったか。

「心配するな父上。ユーキも同じファイナリストだ」

 何でお前が威張るんだよウキ。うう、お父様とお母様の驚いたような視線が痛いぜ。

「ウキは冗談をいう子ではありませんものね。それにそのステーキとこのカクテルは完成されていますわ。もしお願いできるのであれば、サキにお任せしますよ」


 そうね。イスムさんとザゼルさんがいてくれれば大丈夫かな。ダヤさんとキストさんも下ごしらえは手伝ってくれるだろうし。

 ……。

 何か大事なことを忘れているような気がするなあ。

 ……。

「あー!」

「何だいユーキ、いきなり大声を出して!」

「お前が脅かすから鼻からフローズンが出たぞ!」

 ごめんよユーキ、ウキ! でも忘れていたんだ! 『蛇姫馬メデューサホース』の解体をさ!

「ああ、そうだったね。ダヤさん達から宿は聞いているから、行ってみな。ウキ、お前が案内しておやり」


 後ろでお父様とお母様が笑っているのが聞こえるけど、背に腹は代えられないぜ! ほら行くよリート、リル、フル!


 小走りに街を進むと景色はお屋敷町から市場に戻る。

「ここだな」

 ウキが連れてきてくれたのは、イスムさんたち四人が泊っている宿。というか、これって食堂にしか見えないんだけど。

「どうやら空き家になっていた食堂をそのまま借りたらしいな」

 へえ、相変わらず豪快なおっさんたちだなあ。


 ごめんよ! おっさんどもいるかい?

「おうお嬢ちゃん、来ないかと思っていたぞ」

 そんなわけねえよイスムのおっさん!

「申し訳ない、ある程度解体は進めてしまったのだ。内臓を先に処理したくてな」

 それは仕方がねえよザゼルのおっさん。で、次はなんだい?

「たてがみ蛇と尻尾蛇の切り分けじゃ」

 へえ、どういう風にするんだろ。

「こうじゃよ」

 ふんふん。まず根元の皮をはぐのね。へえ、ザゼルのおっさんが言っていた通り、蛇の方の身は透明なんだ。根元の白いのは脂かな。

「正解じゃ。でな、この脂と肉の間に、蛇を操る筋がはりめぐらされておるのじゃ。じゃから脂と肉の間で蛇を切り取ってやるんじゃよ。蛇の根元に脂が残るようにな」

 こりゃ知らなきゃわからないよ。さすがだおっさんども。


 あ、ところで、サキ姉さまからお願いって来てる?

「おうおう、聞いとるぞ。サキが結婚するそうじゃの。それはわしらもぜひ祝いたいからの」

「お祝いもそうですが、私はまた三人の得意料理で構成するコースを考えるのが楽しみですよ」

 そうだねイスムさん、ザゼルさん! 明日また打ち合わせをしたいね!

「明後日の式もぜひ参列してほしい。その席でサキは皆さんを友人として紹介したいそうだ」 

「わしらも行っていいのか?」

「当然だダヤさん、キストさん、精霊獣達も連れてきてくれ」


 へえ、賑やかな結婚式になりそうだね。楽しみだな。


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