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食物連鎖って難しい

「ユーキ、大変だ! 鼻血が止まらん!」

 そりゃそうだろ。あれだけ『興奮鰻ステロイール』を食った後に『精力落花生スタミナッツ』のパイをドカ食いしたら、のぼせない方がおかしいぜ。

「お前は多少は血を抜いておいといた方がいいかもしれないからね。文句を言わずについてきな」

 それもひどいと思うぞサキ姉さま。

「ほれ、上向いてこれを鼻の付け根に乗せてろ」

 オレは徘徊蔓ワンダラーバインからとった乾燥蔓に、リルが用意してくれた氷を入れて即席の氷嚢をこしらえ、ウキに渡してやったんだ。 

「これは冷たくていいぞ!」

 そうかい、よかったね。なら頑張って早く鼻血を止めろよな。

 

 オレ達はパインビーチの街を後にして、次の街に向かったんだ。

「次の『ネームマルベリー』までは三日ほどかな、途中に面白い名物を出す村があるからね、楽しみにしておくんだよ」

 面白い名物? ウキが言うならともかく、サキが言うならいろいろと深く面白そうね。

「よし、鼻血が止まったぞ。ところでユーキ、腹減った」

 お前はまた鼻血を出すつもりかウキ。


 ということで、初日は宿場村でウキのシャツについた鼻血を石化蜥蜴塩バシリカリで洗ってやるだけで終了。きれいに落ちたわ。さすがアルカリ性。

 夕食もいつものメニューから。さすがにバリエーションも限界に来たぜ。

 そしてお休みなさい、

 今日は平和だったね。


 さて翌日。オレ達は宿場村を出て、次の村に向かったんだよ。

 そうこうしているうちに、景色は草原から再び海沿いに代わっていったんだ。

 とりあえず草スライムと浜スライムはアホみたいに集まったから、もう取らないでいいぞウキ。


 ん?

「ほら、あれだよユーキ」

 あれって?

「この辺の名産『その一』さ」

 サキ姉さまが指をさしたほうには、蝶の群れのように飛んでいる一団。ただ、やたら『カチカチカチカチ』と騒々しいんだ。

「あれがこの辺の名物、『飛行蛤フライングクラム』だよ」

 へえ。


 お、誰かが投網みたいのを投げたぞ。

 うわ! 見事に一網打尽だ。近くで見てみたいな。でもちょっとおっかねえな。

「ユーキ、見たければ連れて行ってやる」

 うは! こういう時に男性って頼りになるよね! 行く行く!

 オレはウキから差し出された左手を自然に右手でつかんでついていったんだ。頼むぜ通訳!

「あら、お前たちどうしたんだい!」

 後ろからのサキの驚く声も、屋台ごとおっかけてくる三匹の気配にも、もう慣れたぜ。


「見事なもんだな爺さん」

「ん? 旅の者か? 悪いが村のルールで、ここでフライングクラムを売ることはできんぞ」

「いや、こいつが料理好きでな、ちょっと見せてくれるだけでいい」

 こいつ呼ばわりかよ。

「そういうことなら歓迎じゃ。村で購入してくれればありがたいしな」

 こりゃすごいや。蛤が貝殻を羽にして飛んでいるんだ! 中身が丸出しだよ!

 大きさは俺が知っている蛤より小ぶりかな。コガネムシが蛤になったようなサイズだ。

 これは面白そうだなあ。

「ねえお爺さん、これってどうやって食べるの?」

「お前さんが料理好きの嬢ちゃんか。わしの村での名産は、これを網の上で焼いたもんじゃな。甘くて旨いぞ」

 うは、それはまんま焼き蛤だ!それは絶対においしいに違いないよ!

「砂出しはしなくていいの?」

「こいつらはその身を軽くするためだろうな。陸に上がってくる間は自ら砂出しを済ませてくるんだ」

 へえ。


 で、素朴な疑問。

「ねえお爺さん、なんでフライングクラムはわざわざ陸に上がってくるの?」

「原因はあれじゃよ、あれから逃げておるんじゃ」

 爺さんが指さしたのは海岸の沖。

 そこには何隻かの船が浮かんでいる。

「船から逃げてきているの?」

 なんだよそのアホの子を見るような眼は。そりゃオレだって人の船から逃げるためにわざわざ陸に上がるなんておかしいと思ったけどさ。つい口に出ちゃったんだよ!

「お嬢ちゃん、よーく見ているがいい」

 ん?

「ユーキ、あいつがこの辺の名産『その二』さ」

 うひゃあ!

 サキ姉さまが指さした先で黄金のでっかい魚が海面から思いっきりジャンプしたんだ!

 

「あれが『黄金鯱ゴールデングランパス』じゃ。ちなみに魚ではないぞ。獣の仲間じゃ」

 うーん。あれって昔、どっかで見たことあるような気がするなあ。主にお城の屋根とかで……。

 

「あ奴から逃げるためにフライングクラムが陸に上がるようになったという説もあるのじゃ」

 へえ。そうなんだ。

 で、沖の船は何をするの?

「あいつらはゴールデングランパスを狙っておるのじゃよ」

 マジかよ!

 

 うわあすげえ! これが捕鯨ね、捕鯨なのね! 船からモリが次々と投げられているわ。

 でも、危なくないの?

「世の中に危なくない狩りなどあると思うか嬢ちゃん?」

 そっか、そうだよね。うわっ、一船転覆したよ! おっかねえよ!

 うへえ、海が真っ赤に染まっていくよ……。


 海岸からフライングクラムがどんどん陸に飛んで逃げているけど、爺さんはもう狩りをしていないんだ。

 爺さん、狩りはやめなの?

「さっき捕らえたので十分じゃ。あとはこの後、海に帰って繁殖してもらわねばならんのでな」

 そっか。そうだよね。

 

「ユーキ、そろそろ行くよ」

 はーい。サキ姉さま。

「それじゃお嬢ちゃん、村で会えたら蛤を買ってくれよな」

 おう、任せとけ爺さん。

 

 うお!

 村は大騒ぎだよ!

 そりゃそうか。あれだけの大物が揚がったんだものね。

 次の宿場村は、水揚げされた『黄金鯱ゴールデングランパス』を取り囲んで、村人さんたちが旅人も巻き込んでの大騒ぎだったんだよ。

 

「ウキ、ユーキ、とりあえず今晩の宿を押さえておくよ」

 そうだねサキ姉さま。

「おや、お嬢ちゃんたち、グランパスの解体ショウは見ていかないのかい?」

 そんなオレ達に声をかけたのは、さっきの飛行蛤漁をしていた爺さんなんだ。

 ちなみに爺さんは金髪族。村の人もほとんどが金髪族かな。

「こんなお祭り騒ぎだからこそ、先に宿を押さえようと思ってさ」

 サキ姉さまの言葉に爺さんが期待通りの返事。

「ならうちの宿に泊まらんか? 馬車格納スペース付き三人で一人一万五千エルで構わんぞ」

 うーん。これまでの宿に比べるとちょっと高いかな。って、昨日はただで泊まったか。

「それでお願いできればありがたいね」

 サキ姉さまは了解みたいだ。

「爺さん、さっきのフライングクラムは売ってもらえるのか?」

 お、ナイス質問だよウキ。

「直売はできんが、市場に案内してやるからそれでいいかの」

 そうしてよ爺さん。


 オレ達は爺さんの宿に案内してもらってから、もう一度広場で大騒ぎしている黄金鯱ゴールデングランパスの解体ショウに戻ったんだ。

 さすがに皆さん手馴れているなあ。

 いろんな部位が次々と手際よく切り分けられていくんだ。

「ユーキ、グランパスでは何か料理は思いつくのかい?」

 うーん。基本は獣肉だからなあ。じいちゃんにも「クジラは捨てるところがない」と教えてもらったけど、そもそもオレ、生のクジラ、実際には親戚のシャチだけどさ、見るの初めてなんだもん。

「そうかい。それじゃ今日の夕食は村で黄金鯱を食べさせてもらうとするかね」

 そうしてくれるとうれしいよサキ!

 でもさ、その前にお願いがあるんだ。

「なんだい?」

「焼き飛行蛤フライングクラムを食べに行こうよ!」

「ナイスアイデアだユーキ!」

 ウキの同意も得られたからさ、宿の爺さんのところで焼き蛤を食べようよ!

「お前は本当に分かりやすいねえ」


 それは褒めてんのかサキ姉さま? 

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