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まもなく目的地

「ここまで仕掛けてくるとは予想していなかったよ」

サキが目の前の集団に微笑みながら話しかけている。

 ここは『ゴッドインパルス』に向かう最後の道。

 そして、オレ達の周りには、いかにも悪い人ですよという身なりのおっさんが十数名。

 おっさんたちは剣や槍を構えている。

 だけどおっさんたちはそれ以上動かない。いや、動けないのかな?

「ウキ、やっておしまい」

「わかった姉さん」

 次の瞬間、ウキは目に見えないほどの速さで、おっさんどもを倒していったんだ……。

「それじゃふん縛って街道にまとめて置いておきな」

「いつも通りだな」


 ついさっき、オレ達は街道で人相の悪いおっさんどもに襲われたんだ。

 ……。

 正確に言うと、サキ姉さまに「暴漢が来るから隠れておきな」と言われた後に、サキが言うとおりにおっさんどもが襲ってきたのだけどさ。

「あいつらも露骨になってきたねえ。ユーキ、大丈夫かい?」

 うん……。ウキもリルもリートもフルもいるから、怖いことはないよ。

 でも、あのおっさんたちの目的って?

「あたしとルファーの結婚を妨害しに来てんだよ」

 ケラケラと笑う姉さま。

 へえ、サキ姉さまとルファー兄さまの前にも、いろんな障害があるのね。ロマンチックだわ。おとめチックだわ。


 そしたらウキが道の先を指さしたんだ。 

「サキ姉、あれはちょっとまずいかもな」

 ん? なんだろ?

 って、あれ、『軍隊豚アーマーピッグ』の団体さまじゃないの!

 土煙を上げてこっちに突っ込んでくるよ!

 って、なんで姉さま、そんな余裕なの?

「ユーキ、お前の可愛い精霊獣さんたちに、『あれを止めろ』と命じてごらん」

 え

「ほら。三匹とも待っているよ」

 そうなの? うわ、久しぶりにサキ姉さまの腕から降りたわねリート、やる気満々ねリル、そんなに急かさないでよフル。

 

 それじゃお願い。『あのアーマーピッグを止めて!』


 次の瞬間、オレ達は赤と青と白の光に包まれたんだよ。

 そして光が収まったとき、軍隊豚は一斉に回れ右をして、元来た方向に駆けていったんだ。まるで逃げ出すようにさ……。

 

「これも予想通りだねえ。あいつらをけしかけた連中は今頃えらいことになっているだろうね」

 何なのサキ?

「お前の三銃士はとんでもない連中だということだよ」

 なんで『三銃士』の表現にご機嫌なのよ、リート、リル、フル!

 

 ねえ、なんでサキの結婚が、こんな風に邪魔されるの?

 オレの質問にサキは困ったような楽しそうな表情をしたんだ。

「いいかいユーキ、言葉では説明できないこともある。言葉だけでは無用の先入観を持たれてしまうこともある。今あたしがお前に言っていないこともある。ただ、それはあたしが口で説明するよりも、順を追ってお前に見てほしい、知ってほしい、そしてお前自身に判断して欲しいんだよ。わかってもらえるかい?」

 わかんねえよ。

 わかんねえけど、わかった……。

 

 最後の宿場町では何事もなかったんだ。

 気持ち悪いくらいに……。

 

 夕食を終えたテーブルで、サキは蒸留酒、ウキは白葡萄酒、俺は檸檬果汁を、ゆったりと食後酒デジェスティフにしていたんだ。

 久しぶりの三人での落ち着いた就寝前。

『ゴッドインパルス』到着直前の就寝前。

 だからオレは疑問を吐き出すことにした。

 

「ねえウキ、薬膳熊ハーバルグリズリーを倒した時にあなたが唱えた『武装召喚サモンアーマメント』って、魔法だよね?」

 勇気をもって質問したオレにウキは目を見開いた。

「いまさら何を言っているんだお前は?」

とさ。


「そういえばユーキは『魔法』は知らなかったんだよね」

 そうなのサキ。

 サキの『治癒ヒール』も魔法だよね?

「ああそうさ。それでね、前にも言ったかもしれないけれど、精神力の負担なしに精霊獣を操る魔法もあるんだよ。たしか、『精霊獣主エレメンタルマスター』といったかな。お前はこの魔法を無意識のうちに使っているのかもしれないね。ユーキ」

 そうなのリル、リート、フル?

 あれま、息を合わせたように頭を左右に振ったわね。そっか、違うのかも。

「ウキのは身体能力強化の魔法さ。でね、ユーキの世界ではどうなのか知らないけれど、こっちでは努力次第で魔法を一つ、身につけられるんだよ。その人間の『存在意義』としてね」

 サキの話は興味深かったんだ。

 この世界の魔法は『精神力』の具現化なんだ。

 で、それは人によって異なる性質と効果らしい。魔法が必要でない人に魔法は訪れない。魔法そのものを得ることに必死な人に魔法は訪れるけれど、その効果は無作為らしい。

 要はバランス。

 

 でも、サキは『治癒ヒール』以外にも魔法を持っているのでしょ? そうじゃなきゃ、ルファーさんが『サキがいれば問題ない』なんて言うはずがないし。

 

「お前の指摘通りだよユーキ。あたしにはもう一つの魔法がある。『悪意感知センスマリス』という魔法がね」

「姉さんが事前に探った悪意ある者たちを、俺が狩ってきたんだ」

 サキの『センスマリス』は、悪意ある者を探知するとともに、一定時間その判断力を鈍らせるよう、相手の精神に働きかける能力なんだって。これは普段から発揮されている魔法で、『治癒ヒール』のように、急激にお腹が減るものではないらしいんだ。


 ……。

 

 ウキが早朝にお腹減ったときって?

「俺の魔法で、悪意あるものを狩ってきたときだ」


 ……。


 怖い。

 怖い?

 ウキは人殺し?


「これがここまでの話だよユーキ」

 サキ姉さまの視線がオレに刺さる。


「ユーキ、俺が怖いか?」


 意識がぐるぐる回る。

 

 わかんねえ。

 わかんねえよ……。

 サキは憧れでウキはアホで頼りがいがあって、でも人殺しで、ところで人殺しが悪いことなら豚殺しのオレも悪い人じゃんわかんねえよ畜生!

 


'我らが君主よ 前の二人をごらんなさい'


 あ


 どこかからか聞こえた声らしきものに、俺は突然冷静になったんだ。


 目の前には心配そうにオレを見つめるサキと、泣きそうな表情でオレを見つめるウキ。


 あ、そうか……。

 これまでオレは二人に守られてきたんだ……。

 今までオレは自分のことだけを考えていればよかったんだ。

 それをサキもウキも許してくれていたんだ。

 でも、サキもウキも、これからはそうじゃなく、他のことについてもオレ自身で考えろと言ってくれているんだ。


「ありがとサキ、ウキ」

 

 そしたら姉さまが、これまでにないような優しい笑顔を浮かべてくれたんだ。

「ユーキ、お前はお前の料理に自信を持つんだよ。料理はお前の武器だからね」

 それに不愉快そうな顔でウキが答えた。

「武器は乱用してはいかんぞユーキ。ところで明日の朝食はなんだ?」


 ばーか。


 オレを舐めんなよ。

 食べたいものを言ってみなウキ。

 ウキが食べたいものはいつでもこしらえてやるからさ。

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