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金髪族のルファーさん

 おいこらウキ! さっさと棒パンを削ったらんかい!

「なあユーキ、さすがにその物言いはきついんじゃないか?」

 何だよ文句あんのか! グズグズぬかしてるとエビ揚げねえぞ! さっさと『粗引き』と『普通』で削ったらんかい!

「うっす……」


「何だい? やけにユーキのご機嫌が斜めだねえ」

「サキとウキがイジメすぎなんだよね、ねえユーキちゃん」

 あら、いつの間にかサキとルファーさんが寝室から戻ってきたよ。心なしかルファーさんの左の頬が腫れているように見えるのは、きっと気のせいだな。触れないでおくことにしようっと。

 

 さてっと、取り出したりますのは『軍隊豚アーミーピッグ』のロース肉とヒレ肉。

 ウキのアホとルファーさんにはロースを厚切りにしてやる。サキ姉さまとオレはちょっと薄めで食感を楽しもうっと。

 ヒレ肉は一口サイズだよ。

 肉は筋切りをして、塩とスパイスで下味をつけておく。

 エビも下処理をして剥き身にしてから串に刺しておくんだ。

 で、実験結果に従って、バッターワームを水でちょうどいい柔らかさまで調整する。

「ユーキ、できたぞ」

 ご苦労。

「む、俺はこれがいい」

 わかったから肉を指さすなよ。お前のは厚切りに決まっているだろ。

 そしたら青菜を千切りにして水にさらしてから、ざるに上げておく。

 それじゃ仕上げを始めるかな。

 

 まずは鍋にたっぷりの油を張って熱してあげる。

 そうしたら手早く肉をバッターワームに通し、次に衣をまぶしてあげるんだ。ちなみに使用するのは『普通』の衣の方。細かい衣だと上品に仕上がるんだぜ。

 そしたら油に投入。先に時間のかかる野郎ども二人のを低温から中温で揚げてしまおう。

 よっしゃ、頃合いかな。

 揚がったら網を敷いたバットに一旦上げるんだ。ここでの余熱で、中まで火が通るんだよ。

 そしたら今度はサキとオレの薄いロース肉。

 続けて一口ヒレ。次にエビ串。

 エビ串はウキのリクエストで『粗引き』の衣。カリカリだぜ。

 そして最後にウキとルファーさんのを高温で二度上げしてやるんだ。


 よっしゃ『軍隊豚アーミーピッグのとんかつ二種エビ串添え』の出来上がりだぜ。

 付け合わせは青菜にマヨネーズをかけたの。パン代わりに生棒パンの素焼きピザをつけておくからな。

 ソースも壺から出しておこう。

「へえ、ただのバッターワームフライじゃないんだ」

 変わっているだろうルファーさん。

「ユーキはアホの子だが、料理だけは美味いぞ」

 余計なお世話だウキ。

 それじゃいただきまーす!

「これはこのままかぶりつくのかい?」

 あー。ナイフを忘れていたぜサキ。すぐに持ってくるね。 

「ぐわっ! 熱い!熱いぞユーキ!」

 揚げたてにいきなりかぶりついたらそうだろうな。アホが。

 

「へえ、バッターワームフライみたいにふわふわしているんじゃなくて、サクサクしているんだね。歯触りが心地いいよ」

「これは肉にも程よく火が通っているね。肉汁がすごいよ。ウキの言うとおりユーキちゃんは凄腕だよ!」

 嬉しいこと言ってくれるねえルファーの兄さん。


 とんかつはかつ丼にもしたいなあ。でも明日はアレがあるからなあ。かつ丼は今度にしようっと。

「ん? 俺達のとユーキたちのは厚さが違うのか?」

 おう。お前はアホだからたくさん食うと思って厚切りにしたがな、衣とのバランスを考えたらこっちの方がいいんだよ。

「ちょっとよこせ」

 遠慮ねえなこの野郎。ほれ、一切れ食べてみな。

「じゃあ俺はサキからもらおうかな」

「この一口のはヒレかい? これは柔らかくてさっぱりと食べやすくていいねえ」

 うわ、サキ姉さまはルファーさんをガン無視だ。

 しかしルファーさんもまるっきりへこたれてねえぜ。さすがだ。

「エビもカリカリだ!ユーキ、俺はこの衣で豚も食いたいぞ!」

 はいよ。また今度な。

 ということで、本日の夕食も無事終了。


「いやあ、美味しかったあ」

 ありがとな兄さん。

 そういや、こうして改めてみると、ルファー兄さんも見とれてしまうほどのイイ男だな。

 何でオレ、こんなかっこいい人と二人で時を過ごしていたのに、気付かなかったんだろ?

 

「こりゃユーキちゃんをお嫁さんにしたくなっちゃうね!」


 え?


 ごきっ!

 

 え?

 

 何でサキ姉さま、グーパンチなの? ルファーさんふらふらしてるじゃないの!

「余計なこと言っていないで、とっとと帰りな」 

「サキは乱暴だなあ。そんなに嫉妬しなくてもいいのに」


 ごきっ!

 

 うわ、ノックダウンだ!

 

「いい加減にしないと尻に火をつけて窓から叩きだすよ!」

 うへえ! こんなに激しいサキ姉さまは初めてだよ! ウキも見て見ないふりをしているよ。オレもとりあえずウキの背中に隠れておくか。

「もう、痛いなあ。それじゃサキ、ウキ、ユーキちゃん、また会おうね」

 すげえ、テンカウント前に立ちあがったぜ。

「さっさと出て行け!」

 最後はサキ姉さまの蹴りがルファーさんの尻に決まったんだ。


「騒々しくてごめんよユーキ」

 いえいえ、そんなことはございませんとも。ところで、ルファーさんって何者なの?

 ……。

 何で二人して困ったような表情をするのよ。オレってそんな迷惑な質問したか?

「まあ、幼馴染だねえ」

「兄貴分みたいなもんだ」

 ふーん。また何か隠しているなこいつら。

 もういいや……。自立することを考えよっと。

「それじゃもう寝る。サキ、ウキ、お休み」


 オレはさっさとベッドにもぐりこんだんだ。おいで、リート、リル、フル……。


 眠れねえなあ。

 自立するったってどうすればいいのかな。

 つらくなることしか思いつかないや。

 帰りたいな。

 帰り……たいの……。

 帰り……。

 サキ……、ウキ……。


 ……。

 

 畜生、今日も朝が来ちゃった。こんな憂鬱な朝は久しぶりだなあ。

 朝ごはんどーしようかな。なんにもこしらえる気が起きないや……。

 もう、野菜スープと棒パンでいいや。

 

「ユーキ、おはよう」

 ……。

「ユーキ、腹減った」

 ……。

 だめだ。返事をする気力もないや……。

 

「どうしちゃったんだいこの子は……」

「ユーキ、腹でも痛いのか?」

 あーもう! 放っておいてよ! って!


「おはようサキウキユーキちゃん! 今日もいい朝だな!」


 何だよこの『トイレの百ワット』は……。

 無駄に明るいなあ、ルファーの兄さんは。

「何だよ辛気臭いなあ! ユーキちゃん、オレにも朝食ね! お、今日はオーソドックスに野菜のスープかい! お兄さんこういう地味なのも好きだよ!」

 あれま。昨日グーパンチを受けたのに、平気でサキの隣に座るなんて、度胸あるわね。

「ユーキ、お前のご機嫌が悪いのは、こいつの素性をあたし達がお前に教えてやらないからだろ?」

 なんだよそれだけじゃねえよ! って、何で図星かって顔でため息をついてんだよサキ。


「こいつがあたし達の幼馴染おさななじみだというのは嘘じゃないよ」


 さいですか。


「こいつはあたしの『許嫁いいなずけ』なんだよ」


 さいですか。


 って……、え、ええっ!

「そうなんだよユーキちゃん、だから残念ながら俺はユーキちゃんとは結婚できないんだ! それでも良ければ一夜を共にしてみるかい? 一晩中寝かさないぞう!」


ぶすん!


……。

 うええ。サキ姉さまの左肘が見事にルファー兄さんの脇腹にめり込んでいるよ……。

 あそこって、確かレバーじゃなかったかな……。さすがのルファー兄さんも悶絶しているわ。

 うへえ、ウキもものすごい目でルファー兄さんを睨んでるよ。おっかねえな。 

「こういう奴だもんでね。あんまりユーキには絡ませたくなかったんだよ」

「とにかくおちゃらけた上に女癖が悪いという評判でな」

 ひでえ言われようだな。

 ん。どうしたのサキ、真顔になってさ。

 

「実はこの旅はね、あたしがこいつのところに嫁入りするための旅なんだよ。ウキは護衛代わりさ」

 え?

「こいつはゴッドインパルスに住んでいるんだよ。だから目的地もそこなんだ」

 ……。

「でねユーキ、よーくお聞き。お前さえよければ、お前はあたし達夫婦と一緒にゴッドインパルスに住む選択もあるんだよ」

「ユーキちゃんなら大歓迎だよおにーさんはさ!」

「少なくともお前が望まない限り、あたしたちはお前を一人きりにするつもりはないからね」

 ……。

「それは困る! 困るぞ姉さん!」

 ……。

 

 あ、涙が出てきちゃった。

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