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どうしよっかな

「それじゃごちそうさん。また来るね」

「来なくていい」

「来るな」

 サキもウキも冷たいね。待ってるよルファー兄さん!


「それじゃ明日には出発するからね。最後の支度をしておくんだよ」

 はーい。それじゃ今日はアレを食べちゃわなきゃ。ボリューム的には昼食の方がいいよね。


 最後の旅は三日間らしいんだ。それに合わせて食材も揃えておこうっと。

 当たり前のようにウキが市場についてきてくれる。オレももう怒るのはやめておこうっと。

「ユーキ、今日の昼飯は何だ?」

 ラーメンだよ。

「うおお! マジか! 久しぶりだな!」

 しかもお肉たっぷりだよ。

「なあユーキ、お前、本当にサキ達とゴッドインパルスに住むつもりなのか?」

 何を突拍子もないことを突然聞いてくんだよ。まだ決めてねえよ。 

 

 よし、一通り買い物も終了したし、お昼ごはんを食べてから街の見物をして、夕ごはんを食べてから寝るのね。ああ、幸せだわ。

 夕ごはんはかつ丼にしようと思ったけれど、やっぱりアレにしよう。


 ということでお昼どき。

 昨日から仕込んでいたのは『豚骨スープ』と『バラチャーシュー』なんだ。

 麺は生棒パンを製麺機で極細に仕立ててあげるんだ。沢山仕込んでおこうっと。

 そしたらチャーシューはうすーく切ってやり、ネギも刻んでおく。紅ショウガはないけど代わりに小メロンをたくあん代わりにかじってもらおう。

 

 それじゃいきまーす。

 まずはチャーシューの煮汁を丼に入れ、そこに豚骨スープを注いであげる。

 そしたら麺茹で開始。

 茹で時間は三十秒。

 麺が茹で上がったらチャーシューとネギのシンプルな具材を乗っけて出来上がり。

『豚骨ラーメン 麺かため』だ!

 

「へえ、スープがくどいかと思ったら意外とあっさりしているんだねえ」

 そうでしょサキ。食べやすいと思うよ。

「おかわりだユーキ!」

 はいよ。ありゃま、スープも飲んじゃったのね。これじゃ替え玉は無理だな。


「ヘーイ! グッドタイミングゥ!」

 お、来たなルファーの兄さん! 

「これはまた変わったものを食べているね。何だいこれは?」

 おう、豚骨ラーメンだぜ!

「こりゃまた珍しい味だね! 材料はなんだい?」

 豚の骨だぜ兄さん!

 ん? 兄さんもオレのことをアホの子を見るような目で見るのか?

「お嬢ちゃんは冗談が下手だなあ。鶏の骨ならともかく、豚の骨からこんな味が出るわけないだろ」

 今度はサキとウキが勝ち誇ったような顔をしているね。

「ルファーはものを知らねえなあ」

 うわあ、ウキが挑戦的だよ。

「ユーキ、アレを見せてやんな」

 はいよ姉さま。

 

 ほれ! よーく見ろ。

 オレがルファー兄さんに見せたのは出汁をとり切った後の粉々になった骨。

 驚く兄さんの表情が愉快だぜ。

「ちょっと待っててね」

 ん?

 そしたらルファー兄さんはいったん外に飛び出して行ったんだ。で、連れてきたのはこの宿屋の主で食堂の料理長でもあるラグエ爺さん。

「おい爺さん、こんな調理法はこれまであったか?」

「骨を煮てもアクがものすごくて食えたもんじゃないはずじゃが……」

 そのアクの向こうに美味しい世界が広がっているんだよ。

「これを食べてみろ。ユーキちゃん、もう一杯な」

 はいよ。まかせな。

 

 ……。

 あーあ。ラグエ爺さんが黙りこくっちまったよ。

「なあ嬢ちゃん」

 ん?

「恥を忍んでの願いじゃ。このスープの作り方、それからこの糸のようなものの調理方法を教えてくれんか?」

 構わねえよ。

「いいのかい? ユーキちゃん!」

 麺はこの前に、よその村で教えてきちゃったけどいい?

「どこの村だい?」

 こっちから見るとパインビーチの向こうかな。

「なら大丈夫だ。そこは銀髪族のエリアだからね」

 よくわかんねえや。 


 結局その日の午後はラグエ爺さんと宿の厨房で豚骨スープの仕込みをやっていたんだよ。

 ウキのアホはともかく、サキ姉さまにおやつを残してきてないのが心残りだわ。

 って、アレがあるじゃないの!

 ラグエ爺さん、ちょっとだけ時間頂戴ね。


 部屋に戻ったら、サキ姉さまとルファー兄さんは何かの打ち合わせ中。ウキはお昼寝中。

「おや、戻ったのかい?」

 違うの。デザートをこしらえに来たんだよ。

「へえ、ユーキちゃんはデザートもこなすのか」

 おう、ちょっと待っていろよ兄さん。

 

 オレは手袋をして、リル冷蔵庫から、さらに小さな木箱を取り出したんだ。

 この箱の中はマイナス二十度の世界。ダメ元でリルに冷やせるか聞いたら、必要なら絶対零度にするという恐ろしい回答が返ってきた、いわくつきの箱なんだ。

 で、箱の中身は半分に割ったデカメロンの大が二つ。

 その中身をアイスディッシャーで一つづつ取ってあげる。片方は白地に淡い緑。もう片方はキラキラした透明な輝きを散らばせた緑なんだ。

 大メロンの果肉にミルクを混ぜ合わせたのが淡いミルクの方。レモンりんごや絶頂檸檬の果汁も加えてからクラッシュアイスを混ぜ込んだのがキラキラした緑の方。

 

『メロンアイスとメロンシャーベット』だよ。冷たくておいしいよ。


「これはきれいだよユーキ」

「うわあ、冷たくて甘くてさっぱりしているなあ。これもユーキちゃんのオリジナルかい?」

 これはリルがいないと無理だな。

「ユーキ、俺もだ」

 お、起きだしてきたかい。ちょっと待ってな。 


 ということで、豚骨スープの伝授も無事終了。お礼は宿代無料だよやったね!

 それじゃ夕食の準備をすっかな。

 

 今日の夕食はたっぷりの軍隊豚肉を使った『豚丼』なんだ。ああ、お肉が柔らかくておいしいわ。

 醤油ベースのタレも絶妙よね。ご飯も最高。

「なんだなんだ、サキもユーキも、いつもこんなにおいしいモノを食べているのか! これは本気でユーキちゃんをゴッドインパルスに引きとめなきゃならないね!」

 嬉しいことを言ってくれるなあ、ルファー兄さんは。

 ん? 何で不機嫌になってんだウキ? 肉が足りねえか?

「足りない! 色々とな」

 わかったからでっかい声出すなよ阿呆。

 何でニヤニヤしてんだよサキ!


 ということで、今日も無事終了です。


 そして翌朝。

 当たり前のように一緒に朝食を食べているルファー兄さん。

 ちなみに今日はソーセージとツナマヨのトルティーヤ。それに豚の脂身でこしらえたこってりスープ。

「もう驚くのにも疲れたよ。ユーキちゃんはゴッドインパルスでお店を始めてみないかい? 材料のルートは俺が探してあげるからさ」

 今日も会話が絶好調なルファー兄さん。何故か知らないけどウキの方をちらちら見ながらニヤニヤしている。

 そうだよね。お店を開かせてもらうのが一番だよね。

「どうすんだいウキ?」

「うるせえ」

 ん? ウキもゴッドインパルスに住むのかな?

「この子は家に帰らなくちゃならないからねえ」

 あ、そうなんだ。家ってどこなの?

「『サンライズブリッジ』のもうちょっと先さ。あたし達の故郷だよ」

 そっか。

 って、じゃあ、ゴッドインパルスに着いたら、サキとウキはお別れになっちゃうんだ……。

 ……。 

 

 そしたらルファー兄さんが席を立ったんだ。

「ちょっと今ゴッドインパルスがごたごたしていてね。サキがいるから大丈夫だと思うけど、気をつけておいでね。それじゃ俺は先に帰って色々と準備をしておくからさ」

 サキ姉さまがいるから大丈夫? ウキの間違いじゃないの?


「それじゃウキ、ユーキ、あたしたちも出発するよ」


 ネームマルベリーの街を出ると、今度は丘を縫うように走る道。

 そっか。ゴッドインパルスは目的地ではあるけれど、それで最後ってわけではないものね。

 サキとルファー兄さんと同居かあ。

 新婚夫婦にあてられるのはちょっときついモノがあるな。それならアパートを借りて近くに住まわせてもらうのもありだよね。そしたら昼間は『デーモンロード』で営業してさ。時々サキ達に夕食をごちそうするのも楽しそうだものね。

 はっ! 将来のために離乳食も考えておかなきゃならないわ。やることが多すぎてオレ困っちゃう!

 ……。

「おいアホの子」

 ……。

「おいアホの子」

 ……。

「おい!」

 何だよしつけえなあ。乙女の妄想を邪魔するんじゃないよ!

「水たまりだ!」


 じゃぶん


 ……。 

「なにやってんだいこの娘は……」

 ごめん姉さま……。

「ぼーっとしているからだ! ぼーっとな!」 

 お前に言われたかないよウキ。

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