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甘酸っぱいんだ色々と

 次の街は目的地『ゴッドインパルス』

 サキの許嫁であるルファーさんが住んでいる街。

 サキとウキの話によれば、そこはあの『リタイアメントキャッスル』よりも大きな街だというんだ。すげえな。

 

 ねえサキ、ルファーさんってどんなお仕事をしているの?

「ん? 家事手伝いみたいなものかね」

 えー!

 それじゃあ安定した生活が望めないじゃないの! もしかしてサキも働くの?

「あたしの仕事は家事手伝いの手伝いかねえ」

 ええー!

 もしかしてルファーさんって親離れできていないの? ニートなの?

「ニートってなんだい?」

 引きこもりのことよサキ姉さま……。

 そしたらサキがケラケラと笑いだしたんだ。

「あのバカには多少は引きこもっていてもらいたいくらいだねえ」

 どうもサキとウキの話だと、ルファーさんはあっちをふらふら、こっちをふらふらしているらしいんだ。

 大丈夫かよ。

「ユーキ、袋が空になった」

 もう食っちまったのかよ。

「食うしかやることがないからな」

 何を拗ねてんだこいつは。

 まあいいや。ほれ、ウキ袋を貸してみろ。ネームマルベリーの街で沢山焼き菓子を焼いてきたから心配すんな。

 

「ところでユーキ、ルファーとの式には列席してくれるかい?」

 当然ですよ姉さま。

「翌日に披露パーティーもあるのだけれど、そちらも出てくれるかい?」

 いいの? それもでてもいいの?

「当然さ」

 うわあ! ちょっと楽しくなってきちゃったぞ。

 なら、よかったらパーティー用にお菓子を何か一品用意しようか!

「そう言ってくれると嬉しいねえ。ぜひ頼むよ」

 どんな式なのかな! どんなパーティーなのかな! 楽しみだなあ。

 あ、でも、おめかししなきゃならないよね。こちらのフォーマル衣装がわからねえや。日本ならとりあえずセーラー服で冠婚葬祭オールオーケーだったしな。

「衣装の心配はしなくていいよユーキ」

 そっか。姉さまがいれば街で選んでもらえるものね。


 そうこうしているうちに、一日めの宿場町についたんだよ。

 ん? なんだろこれ。

 市場で見つけたのは、白い皮から薄いピンク色が透けて見えている果実みたいなもの。大きさは赤ちゃんの握りこぶしくらいかな。

「それは『珠苺ボールベリー』だよ。この辺で栽培されているんだ。甘酸っぱくておいしいから食べてみるかい?」

 へえ、ちょっと興味があるなあ。

 お値段は一個百エル。安いのか高いのかわかんないや。

 それじゃいただきます!

 あら、皮は柔らかくて求肥ぎゅうひみたいだ。中身は甘酸っぱくてほんの少しだけ歯ごたえがある感触なんだ。ぺろりと一個食べちゃったよ。ああ、美味しいなあ……。

 って、これってまんま、あんこ抜きの『イチゴ大福』だよ!

 これって生以外の食べ方ってあるのかな?

「ボールベリーをそのまま食べる以外の方法は聞いたことがないねえ。お兄さんは何か知っているかい?」

 サキが店番のお兄さんに聞いてくれたけれど答えは一緒。

「そのまま食べる以外には聞いたことがないよ」

 そっかあ。

 試しに皮を実からはがしてみようとしたけれど、無理でした。すぐにちぎれちまうぜ。

 あ、そうだ。

「お兄さん、十個ちょうだい!」

「ユーキ、そんなには食べられないよ」

「いや、俺は食う」

 サキもウキもちょっと待っててね。ここはリルの出番だからさ。

 

 ということで宿に到着。

 今日の夕食は、余った豚骨スープをベースにしたポトフなんだ。

 定番野菜に加え、ソーセージやパンチェッタも一緒に煮た、具だくさんスープなんだよ。

「こうして食べると、ラーメンとはまた違った風味が出るねえ」

 いいでしょ、主婦の知恵みたいでさ。

「俺はこれも好きだが、ラーメンの方がさらに好きだ」

 わかった。街についたら嫌というほどラーメンをこしらえてやるから待っていろ。


 そしてデザート。

 さて、リル冷蔵庫冷凍木箱の様子はどうかしら。

 ふっふっふ。

 期待通りだぜ。オレ大勝利。

 オレは冷凍木箱からボールベリーを三個取り出して、食べやすいように四等分にカットしてから、横にホイップクリームを絞り、そこにクラッカーを刺してあげたんだ。

『お手軽ベリーシャーベット』だぜ!

 イチゴを凍らせると、しゃくしゃく感が堪らなくなるのだよ。皮も期待通り柔らかいままだ。

 これは美味いぜ。

「冷たくて甘酸っぱくてしゃくしゃくしているねえ。皮とクラッカーも、よい口直しになるよ」

「ユーキ、お前は天才だ!」

 オレじゃなくてリルがすごいのだけどな。

 大喜びの二人の様子にリルは大威張り。ちょっとこれはまずいわね……。

 リートがいつも頑張ってくれるから美味しい料理をいつもこしらえられるのよ! フルのお陰でみんなの食べ物を運ぶことができるのよ! あなた達も大事よ!

 って、何を今さらって顔をしたなお前達!


 ん? 何を考えこんでんだいサキ姉さま。

「ねえユーキ、リル。お前達はどれくらいの大きさの箱まで、ここまで冷やすことができるのかい?」

 どうなのリル?

 え、その気になればこの大陸全体を『氷地獄コキュートス』にできるって? なんて物騒なのこの子は。え、お望みなら『炎熱地獄ブレイズインフェルノ』にするけどって、しなくていいのリート! 何よ時代のトレンドは『暴風地獄ストームヘル』だなんて、誰もそんなこと聞いていないわよフル!

 疲れるなあ、この子達の相手は……。

 ……。

「姉さま、とりあえず、いくらでも大丈夫みたいです……」

「そうかい、ありがとね」

「披露パーティーのデザートか? 姉さん」

「ええ、相手方あいてがたを驚かせる必要もあるからね」

「ならば披露パーティの料理自体をユーキに任せてみたらどうなんだ?」

 なんだよその良いこと言った感たっぷりのドヤ顔は。

 サキも何で呆けているんだよ。

「ユーキ、そういうことなんだけどさ。手伝ってもらえるかい?」

 任せなサキ姉さま! 人数と食べたいものをあらかじめ言ってくれれば、何とかするぜ!

 

 ということで、今日も無事に夕食終了。次の村に一泊したら、明後日はいよいよ『ゴッドインパルス』だ。

 色々考えなきゃね。衣食住ってホントに大事だわ。

 リートもリルもフルもずっと一緒にいてね。

「にゃあ」

「わん」

「ぶるる」

 久しぶりにお前達の声を聞いたかな。それじゃ、お休みなさい。

 

 ……。

 

「ウキ、お客さん。屋根に1 裏口に2 窓の下に1」

「わかった姉さん」

「ここからは『殺し』は無しだよ」

「わかっているさ」


 ……。


 もうこの重さには慣れました。

 お前、何時だと思ってんだよ。

「ユーキ、腹減った」

 はいはい。すぐにお肉を焼くからオレの腹の上から頭をどけてくれよ。

 

「美味い! 美味いぞユーキ!」

 そうかいよかったな。本当においしそうに食べるよなお前は。

 屋台に肩肘ついて、ウキの食べっぷりを眺めていたら、不意にオレは思い出したんだ。

 サキの結婚式が終わったら、ウキは故郷に帰ってしまうんだって。 

 ……。


「ユーキ、お前はゴッドインパルスに住むのか?」


 食べながらしゃべるんじゃねえよ。同じ質問ばかりしやがって。

 でもオレ自身もわかっていたんだ。ウキから質問されるたびに、オレの心が揺れているってことに。

 一人になることを恐れていたころに比べたら、贅沢な悩みだってわかってはいるけれど。


 でもさ、でもさ……

 ねえ、ねえ……

 もしも、もしも……

 

「ユーキ! おかわりだ!」


 雰囲気ぶち壊しだよ! このど阿呆!

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