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のめりこむのが大事なの

 この街の市場も活気がすごいね。衣芋虫バッターワームをはじめとするお目当ての食材は全て手に入ったよ。棒パンの工場もすぐに見つかったしね。よかったよかった。

 ん? 何だいこりゃ? 小さめのメロンみたいな実がブドウのような房になっているよ。

 おっちゃん、これは何だい?

「これは『十甜瓜デカメロン』という果物だ。ひと房に必ず十の実がついている」

 へえ、でも、それぞれがちょっとずつ大きさも色も違うね。

「それぞれ味も違うからな。大きくなるにつれて酸味が弱くなり、甘みが強くなる。歯ごたえも小さいものはこりこりしているが、大きなものはねっとりとしているぞ」

 へえ、それぞれ違うのね。 ばら売りはしないの?

「ばら売りにするとどうしても人気不人気が出てしまうからな。デカメロンは必ず十個セットで買ってもらっている」

 そっか。それじゃ買ってみるかな。ちなみにお値段は十個三千エル。お高いわね。

「ユーキ、眠くなった」

 はいよウキ。それじゃ帰ろうか。

 ということで、本日も一日無事終了。

 

 ということで翌日の朝。

 まずは昨日の十甜瓜デカメロンを十個それぞれ半分に切って、味見をしてみたんだ。

 一番小さな実はゴルフボールくらいで、徐々に大きくなって、一番大きな実がハンドボールくらいの大きさになっているんだ。

 どれどれ。

 ……。

 へえ、小さいのはメロンというよりカブとかに近いかな。水分が少なくてカリカリしているんだ。漬物みたいで口直しなんかによさそう。

 中くらいのはまさしくメロンだね。小さめのは歯触りがあって酸味が残っている。大きめのは実が柔らかくて甘みが強くなっている。

 これは普通にデザートに使えるなあ。スプーンでくりぬいて果実酒に漬けてもおいしそうだね。

 で、問題は大きいの二つ。この二つは実を割った瞬間にねっとりとした果肉がこぼれだすほど柔らかいんだ。ほぼ液体だよ。そして甘い。爽やかなんだけどひたすら甘いんだ。

 うーん。これは困ったなあ。食べ方を店のおっさんに聞いてくればよかったよ。

 とりあえずこの二つは、実をボウルに移しておこう。


「おはようユーキ。今朝はパンケーキかい?」

 おはようサキ。そうだけど、なに乗せて食べる?

「ユーキ、腹減った」

 わかったからちょっと待っていろウキ。

 って、二人にお試してもらうとするかな。

「あ、二人ともパンケーキが焼きあがるまで、これを試してみてよ」

 オレは二人の前に切り分けたデカメロンを置いたんだよ。


「おや、デカメロンかい?」

 サキは知っているんだ。

「まあね。こいつは酸味と甘さが絶妙だからね。大好きな味だよ」

 中くらいサイズをサキは気に入っているみたいね。お色気お姉さんとメロンってなんというセクシーな組み合わせなのよ。

「小さいのはさっぱりしていて肉の口直しになるからな。肉だ肉」

 お前もそう思うかウキ。って、朝食ステーキの準備を忘れていたぜ。

「でさ、サキ、ウキ。これはどうすればいいと思う?」

 オレはボウルに移したトロトロの果汁とスプーンを二人に渡したんだ。

「うわ、これは甘いねえ。ちょっとあたしには甘すぎるよ」

「ん? オレはシロップよりこっちの方が好きだぞ」

 そっか、それじゃウキを実験台にして試してみるか。

 

 焼いたパンケーキに、サキにはいつものようにバターとシロップ、ウキには中メロンを一口サイズに切ったのと、大メロンの果汁をかけてみたんだ。 

 どうかな?

「おう、美味いぞユーキ。オレはやはりこっちの方が好きだな!」

「どれウキ、少しよこしてごらん。あらまあ、これだとシロップよりくどくない上に、ほんの少しだけ残った酸味が爽やかでいいわ。これはそのまま食べるよりもこうしてなにかと合わせた方が美味しいよ」

 そっか。シロップと使い分ければいいのか。

 うは、アイデアが浮かんじまったよ!

 

「それじゃユーキ、あたしは出かけてくるけど、お前はどうするんだい?」

 今日は一日やりたいことがあるから、宿にこもっているよ。

「それじゃ荷物持ちにウキを借りていくよ」

 おう、持っていけ。

「ユーキ、あのな……」

 ほれ、ウキ袋にパイとクッキーを詰めといたぞ。思う存分食え。

 そんなにうれしそうな顔をするんじゃねえよ。


 よし、今日は一日こもるぜ。リート、リル、よろしくね。フルは一日お休みしててね。

 まずはもらってきた豚骨を下茹で。

 うおお! アクがものすごいぜ。すくいがいがあるぜ!

 下茹でが終わったら、リルの流水でひたすら豚骨を洗うんだ。

 そしたらコラーゲンがたっぷり出るように骨を砕くんだけど、なになに、それはボクがやるって? そうだね。ここはフルにお任せしよう。

 

 ごんごんごんごん!

 

 素晴らしいわ。フルの蹄で粉々だわ。

 そしたら水を張った寸胴に豚骨を入れてからリートの出番。

 煮立ったら再びアク取りなの。ああ、アク取りって、いかにもお料理してますってしぐさで楽しいよね。

 で、アクが出なくなったらしょうがニンニクやネギをはじめとする常備野菜を投入! そしてこのまましばらく煮込むんだ。

 

 続けて分けてもらった肉からバラの部分を亀甲縛りよ。やん、大人の世界だわ!

 そしたらフォークで全身をぶすぶすぶす! やん、スプラッタだわ!

 スプラッタの次は表面をこんがり焼いて、これも野菜といっしょに別の鍋に投入。コトコト煮てあげる。ああ、たまらないわ!

 さあ、アクよかかってきなさい! 根こそぎ殲滅してあげるからね!

 あーん、楽しいわ!

 

「楽しそうだな」


 ……。

 

 おい、いつからそこにいたんだウキ。

「骨の前で踊っているとこら辺からだが……。お前、マジで頭大丈夫か?」

 

 ……。

 

 よし、切り替えだ!

 ウキ、暇ならちょっと手伝え。

「なんだユーキ?」

 お前、ちょっとハンドル式製粉機で、棒パンを削ってみてくれよ。目盛は『超粗引き』からだぞ。

「わかった」

 ごりごりごりごり……。

 その間にオレはバッターワームを用意して、いくつかに小分けし、徐々に水で薄めてみるんだ。

 うーんと、これくらいの粘度でいいかな。

「ユーキ、『超粗引き』『粗引き』『普通』ができたぞ」

 よしよし。そしたら試験を開始するか。

 軍隊豚の肉はもったいないので、ウキ大好きの鼻でか猪肉を一口サイズに切り出し、串に刺してやる。

 で、薄めたバッターワームを絡ませてから、ウキが削った棒パン粉をまぶすんだ。

 本当は小麦粉、卵液、パン粉の順だけど、肝心の小麦粉がない。なので薄めたバッターワームで小麦粉と卵液のところを代用するんだ。 

 そしたら油を熱した鍋に投入!

 じゅわー。

 大きなあぶくがだんだん小さくなって、全体が浮いてきたら揚げあがり。


「で、こりゃなんだ? ただのバッターワームフライじゃないだろ?」

 そうだよ。これで『串カツ』の出来上がりだよ。


 ほれ、食ってみろ。まずは『超粗引き』だ。

「ガリガリ言ってるぞユーキ! 中はふっくら外はガリガリだ!」

 ほんじゃ『粗引き』

「カリカリ言ってるぞユーキ! 中はふっくら外はカリカリだ!」

 最後に『普通』

「サクサク言ってるぞユーキ! 中はふっくら外はサクサクだ!」

 で、どれが好みだい?

「カリカリかサクサクだな、ガリガリは口の中に刺さったぞユーキ!」

 そっか、お勤めご苦労。

 こりゃ『普通』でサクサクが無難かな。

 ついでにアメリカンドッグも多めに揚げておくか。

 ん? どうしたウキ。

「エビも揚げてくれ」

 わかったよ。それじゃ市場で買っておいで。


 この実験結果はサキにも披露したいから夕食にとっておこう。それじゃお昼の準備とするかな。

 そういやサキは昼食は戻らないって言っていたな。それじゃウキの買ってきたエビを中心にランチにしようっと。

「ユーキ、買ってきたぞ! 『カリカリ』で揚げてくれ!」

 揚げものは夕飯まで待つのだウキ。だからってそんなに悲しそうな顔をするなよ。

 その代わり二人っきりでのお昼ごはんは、そのエビを半分使って美味しいモノをこしらえてやるからな。


 ということで、お昼は二人でエビグラタン。

「熱い、エビとイモが熱いぞユーキ」

 わかったからおとなしく食え。

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