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ところで、こんなにでっかい馬をどうやって運ぶんだ?
「ここはジロベエの出番じゃよ」
へえ、カバさんが運ぶのかあ。でも、どう見てもカバさんより馬の方がでかいぞ?
そしたらキストのおっさんがカバのジロベエに命じたんだ。
「ジロベエ、『筋肉強化』じゃ」
うお! カバが膨らんだぜ! うはあ、マッチョなカバだぜ!
「ウキさんも『蛇姫馬』をこいつに乗せるのを手伝ってくれんかの?」
「お安い御用だ」
ということで、メデューサホースはおっさん五人がかりで、カバさんの背中に無事乗せられましたとさ。めでたしめでたし。
「おいアホの子、そろそろオレ達も街内に行くぞ」
何だよウキ! みんなの前でアホの子宣言するんじゃねえよ! おっさんどもも笑うんじゃねえ!
「あたし達はこちらからだね。ダヤさん達、お先にどうぞ」
サキが連れて行ってくれたのは旅人用のゲートではなく、住民用のゲート。『リタイアメントキャッスルの永久滞在証』はこの街でも使えるんだね。
「それじゃサキさんウキさんユーキちゃん、また改めてな」
おう、後でな!
それじゃオレ達も受付を済ませちゃおうよ。
「ユーキ、先に受付しちゃいな」
はーい。
オレは一番先に受付を済ませて、ゲートをくぐったんだ。続けてサキ姉さま。
って、フレンドリーだった受付のおっさんが、いきなり直立不動になっちゃったよ。何か慌てているけれど、どうしたのかな?
ん? サキが首を横に振っているわ。ご丁寧に何かをお断りをしているような様子ね。
「お待たせユーキ、それじゃ行こうか」
受付のおっさんがまだおろおろしているけど、いいのあれ?
「問題ない。それよりも腹減った」
それじゃ先に宿を決めようよ。
そしたらサキがちょっと恥ずかしそうな表情になったんだ。
「ユーキに紹介したい者がいる」
そしたらウキも何かを思い出したような表情になった後、ちょっと緊張した面持ちになったんだ。
どうしたんだろ?
それより早く宿を決めようよ! オレはメデューサホースをばらすのに立ち会いたいぜ!
サキの案内で進んでいくゴッドインパルスの街中は、これまでのどんな街よりも華やかだった。というか、荘厳というのかな。建物も道行く人も露店も、いちいち上品なんだよ。道行く人は色々な髪色だけど、露店やお店の人はほとんどが金髪族。どうもゴッドインパルスは金髪族の街みたいだね。
お、『珠苺』だ! おお、『十甜瓜』や『絶頂檸檬』も売ってるぞ! 『一角玉蜀黍』も普通に並んでいる。うは、あっちには『椰子実海老』や『鶏鼠』、『石化蜥蜴』の肉まで売っているぜ。
うおお、何だあのやたら頭がでかくて硬そうなマグロは!
「あれが『金槌鮪』だ。ユーキがツナにしたのはアレの赤身だろうな」
ありがとウキ。
しっかしすげえな。大都会だな。なんかわくわくしちゃうな。
でも、大都会だとアパートのお家賃も高そうね。
ねえサキ、ゴッドインパルスで家を探すとしたらいくらくらいからあるかなあ?
何だよその顔は。
「別にユーキからエルをいただこうとは思っちゃいないよ」
いえね、だってさ、新婚さんと同居ってさ、ほら、色々とね……。畜生顔が火照って来たぜ!
何だよそんなにおかしいかサキ?
「心配しなくても別棟があるさ」
あ、そうなんだ。って、結構大きいお宅なのね。
「ユーキ、お前マジでゴッドインパルスに住むのか?」
教えてやらねえよ。
そんなこんなしているうちに、風景は賑やかな通りから閑静な住宅街に移って行ったんだ。いわゆるお屋敷町って言うのかな。こんなところの宿って高くないのかな?
すげえ、お城がもうすぐの場所まで来ちまったよ。ねえウキ、あれがゴッドインパルスのお城かい?
「ああそうだ」
何だよ不機嫌そうだな。腹減ったか?
「ここだよユーキ」
ここですかサキ。
って、えーっと。オレには大きなお屋敷にしか見えないのですけど。
「遠慮するな」
遠慮するなって意味がわかりませんよウキ。何かの冗談ですか?
うへえ、普通に玄関まで進んでノッカーを鳴らしちゃうのね。
なんだろ? そう言えば紹介したい人がいるって言っていたよね。その人の家かな。
すると、開いた玄関の内側には、メイド服のおばはんが立っていたんだ。
「お待ちしておりました、サキ様、ウキ様。旦那様と奥様もつい先程ご到着になられました。それから事前に届きましたサキ様とウキ様のお荷物はお部屋にお運びいたしてありますので、ご確認くださいませ」
「ありがとうハンナ。ところで、この娘は私たちの大切な友人ですから、丁重にもてなして下さいね」
「かしこまりましたサキ様。すぐにお部屋をご用意いたします。そちらの荷車はどういたしますか?」
「一階にスイートがあっただろう。そこに荷車と一緒に通してやってくれ」
「かしこまりましたウキ様」
……。
えーっと。
「どうしたんだいユーキ?」
どうしたんだいとおっしゃられましても……。
「ユーキ、腹減った」
腹減ったとおっしゃられましても……。
ちょっと訳わかんねえよ。
「おお、着いたかサキ、ウキ。さすがはサキだな。 打ち合わせ日程通りの到着だ」
うお、何だこのガタイのいいおっさんは! でっかいぜ!
「ウキだけではこうはいかないかもしれませんね。それがウキのいいところでもありますけど。あら、サキ、ウキ、そのお嬢さんは?」
うお! 何だこの上品なおばはんは! 美しいぜ!
いよいよ訳わかんねえよ。こういうときはとりあえずウキの後ろに隠れておくか。
「あらあら、恥ずかしがり屋のお嬢ちゃんね」
おかしいかおばはん?
「なんだ、ウキの彼女か?」
遠慮ねえなおっさん。
「父様、母様、改めてご紹介いたしますから、まずは一休みさせてくださいな」
……。
お父様、お母様ね。
さて、オレどうしよう……。
「驚いたかい、ユーキ?」
並みの驚きじゃありませんが。
「ユーキ、もう限界だ」
お前はこの状況でオレに料理をさせるつもりか。
「それじゃウキ、ユーキを部屋に案内してくれるかい? あたしは事前に父様と母様に状況の説明をしておくよ。一休みしたら客間においでね。リートとリルとフルも来るんだよ」
「わかった姉さん。ユーキ、こっちだ」
勝手知ったる様子だなウキ。
「ほら、ここだ。屋台はこっちの部屋。お前の寝室は隣でいいだろう。でなユーキ、腹減った」
お前は乙女と二人っきりになってもそれかよ。
わかったよ。焼きそばでいいか?
「肉入りだ」
しょうもねえなお前は、青菜も入れるからな。でも、ちょっと緊張がほぐれたかも。
「ウキ、やけに時間がかかっているけど、まさかユーキにおかしなことをしてんじゃないだろうね! って……」
いきなり部屋の扉が開いてサキが部屋に入って来たんだ。
ちょうどウキは半泣きになりながら美味しい美味しいと焼きそばを堪能中。
「すまん姉ちゃん」
へへ。サキがウキをアホの子を見るような眼で見ているぜ。ざまあ。
その後オレはサキとウキから、正式にご両親を紹介されたんだ。お父様は水髪に茶の瞳、そしてお母様は漆黒の髪に灰色の瞳だったんだよ。
「ユーキちゃんと言ったか。サキとウキが世話になったな」
いえいえそれほどでも。しっかしこのおっさんもいい男だなおい。
「ユーキさん、サキから事情は聞いたわ。同じ黒髪同士、仲良くしましょうね」
うへえ。こんなきれいな人に笑顔でそんなこと言われちゃうと緊張しちゃうぜ。
「夕食のご用意ができました」
お、さっきのメイドさんかな。
「おおそうか。ちょうどいい感じに腹が減ったな。食事にするとしよう」
「ユーキさんもご一緒にね」
ありがとよお父様、お母様。それじゃ遠慮なく頂くとするぜ。




